7節 神の名前はゴータマ(8)
「騎馬兵は丘の上に攻め登れー!弓矢兵は神殿を攻撃しろ!」
独裁者が大声で命令している。
その方向に向かって、ヴィシュヌが巨大なうちわを振り下ろすと、敵兵達と独裁者は強風にあおられて倒れてしまった。
「うわっ、ヴィシュヌめ!強風を使えなくしてやる!火のついた弓矢でどんどん家を燃やせー!」
起き上がりながら独裁者が弓矢兵達に号令すると、丘の麓の家々に火がついた。
「うちわを使うと火が街全体に広がってしまう。卑怯な独裁者め!私が独裁者を倒して、敵軍を撃退するぞー!」
ヴィシュヌは、丘の上に逃げ帰ってきた馬に飛び乗ると、独裁者に向かって丘を駆け下りた。
「一騎打ちとは望むところだ。どこからでもかかって来い!」
ヴィシュヌに向かって叫びながら、独裁者は部下の騎馬兵達に丘の上を攻撃するよう目で合図した。
独裁者の剣とヴィシュヌの剣がぶつかって、するどい音を立てる。
二人の剣の腕前は拮抗していて、なかなか勝負がつかない。
「お父様は独裁者に勝てるかしら・・・」
ヴィシュヌの娘、リヤが神殿から出て、丘の麓で闘っているヴシュヌを見ようとした。
その背後から敵の騎馬兵が近づいたが、その足音に気づいたリヤが逃げ出した。
「助けてー!こんな近くに敵がいるよー!」
リヤが叫ぶが、味方の騎馬兵は数の多い敵の騎馬兵に遮られて、リヤを助けることができない。
リヤは丘の下に向かって必死に逃げる。
しかし、石につまづいて前にジャンプするように転んでしまった。
「あーっ、ヒスイの玉がー・・・」
首に掛けて大事にしていたヒスイの玉が、前方の井戸の中に落ちて行った。
城壁の外で倒れているヒロとケンは、まだ動けない。
「この薬を飲んで、ヒロ!ケンも飲んで!」
ミウが二人に忍者の薬を飲ませた。
しばらくすると、ヒロが目を開け、続いてケンが意識を回復した。
「ヒロ、大丈夫?今度のケガはひどかったね」
ミウがヒロの顔をのぞき込むと、ヒロがミウに微笑んで答えた。
「うん、今度は痛い目にあったけど、ミウの薬に助けられたよ」
「ケンはまだ目を開けないけど、気がついたんでしょ!」
ミウがケンの頬をたたくと、ケンが目を大きく開けた。
「イテテ、ヒロだけじゃなくて、俺にも優しくしてくれよ!」
リヤの声を聞いて丘の上に駆け上ったサスケは、リヤに襲いかかる敵兵の鼻に噛み付いた。
「うわっ・・・」
その敵兵は、顔から血を流して馬から落ちた。
そこに味方の騎馬兵が駆けつける。
「リヤ様、大丈夫ですか?」
敵の騎馬兵と味方の騎馬兵の戦いが始まった。
その隙にコタロウがリヤの手を引いて、神殿の中に連れ戻した。
一方、一騎打ちをしているヴィシュヌと独裁者の決着はまだつかない。
「うわっ、なんだ、こいつ!」
突然、カゲマルが独裁者の頭を跳び越えて、馬の目を思いっきり引っ掻いた。
馬が驚いて大きくジャンプすると、独裁者は馬から落ちそうになった。
「隙ありー!」
ヴィシュヌが独裁者の頭を目がけて剣を振り下ろした。
「うわっ、危ない!」
独裁者が必死にヴィシュヌの剣を避けたが、独裁者の右腕は剣を握ったまま遠くに飛んで行った。
「ウググー」
唸り声をあげて、独裁者が馬から落ちた。
すぐに敵の騎馬兵が大勢駆け寄ってきて、独裁者を馬に乗せた。
「しっかりして下さい。自陣に戻って早くケガの手当てをしましょう」
部下の言葉にうなずいて、独裁者は声を絞り出した。
「ひっ、引き上げるぞー!」
敵の騎馬兵が、独裁者を囲むようにして城外に出ていく。
続いて弓矢兵達が城外に出た時、城外にいたヒロが弓矢兵達に幻術をかけた。
すると弓矢兵達が、城外に出ていた火薬兵達に向かって火のついた弓矢を放つ。バーン、ドーン、轟音とともに火柱があちこちで上がった。
この街を爆破しようとして多量の火薬を持っていた敵兵達は、火だるまになって倒れたり逃げ惑ったりした。
「侵略者ども、これでもくらえー!」
ケンが渾身の力を込めて強力な「地竜」を放つと、敵兵のすべてが総崩れになって敗走した。
「城内の人達は大丈夫かな?」
そう言って、ミウが城内に向かって走りだした。
ヒロとケンも続いて城内に入った。
「あーっ、これは・・・」
目の前の光景に、ミウは言葉を失った。
「ああー、街の家や建物がみんな燃えている・・・」
城内の惨状を見たヒロは、大きなショックを受けている。
「とにかく、丘の上の神殿に行こう。この街の指導者がいるはずだ」
ケンがミウとヒロの背中を押して、歩き出そうとした。