7節 神の名前はゴータマ(7)
*** アーッ、この街が燃えているー!大変だー!・・・
まだ遠くてよく見えないはずなのに、タリュウが大声を上げて地表に近づいていく。
*** ほんとにこの街が燃えているぞ!母さんの言った大変なことって、このことだろう・・・
ジリュウも急いで地表に近づいていくと、サブリュウも後に続いた。
一方、シリュウは奈良の校長のところへ先生を連れて行かなくてはならない。
「校長よりこの街を救うことが大事だー!シリュウ、俺もこの街に連れて行けー!」
スガワラ先生がシリュウの耳をつかんで大声で訴えた。
*** 母さんがスガワラを奈良に連れて行けって言うから、勝手なことはできないよ・・・
シリュウは先生が落ちないように気をつけて、さらに未来に向かって下降していった。
先生は何度も後ろを振り返り、ジタバタしながら遠く小さくなっていく。
「どうして奈良の校長先生は、スガワラ先生だけ呼んだのかなあ?私達だけでこの街を救えるか不安だよ」
ミウが不安な表情を見せると、ケンが無理に笑顔を作って答える。
「俺達はすごーく強くなったから、先生がいなくても大丈夫だよ、ミウ!」
街の建物が一つ一つ見えるところまで近づいた。
日が落ちて空は暗くなったのに、街全体が赤く燃えている。
ヒロ達は急いで影宇宙を出て、丘の上の神殿の裏に現れた。
「空から燃える玉がたくさん落ちてきて、家の屋根を燃やしているんだ」
ヒロが指差す空には、多数の小型熱気球が浮かんでいる。
敵の陣地から風に乗って、この街の上空に飛んできたようだ。
燃料が残り少なくなると、燃える玉が家々の上に落ちてきて屋根を燃やす仕掛けになっている。
この街の庶民の家はレンガの壁と茅葺きの屋根で出来ているので、火がつくとたちまち屋根が燃えてしまう。
「城壁の外で戦っていた騎馬兵の一部が戻ってきたぞ。ゴータマの時代と変わっていないなあ・・・」
ケンが言うとおり、ゴータマ時代のカルキ軍と同じような制服と武具を身につけている。
「あれっ、敵の軍隊が城壁に近づいて、火のついた弓矢を打ち込んできたよ。ヒロ、ケン、敵を撃退しようよ!」
ミウが言ったとたんに、ヒロとケンが丘を駆け下りた。
ヒロ達が城壁の外に出ると、千人ほどの味方の騎馬兵が二千人ほどの敵の騎馬兵に攻められていた。
その敵の騎馬兵の後ろに二千人ほどの弓矢兵がいて、火のついた弓矢を城壁の中に向けて放っている。
さらにその後ろに、火薬を使って攻撃する武器を持った千人ほどの敵兵が続いている。
「この街の騎馬兵に何度も撃退されたから、アンコクが新しい攻撃法や武器を独裁者達に教えたんだろう。このままでは味方の騎馬兵が全滅して、この街が陥落してしまうぞ。行こう、ケン!」
ヒロがケンに合図をすると、ケンが敵兵目掛けて「地竜」を放った。
メリメリッと地割れが走り、驚いた百頭ほどの敵馬が騎馬兵達を振り落として逃げ出した。
ヒロはつむじ風になって、城壁を取り囲んでいる敵兵達の頭上をかすめて飛び回った。
驚いた敵の騎馬兵や弓矢兵達が浮き足立つと、指揮をとっている独裁者が大声を上げる。
「逃げるなー!敵にだまされるなー!前に進めー!」
態勢を立て直した五千人の敵兵に攻められると、味方の騎馬兵は城壁の前で倒れたり、城壁の内側に逃げ帰ったり、総崩れになった。
「俺に続けー!敵陣を突破して、独裁者を倒そう」
ケンが渾身の力を振り絞って最大級の「地竜」を放つ。
続いてヒロが大きな竜巻になって、敵陣を突破しようとする。
「竜巻の中心に弓矢を打ち込めー!」
独裁者の号令とともに、無数の弓矢がヒロに向けて放たれた。
「そこの大柄な少年にも弓矢を放てー!」
さらに独裁者が号令すると、ケンにも弓矢が降り注いだ。
「あーっ、ヒロ、ケン・・・」
ミウが悲痛な叫び声をあげた。
ヒロの竜巻の中心から、血のついた弓矢が次々と風に舞い上げられて敵兵の上に落ちてきた。
一方、多くの弓矢が刺さってハリネズミのようになったケンは、うなり声を上げている。
「よーし、城内に攻め込めー!」
独裁者が号令をかけると、敵の騎馬兵達が城内になだれ込んだ。
城内では庶民の家々が燃えて、大勢の住民が丘の上に向かって逃げている。
丘の上の神殿には、この街の指導者、ヴィシュヌとその家族がいた。
「みんな、神殿の中に避難しなさい。子供やお年寄りは神殿の奥に入りなさい」
ヴィシュヌの指示に従って、住民達が整然と神殿の中に避難していると、丘の下から大声が聞こえてきた。