7節 神の名前はゴータマ(6)
数日後、文字が出来上がると、リグがゴータマの部屋に駆け込んできた。
「お父様、お父様、文字が出来たから、書き残したい大切なお話をしてください。お父様の大切なお話は、リグが書き残すわ」
「それは素晴らしい!ありがとう、リグ。しかし、お話をする前にアムリタとミウにも会って苦労をねぎらいたい」
ゴータマがリグを抱き上げているところへアムリタとミウが入ってきた。
「リグはまだ幼いから、大切なお話を書き残すのは無理よって言ったのですが、どうしてもリグが粘土板に書きたいんですって」
アムリタが笑顔でゴータマに伝えると、ミウもリグの熱意を支持する。
「リグが考えた文字は独創的で覚えやすい文字です。最初のお話を書き残すのは、リグしかいないと思います」
「最初のお話を上手に書けたら、その次のお話もリグが書くことにするわ」
ゴータマに抱き上げられたまま、体を動かしながらリグが言った。
その夜、みんながゴータマの家の食堂で夕食を食べていると、サスケがヒロの耳に口を近づけて何か囁いたように見えた。
「出来るだけ早くサーヤを捜しに行かなくてはならないので、明日の朝、竜の子供達を呼びたいと思います。ゴータマさん、ヒスイの玉に朝の光を当てたいので、ヒスイの玉を貸してください」
ヒロがゴータマと家族に向かって伝えると、リグが悲しそうな表情で訴えた。
「もう行っちゃうの?リグがいっぱい文字を書いてしまうまで、どこにも行かないで、ヒロ!」
「そうだよ、もっと忍術を教えてくれよ、ミウ、ケン」
カルキも名残惜しそうにミウとケンを見る。
ミウは、リグがヒロを慕っているのが気になったが、ケンにとってはカルキがミウを思う気持ちが気になった。
「リグ、カルキ、この人達はサーヤを捜しに来たのだから、もうお別れしなくてはならないよ」
ゴータマが優しく諭すと、リグとカルキは寂しさを抑えてうなづいた。
翌朝、朝日が昇る頃、ゴータマの家と大きな建物の間にヒロ達とゴータマの家族が集まった。
ヒロがゴータマからヒスイの玉を預かり頭上にかざすと、太陽の光はヒスイの玉を美しく輝かせて天に向かって伸びて行く。
すぐに天空のカーテンが開くように空の青色が明るくなり、四匹の竜が顔を出した。
*** 伝えなくちゃならないことがあるけど、影宇宙に戻ってから言うよ・・・
タリュウがヒロの心に直接話しかけた。
*** おいら達の母さんがどこに行ってるか分かったよ、ゴータマさん・・・
ジリュウはみんなの心に伝わるように話しかけた。
「じゃあ、この人達を早くお前達の母親のところに連れて行っておくれ」
ゴータマがみんなを見渡すと、リグがヒロの前に立って通せんぼをする。
「ヒロ、ヒロ、まだ行かないで、行かないで・・・」
「それは無理よ、リグ。ヒロは友達の命を助けに行かなくてはならないのよ」
アムリタに抱きかかえられて、リグはじっとしている。
「ゴータマさん、アムリタさん、カルキ、リグ、お世話になりました。ほんとにありがとう」
スガワラ先生が礼を言ってシリュウに乗ると、ヒロとサスケがタリュウに、ミウとカゲマルがジリュウに、ケンとコタロウがサブリュウに乗って上昇する。
ゴータマとアムリタは、言葉にしなくても感謝の気持ちがみんなに伝わることを知っているかのように、空に向かって合掌している。
カルキとリグは天空を見つめているが、涙が溢れて何も見えない。
影宇宙に戻ったヒロは、早速タリュウに話しかけた。
「伝えたいことって、何なんだい?」
*** この街の未来に大変なことが起きるから、みんなをそこに連れて行くようにって、母さんが言ったんだよ・・・
タリュウがみんなの心に伝えると、今度はシリュウが話しかけた。
*** 奈良の忍者学校の校長がスガワラを捜しているから、急いでスガワラだけ校長のところに連れて行けって、母さんが言ったんだ・・・
「エーッ、お前達の母さんに会って、サーヤのいるところに連れて行ってくれるんじゃないのかあ」
ヒロが落胆の声をあげると、ミウが不安な気持ちを口にする。
「スガワラ先生が奈良に戻っちゃうのに、私達子供だけでこの街の大変な時代に行けっていうの?」
*** 母さんの言うとおりにしていれば、すぐにサーヤのところに行けるよ・・・
ジリュウが自信ありげに言うと、サブリュウも落ち着いて語りかける。
*** 子供たちといっても、ブラフマーやゴータマからいろんな術を伝授されたから、みんなはすごく強くなったじゃないか・・・
四匹の竜は、未来に向かってどんどん下降していく。