7節 神の名前はゴータマ(2)
相変わらず優しい声でゴータマが説明すると、今度はケンが小さな声で続きを催促する。
「じゃあゴータマさんは、どうしてこんなに立派な街と建物を造れるようになったんですか?ブラフマーさんが造った街や建物に良く似ていますよ」
「そうであれば大変うれしい。ブラフマー神は、オリンポスの国のデウス神から教えてもらったそうだが、私は慈愛の国の神様から教えてもらっている。その神様は姿を見せないが、夢の中で建物や街の造り方を分かりやすく見せてくれる。それだけじゃなくて、街の人々が幸せに暮らせるように、善悪の区別、善への導き方、悪の防ぎ方、生まれる前と死んだ後の世界なども、私が理解するまで見せてくれる」
ゴータマはケンに答えた後、天を見上げて手を合わせた。感謝の気持ちを表しているようだ。
「ここがゴータマさんの家ですか?」
ゴータマが入っていく家を見て、思わずヒロが声を上げると、スガワラ先生が続いた。
「こりゃあ驚いた。ブラフマーの家にそっくりだ!オリンポスの国と慈愛の国は何か関係があるのですか?」
「ブラフマー神の街や建物を知らないから、私には分からない。しかし、そんなに似ているのなら、オリンポスのデウス神が慈愛の国の神様から教えてもらったのか、あるいはその逆かもしれない」
ゴータマに続いてみんなが家の中に入ると、妻のアムリタが奥から出てきた。
「みなさん、ようこそ。うちの子供たちと同じくらいかしら。三匹の可愛いお友達も、ゆっくりして行きなさい」
スガワラ先生がみんなを紹介していると、奥からカルキとリグが出てきた。ゴータマの長男と長女だ。
「君達、三人兄弟?でも、それぞれ違う顔をしているな」
大きな目と高い鼻を持つカルキがよく通る声で聞くと、すぐにケンが首を横に振った。
「兄弟じゃないよ。同じ中学校の同級生だよ」
「中学校って何なの?同級生も分からないわ」
広い額ときれいな目をしたリグが、困ったような顔をすると、ゴータマが笑顔で話し出した。
「ハハハ、分からなくてもいいんだよ。この人達は、千年も前のハヌマーン神の時代からやってきたのだから。いや、もしかしたら、四千年も前のブラフマー神の家にも行ったことがあるのかもしれないよ」
「まあ、なんて不思議な人達なんでしょう。さあ、奥に入ってくださいな」
アムリタ、カルキ、リグは驚いているが、みんなを歓迎している。
「これがヒスイの玉だよ」
ゴータマがヒスイの玉をヒロに渡すと、サスケが鼻を近づけて匂いをかいだ。
みんながサスケに注目していると、サスケはリグの前に座って顔を見上げた。
「サーヤの匂いが強く残っているようだ。しかし、サスケはリグに遊んでほしいらしい」
ヒロがサスケの代わりに説明すると、ケンとミウが顔を見合わせる。
「ここで遊んでいるより、早くサーヤを捜さなくちゃあ」
「二人の心配は分かるけど、一日くらいは我が家で休んでいきなさい」
ゴータマがミウとケンに優しく話しかけ、妻のアムリタとスガワラ先生を伴って食堂に入った。
子供達は居間に移って、動物達と遊びながら話をする。
「サーヤと母さんが半年前にここに来た時、サーヤは何歳くらいだったの?」
ヒロがサスケをなでながら聞くと、カルキがコタロウとじゃれあいながら答える。
「五歳か六歳くらいだったなあ。リグは妹ができたみたいに喜んで、よく遊んだよ」
「サーヤは、お父様が大切にしているヒスイの玉を気に入って何度も触っていたわ」
リグはカゲマルの尻尾をつかんだまま、サーヤを懐かしがった。
「半年前に来たサーヤが五歳か六歳なのに、僕達は十三歳になっている。ということは、サーヤは僕と別れた時の年齢で影宇宙を通って、この時代の半年前に現れたということだ」
ヒロは不思議な現象を受け入れ難い気持ちで、ミウとケンの顔を見た。
一方、食堂に入っていったゴータマは、スガワラ先生に小声で話し始める。
「ようやく必要な建物や道路が完成して、この街が大きく発展し始めたのに、最近気になる噂が流れているのだ」
「それは、アンコクという神様を信じる北の方の人々がこの街を攻撃しようとしているという噂ですね?」
アムリタが噂の内容を話すと、スガワラ先生は目を大きく見開いたまま声を絞り出した。
「うーん、アンコク・・・ 手ごわそうな名前ですなあ。早いうちに叩き潰しておかないと、将来大変なことになりますよ」
「えっ、どうして将来のことがわかるのか?この街の人々は戦いを好まないから、どうすれば良いか、知恵を貸してもらえないだろうか?」
ゴータマが手を合わせると、アムリタもスガワラ先生の目を見て手を合わせた。
「この街全体が慈愛の国になっているから、人々は戦いを好まないのですな?しかし、外敵に攻撃されたら防御して撃退しなければならない。幸い、私も子供達も防御と戦いの術を身につけているので、この街の人々に教えることができます」
美しいアムリタの頼みを断れないスガワラ先生は、すぐに了解してしまった。