7節 神の名前はゴータマ(1)
タリュウに乗って影宇宙に戻ったヒロが、みんなに話しかけた。
「さっき天から聞こえた声は誰の声だったんだろう。ヒスイの玉は私が受け継いでいるって言ったような気がする・・・」
*** それはゴータマさんの声だよ・・・
自信たっぷりにタリュウが答えると、ジリュウが付け加える。
*** おいら達の母さんは、ゴータマさんと親しいから間違いないよ・・・
影宇宙の中は暗いのか明るいのか分からない。
時折大きな月が目の前を通り過ぎるのが見えるから、地球の近くの宇宙空間に浮かんでいると思えばいいのか。
ジリュウに乗ったミウが、横にいるサブリュウに声を掛ける。
「そのゴータマさんって、誰のことなの?」
*** もちろん、おいら達の友達のゴータマさんだよ・・・
サブリュウが得意顔で答えると、ケンが笑いながらシリュウに聞いた。
「ハハハ、それは分かったけど、そのゴータマさんは、この街の指導者なのかい?」
*** なんだ、そんなことが知りたかったのか。ゴータマさんはものすごく賢いから、多分そうだと思うよ・・・
時間を移動するために地表から遠ざかっていたが、ゴータマを見つけたのかタリュウが地表に近づいていく。
*** ゴータマさんが見えてきただろう、ヒロ。ほら、あそこだよ・・・
「丘の上で手を上げてみんなに何か指図している、あの男の人かい?」
ヒロが後ろを振り向くと、ジリュウがサブリュウに何か言っている。
*** いきなり天から大勢の前に出たら大騒ぎになるから、ゴータマさんだけ建物の中に来てもらおう・・・
ケンがゴータマを見ていると、上を見たゴータマが何も言わず一人で近くの建物の中に入っていく。
すぐに四匹の竜は同じ建物の天井から顔を出した。
*** ゴータマさん、タリュウだよ!ハヌマーンさんの友達を連れてきたから、ヒスイの玉を見せてやってね・・・
ジリュウ、サブリュウ、シリュウもゴータマに挨拶をしている。
上を見ているゴータマの周りに、ヒロ達四人とサスケ達三匹が現れた。
「お前達にはいつも驚かされるなあ、千年も前のハヌマーン神の時代の人達とは・・・」
背の高いゴータマがみんなの顔を見ると、スガワラ先生が身振りを交えて話し始めた。
「・・・という訳で、サーヤという女の子の行方を捜しているのです」
「夕べ夢の中で誰かがヒスイの玉を捜していたので、ヒスイの玉は私が受け継いでいると言ったのだが、あなた方が捜していたのか。サーヤという女の子なら、母親と一緒に半年前に私の家に来て、数日後にどこかへ旅立って行ったよ」
ゴータマが淡々と説明すると、ヒロ、ミウ、ケンは飛び上がって喜んだ。サスケ、カゲマル、コタロウも飛び跳ねている。
「その母娘は誰に連れられて、どこに行ったのですか?」
スガワラ先生がゴータマを見上げて質問すると、背の高いゴータマが先生の肩に手を置いて静かに答えた。
「母娘をここへ連れてきて、どこかに連れて行ったのは、あの四匹の竜の親だが、残念ながらどこへ連れて行ったのか私は知らない。四匹の竜の親に聞けば、行き先が分かると思うが・・・」
「サーヤの行き先を早く四匹の竜の親に聞きたいけど、その前にヒスイの玉を見せてくれませんか?」
ヒロの頼みに優しい笑顔で答えると、ゴータマはヒスイの玉のある自宅に向かって先頭に立って歩き出した。
「今はハヌマーンの時代から一千年後だから、現代から七千年前の時代ということだよな」
ケンが大きな声で話し出したので、ミウがケンに静かに話すよう合図をした後、ゴータマに質問した。
「街の人達が笑顔で挨拶してくれますが、私たちを警戒しないんですか?」
「私は街のみんなを信頼している。だからみんなも私を信頼し、私と一緒にいる人達を信頼するのだよ。これは、四千年も前のブラフマー神の時代から変わらず続いている。ただ、ブラフマー神が造ったカンベイ湾に近かった街は、ハヌマーン神の時代に海に飲み込まれてしまった。ハヌマーン神は、海に沈んだ街の人々を連れて海から遠く離れた土地を求めて移動したのだ」
微笑みながら話し始めたゴータマの顔を見上げて、ヒロが小さな声で問いかける。
「ハヌマーン神の時代にこの土地に移住したんですか?」
「いやいや、そんなに簡単ではなかった。ハヌマーン神やその子孫は、移住した土地で氷河から溶け出した洪水に何度も襲われたらしい。そうして千年もの間、安全な土地を求めて移動を続け、ようやくこの土地に移ってきたのだ。しかし、移住を繰り返している間に、ブラフマー神が造った街や建物の造り方の記憶が失われてしまい、みんなは粗末な家を建てて暮らしていたのだ」