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6節 超古代のカンベイ湾(9)

翌朝まだ暗いうちに、クリシュナがスガワラ先生を起こしに来た。

「本当にデウスの知恵を授かることができた。お礼として、街のみんなが目覚める前に、あなた方を神殿に案内したい」


クリシュナの後について、みんなは丘を上り古い神殿の前に立った。

それはギリシャのパルテノン神殿のような装飾が施された見事な神殿だ。


「俺達が去った後もブラフマーは街を発展させ、ついに神殿まで建てたんだ」

スガワラ先生が感慨深げに見上げると、中に入っていたヒロが続けた。


「これは、ブラフマーがデウスに感謝して建てた神殿だけど、その子孫がブラフマーとサラスヴァティー、そしてパールヴァティーを神様として祭ったようです」


「あの可愛かったパールヴァまで神様になったなんて、きっと立派な大人になったんだなあ」


ケンが上を見ると、お婆さんになったパールヴァが八人の賢い息子娘達に囲まれている様子が見えた。ケンも千里眼の能力を修得できているのだ。


丘の上から街全体が見渡せる。

街はブラフマーの時代よりかなり大きくなったが、はるか遠くに見えていた海が今はすぐ近くまで迫っている。


「氷河が溶けて、川が氾濫したり海面が上昇したりするので、将来この街が水没するのではないか、という恐怖にさいなまれていた。しかし、今朝デウスから様々な知恵と技術を教えてもらったから、街のみんなが安全に暮らせるように指導できる。お礼に竜の母親を呼んであげよう」


クリシュナが天に向かって手を伸ばすと、四匹の子竜が顔を出した。


*** 母さんは遠いところに行っているから、ここに来られなかったよ。もうすぐ明るくなって街のみんなに見つかるから、急いでおいら達に乗って・・・


タリュウが、ヒロ達の心に直接話しかけた。

みんなはクリシュナに別れを告げて、それぞれ四匹の子竜に乗って影宇宙に入った。


九千五百年前から未来に向かって下降のスピードを上げると、ヒロがみんなに話しかけた。


「今度こそ遠回りしないで、サーヤがヒスイの玉を触った時代と場所に行こうよ」


*** 母さんがいないから、どの時代のどんな場所に行けばいいか分からないよ・・・


猛スピードで下降していたジリュウが、困ったような表情で体をひねったので、ミウとカゲマルが滑り落ちそうになった。


「あっ、危ない!カゲマル、大丈夫?」

ミウが右手でジリュウの耳をつかみ、左手でカゲマルの体を抱きかかえた時、突風が吹き抜けた。


強い風に巻き上げられて、ミウとカゲマルがジリュウから離れていった。


*** 大変だあー!ミウとカゲマルが影宇宙から飛び出してしまう!・・・

サブリュウがケンとコタロウを乗せたまま、猛スピードでミウとカゲマルの後を追う。


態勢を立て直したジリュウも慌てて追いかける。

その後をタリュウとシリュウも追いかけた。


「ミウ、早く俺の手につかまって!」

サブリュウに乗ったケンが、もう少しでミウに届きそうなところまで近づいた。


その時、みんなは何か硬いものを突き抜けたような衝撃を感じた。


*** まずい!みんな影宇宙を飛び出してしまった・・・

タリュウが慌てた声を出したのが、みんなに伝わった。


ミウとカゲマルが、大きな川に向かって落ちて行く。

続いてケンとコタロウがサブリュウから離れて、回転しながら落ちて行く。


大きな川は、すぐ近くまで海が迫り河口付近で波が逆巻いている。


「イテテッ、影宇宙から出ると、シリュウの体が空気みたいになっちまったよ」

川岸の草むらに落ちたスガワラ先生が、立ち上がって独り言を言うと、後ろでヒロが叫んだ。


「ケン、コタロウ、急げー!ミウとカゲマルが海の方に流されて行くぞー」

「おおっ、ヒロとサスケもタリュウから落ちたのか。さあ、俺達もミウとカゲマルを助けに行こう!おーい、ミウ、目を覚ませー!」


ケンが大声で叫びながら川に飛び込むと、ヒロはつむじ風になってミウとカゲマルに近づく。

「ミウ、カゲマル、しっかりしろ!今、助けるからな」


ヒロが手を伸ばした時、イルカのように泳いできたケンがミウを抱きかかえて上を向かせる。

ケンに続いて来たコタロウも、同じようにカゲマルを上に向かせた。


「あっ、ケン、助けてくれたの?ありがとう。でも、カゲマルは、どこにいるの?」

大波をかぶりながらミウが心配すると、ケンが誇らしげに答える。


「コタロウが助けてくれたよ。ほら、二匹で必死に岸に向かって泳いでいるだろう?」

イルカのように泳げるようになっているケンとミウは、大荒れの川を難なく横切って川岸に着いた。


「ケン、頑張ったな!ミウ、助かって良かったな」

川岸に降りたヒロが二人に声を掛けると、ミウがヒロの手を握りしめてじっとしている。


ミウは助けてくれたケンに感謝の言葉を伝えなければいけないと分かっているのだが、何故かずっとヒロの手を握っていたかった。


そこへ遠くから高く飛び跳ねながら、見知らぬ古代人が近寄ってきた。

「お前達、大丈夫だったのか?海も川も荒れ狂っているから、近づいてはいけないぞ!」


「ありがとうございます。ところで、あなたのお名前は?」

ケンがミウの前に立って、相手から目を離さず丁寧に質問すると、古代人は驚きの表情を見せた。


「えっ、お前達はこの街の者ではないのか。私はこの街の指導者、ハヌマーンだ」

ハヌマーンは、動物に例えると猿のような顔立ちをしているが、賢者の風格がある。


そこへ川から上がったスガワラ先生が近づいてきた。

「私たちはブラフマー神の時代から竜に乗って来たのですが、今はどんな時代ですか?」


「これは驚いた!ブラフマー神は三千年も前の祖先だ。何千年も前から氷河が溶け出して、最近は毎年川が氾濫し大事な神殿まで海が迫ってくるのだ」

信じられないといった表情のまま、ハヌマーンはこの街の苦境を話し始めた。


その時、丘の上の神殿まで逃れていたこの街の住人達が叫ぶ声が聞こえた。

「川の上流から大きな茶色い土石流が押し寄せてくるぞー!」


「海の方から真っ黒な大津波が来るぞー!」

「この丘の上の神殿まで水に飲み込まれてしまうのかー!」


ハヌマーンは、丘の上に集まっている古代人達に向かって叫んだ。

「みんな、丘の後ろの山に早く逃げ込めー!神殿に残っていると水に飲み込まれるぞ」


スガワラ先生の方を振り返ったハヌマーンが、無念の表情で言い残した。

「三千年続いたこの神の街も、私の時代で終わりのようだ」


*** ヒスイの玉は私が受け継いでいる・・・

ヒロの耳に懐かしい声が聞こえた。


慌ててヒロが天を見上げると、竜の子達が天から顔を出して、早く乗れと催促している。

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