6節 超古代のカンベイ湾(4)
「先生は、ブラフマーや超古代人の仲間になって一年間過ごしたんでしょ?」
好奇心の旺盛なヒロが話しかけると、スガワラ先生は身振り手振りで話し始めた。
「あー、この一年間は我ながらよく頑張った。一年前、影宇宙から出て、この建物の裏側に現れたんだ。しかし、すぐにパールヴァに見つかって、大勢の超古代人に取り囲まれてしまった。リーダーのブラフマーが冷静な男で良かったよ。ヒスイの玉の持主を捜していると言ったら、自分の家に連れて行ってくれたんだ」
「私達と一緒に影宇宙から出ていれば苦労しなくて済んだのに・・・。どこから来たのかって、怪しまれなかったんですか?」
ミウが笑いながら問いかけると、先生は大きくうなずいて答えた。
「うん、東の方から竜に乗って来たって言ったら、みんな信じてくれたんだ。ブラフマーが神様の啓示をみんなに説明していたところだったから、不思議なことも受け入れることができたんだろうな」
「その神様っていうのは、ブラフマーだけに啓示を与えてくれるんですか?他の人には・・・」
ヒロの質問が終わらないうちに、スガワラ先生が説明し始めた。
「数年前には神様の夢を見たっていう人がたくさんいたそうだが、神様が夢に現れる人が徐々に減って、今ではブラフマーだけになったということだ。その神様は自分のことをデウスと呼び、超古代人達の知らない都市計画や建築技術など、様々な知識を教えてくれるらしい。だから、ブラフマーは、神様の夢ではなくデウスの啓示だと言うんだ」
「神様が、超古代人達の中で一番理解力のあるブラフマーを選んだってことですか?」
ケンが独り言のようにつぶやくと、スガワラ先生は細長いベッドに腰を下ろして話を続けた。
「そうだろうな。ブラフマーは実に賢くて指導力のある男だよ。カンベイ湾の海沿いには漁村がたくさんあり、船を使って交易をする商人達の原始的な街もある。ブラフマー達は、そのカンベイ湾の海沿いの出身らしい。氷河が溶け出して川が増水するうえに海面が上昇して、海沿いの村や街がたびたび洪水に襲われるので、ブラフマー達はこの場所に移住してきたそうだ。最初は安全そうな丘の上に家族ごとに簡単な小屋を建てたんだが、その頃ブラフマーがデウスの啓示を理解したらしい。それから、こんなに立派な建物を建て始め、デウスの教えるとおりの計画的な街造りを始めたんだよ」
「デウスっていうのは、どんな神様なんですか?」
ヒロはもっと知りたくなって、スガワラ先生に近寄った。
「デウスはオリンポスの国に住んでいるって、ブラフマーは言うんだ。その国には背中に羽の生えた馬や、上半身が人間で下半身が馬のような不思議な生き物もいるらしい」
「ギリシャ神話みたいな話ですね」
スガワラ先生の話にミウが割り込んだ。
「まったく、そうなんだよ。今まで聞いた話はギリシャ神話みたいだ。しかし、ギリシャ神話は今からずーっと後にできたはずだから、不思議なことだよ」
スガワラ先生があいまいな表情を見せると、ヒロが自分の想像していることを話した。
「オリンポスの国っていうのは、文明の発達したどこかの惑星のことじゃないかなあ。オリンポス惑星のデウスが宇宙船に乗って、地球の近くに来ているかもしれない」
「でも宇宙船なんて、どこにも見えないよ。それに太陽系外の惑星はすっごく遠いから、地球に一番近い惑星でも人間が生きたまま行ける距離じゃないって教わったでしょ!」
ミウが優等生らしい意見を言うと、ケンが自分のアイデアを話し出した。
「古代のモヘンジョ・ダロに宇宙船がたくさん来ていただろう?目に見えないくらい遠いところにデウスのロボットが乗った宇宙船がいるんだよ、きっと!」
「宇宙船が来ているのか、何か別のものなのか分からないが、文明の発達した惑星のデウスがブラフマーに啓示を与えていると考えられる。しかし、今はそれ以上確かめる方法がない。今日は遅いから、もう寝よう」
スガワラ先生は眠くなったので、さっさと自分のベッドにもぐり込んで眠ってしまった。
翌朝ヒロが目を覚ますと、建物の外でパールヴァの歌う声が聞こえた。
可愛らしい歌声だが、マリの素晴らしい声にはかなわない。
「あー!マリを早く助けなきゃ!サーヤはどこにいるんだろう」
「そうだよ、サーヤを探す手がかりのヒスイの玉を見せてもらおうよ、ブラフマーさんに!」
ヒロの声で目を覚ましたケンが、起き上がりながら大きな声を出した。
「まあ、そんなにあわてるな。朝ご飯の時にブラフマーに頼んでやるから」
スガワラ先生が大あくびをしながら起き上がると、奥の小部屋からミウも出てきた。
「ブラフマーさんの家は、どこにあるんですか?」
「この大きな建物の隣だよ。私は毎日ブラフマーの家族と一緒にご飯をたべているんだ。さあ、ついておいで」
スガワラ先生を先頭に、みんなでブラフマーの家に向かった。
「あっ、おはよう、サスケ。それに、カゲマル、コタロウも、おはよう!」
家の前で歌っていたパールヴァが、サスケに駆け寄ってきた。
「パールヴァ、おはよう!もう朝ご飯、食べたのかい?」
スガワラ先生が眠そうな顔で訪ねると、パールヴァはサスケを抱きかかえてほほ笑んだ。
「まだよ。みんなが起きてくるのを待ってたのよ。さあ、みんな、中に入って!」
ブラフマーの家は、他の超古代人の家と同じくらいこじんまりとした質素な家だ。
石造りの土台の上にレンガの壁と屋根が乗っている。
レンガ造りのキッチンに8人くらい入れる食堂が続いている。
「おはよう、スガワラ、ヒロ、ミウ、ケン。それに、サスケ、カゲマル、コタロウ。さあ、みんな席について!」
サラスがみんなの名前を言えて、得意げな表情を見せた。
そこに嬉しそうな顔でブラフマーが現れた。
「聞いてくれ、スガワラ!今朝目が覚めると、デウスのすごい啓示を授かっていたんだ。デウスがポセイドンにしたのと同じ訓練を、私もできるようになったんだよ」
「それはすごい!でもその前に、ヒスイの玉をこの子達に見せてくれないか?」
スガワラ先生がブラフマーの部屋に行こうとすると、サラスが声を掛けた。
「その前にみんな、席についてご飯を食べなさい!」