6節 超古代のカンベイ湾(3)
一行がレンガ造りの大きな建物の中に入ると、一人の少女が駆け寄って来た。
「おかえりなさーい、お父様!ワアー、お客様がいっぱい!」
「やあ、パールヴァ、友達をたくさん連れて来たぞ。ケン、ミウ、ヒロの三人と、コタロウ、カゲマル、サスケの三匹だ」
ブラフマーがみんなを紹介すると、サスケがパールヴァに駆け寄って顔を見上げた。
「ウワッ、かわいい!サスケって、まだ子供なの?」
パールヴァがサスケを抱き上げると、ヒロが答えた。
「そう、まだ子供だよ。だけど、すごーく賢くて、ちょっと生意気なんだ」
様子を見ていたカゲマルとコタロウがパールヴァに近づくと、少女の笑顔が輝いた。
「焼きもち焼かないで!カゲマルもコタロウもみんな友達だよ」
「ねえ、パールヴァ、どこかでサーヤっていう女の子に会ったことはないかい?」
早くサーヤの手がかりを見つけたいヒロが、パールヴァの顔を覗き込んで聞いた。
「あっ、同じことをスガワラのおじさんからも聞かれたけど、会ったことはないわ」
パールヴァがブラフマーの方を見て答えると、スガワラ先生が前に出てきて説明した。
「サーヤのことは、ここにいるみんなに訊いたんだが、誰も会ったことがないそうだ。みんなも街の子供達を調べてくれたんだが、サーヤはこの街には来ていないようだ」
「皆さーん、食べ物と飲み物の仕度ができましたよ。新しいお友達もみんな、こちらに来てくださーい!」
奥の部屋からブラフマーの妻サラスが顔を出して、みんなを呼んだ。
その部屋は百人くらいが入れる広さで、十数人の女性がサラスと一緒に食べ物や飲み物をテーブルに並べていた。
みんながガヤガヤしながら、適当に分かれてテーブルを囲むと、ブラフマーが大きな声で話し始めた。
「みんな、今日は新しい友達の歓迎会だ。ケン、ミウ、ヒロ、そして、コタロウ、カゲマル、サスケに紹介しよう。私の横にいるのは妻のサラスだよ。きれいだろう?」
すると、部屋のあちこちから大きな声が聞こえた。
「おーい、ケン、俺の妻も紹介するよ、きれいだろう?」
「あー、ミウ、わしの娘も見てくれ!きれいだろう?」
「ヒロー、俺の姉さんもきれいだよ。ほらここにいるよ」
十数人の超古代人がてんでに自分の家族を紹介して、にぎやかに食事が始まった。
「おいしいものを食べて気持ちが良くなったから、神様の新しい啓示を説明しよう。今朝目が覚めたら、この新しい啓示を授かっていたんだ。これまでは、街造り、建物建設、水道設備などの新しい技術を授かっていたが、今度の啓示は我々の能力の訓練方法だ」
食事が進んでみんなが満腹になった頃、ブラフマーが演説を始めた。
「いつもの啓示と同じようにデウスが現れて、何かが見えて来た。それはデウスと似た体格の男で、名前はポセイドンと聞こえた」
「デウスって何ですか?どんな風に見えて、どんな風に聞こえるんですか?」
説明の途中でヒロが質問すると、ブラフマーは嬉しそうに答えた。
「私が授かる啓示にいつも現れるのが、デウスという神様だよ。デウスが話す言葉は我々の言葉と違うので、意味は分からない。でも、たくさんの絵が見えるから、何を言いたいか理解できるんだ。ポセイドンという言葉についても意味は分からないが、その男が自分を指してポセイドンと言ったから、それが名前だと思ったんだよ」
「デウスとポセイドンが見せてくれた訓練方法って、どんなものだったんだい?」
話の続きを聞きたくてたまらない超古代人が、ブラフマーに続きを催促した。
「まあ、そんなに慌てるな。大声で自分の名前を言ったポセイドンが、海に飛び込んで泳いでみせた。泳ぎは上手だったが、私よりはちょっと下手だったよ、ハッハッハ。海から上がったポセイドンが、デウスに近づいて訓練が始まった。それは、不思議な光景だったよ。デウスとポセイドンが向かい合って立っていると、デウスの頭から光る糸のようなものが出てポセイドンの頭の中に入って行くんだ。しばらくすると、ポセイドンが腕をグルグル回して海に向かって走りだした。海に飛び込んで、今度はイルカのようにすごいスピードで泳いでみせたんだ。びっくりしたよ。あんな不思議な訓練で、あっという間にイルカのように泳げるようになったんだからなあ」
ブラフマーの話を聞いて、まっ先にケンが質問した。
「ブラフマーさんが訓練してくれたら、俺もイルカのように泳げるようになりますか?」
「いや、まだ訓練方法の内容が分からない。いつものように、デウスが後から詳しく教えてくれるはずだよ。私が訓練できるようになるまで、みんなも楽しみに待っていておくれ。じゃあ、そろそろ歓迎会を終えて、自分の家に帰ることにしよう」
ブラフマーはケンに答えた後、みんなに向かって家に帰るよう促した。
「ブラフマー、この子達は俺の部屋に泊まらせるよ。サラス、パールヴァ、おやすみ!みんな、また明日!」
スガワラ先生がヒロ、ミウ、ケンに合図して、部屋の奥の方に歩き出した。
部屋の隅の小さな石の扉を押して中に入ると、殺風景な狭い部屋に石やレンガで作られたベッドと机が見える。
「ベッドも机も細長いから、みんなが並んで使えるぞ。ヒロはそっちの端で・・・」
スガワラ先生が話し始めると、ミウが困った表情で言った。
「わたしは男の人達と同じ部屋には泊まれません」
「そりゃあ、そうだ。最後まで話を聞きなさい。この部屋の奥にもうひとつ小さな部屋があるから、ミウはその部屋を使うんだ」
スガワラ先生がミウの背中を押してその部屋に入ると、小さなベッドがあった。
「ミウ、良かったな。超古代でもずいぶん文化的な生活ができるんですね、先生!」
原始的な住居を想像していたケンは、超古代の生活レベルの高さに驚いていた。