6節 超古代のカンベイ湾(2)
「サスケー!どこにいるんだー?」
走りながらヒロが叫ぶと、林の中からサスケの声がする。
サスケは四頭のオオカミに追いつめられ、白樺の木を背に反撃しようと身構えていた。
その木の上にはカゲマルとコタロウが登っている。
コタロウがサスケを助けようと、手を伸ばすとオオカミ達が牙をむいて睨む。
その隙にヒロがオオカミ達を足蹴りにして、サスケを抱き上げた。
「サスケ、怪我はないか?」
足蹴りされてひっくり返ったオオカミ達が、起き上がってヒロに跳びかかった。
「危ない!高く飛び上がって安全なところに行こう!」
ヒロは右手でサスケを抱いたまま、真上に高くジャンプして左手で木の枝をつかんだ。
その木の枝の反動を利用して、ヒロはさらに高く飛び上がり、つむじ風になって小高い丘を目指した。
「あれっ、ヒロ!どこに飛んで行くの?」
ミウが上を見上げて、ヒロに声を掛けた。
そこに、サスケを狙っていた四頭のオオカミが林の中から駆け出してきた。
他のオオカミ達は毒薬を食べて苦しんでいるのに、この四頭だけは毒薬を食べていないので元気だ。
「もう毒薬はないから、これでも食らえーっ!」
後を振り向いたケンが、足を大きくまわして思いっきりオオカミ達を蹴っ飛ばした。
ミウが林の方を見ると、カゲマルとコタロウがこっちに走ってくる。
「カゲマルとコタロウも無事だったね」
つむじ風になっていたヒロも、サスケを抱いたままミウのそばに降りてきた。
「ヒロ!サスケも無事だったのね」
ミウがサスケの頭をなでようとしたが、サスケは小高い丘の方に向かってワンと吠えた。
小高い丘の方を見ると、五十人くらいの超古代人達が歩いてこちらに近づいてくる。
ヒロ達の後ろでは、ケンに蹴っ飛ばされた四頭のオオカミが隙を狙ってうなっている。
さらに近づいてきた超古代人達は、大声を上げて四頭のオオカミを追い払い、ヒロ達を取り囲んだ。
ケンが前に出て身構えると、超古代人の中から一人の男が笑顔で近寄ってきた。
「ケン、安心しろ!スガワラミチザネだ!」
「あーっ、スガワラ先生!」
ミウがスガワラ先生に駆け寄ると同時に、ケンが質問した。
「どうしてここにいるんですか、先生?」
「話せば長くなるが、この一年は大変だったぞ。お前達より一年前に遡ったからなあ」
スガワラ先生はミウ、ケン、そしてヒロを懐かしそうに見つめた。
「先生は一年前からこの人達と一緒に暮らしているんですか?」
どこから見ても超古代人にしか見えない先生の変装術にヒロは驚いた。
そこにがっしりした体格の中年の男が近づいて来た。
「みんな、私はブラフマーという者だ。スガワラ、この子達を紹介してくれないか?」
「了解、了解。この大柄な少年がケンだ。力が強くて武道に優れている。そのコタロウという猿を飼っている」
スガワラ先生が、ケンとコタロウを紹介すると、コタロウがケンの肩の上で宙返りをしてみせた。
「つぎは、この大きな瞳の少女がミウだ。知恵があって機転が利くぞ。そのカゲマルという猫を飼っている」
先生に紹介されると、ミウはカゲマルを抱いてブラフマーに丁寧にお辞儀をした。
「最後は、この小柄な少年がヒロだ。つむじ風になって速く飛んで行ける。そのサスケという犬を飼っている」
すぐにサスケがブラフマーに近づき、おすわりをしてブラフマーの顔を見上げた。
「おお、たいへん賢い犬だな。娘のパールヴァの良い友達になるだろう」
ブラフマーが笑顔でヒロに話しかけると、ヒロは丁寧に頭を下げてから質問した。
「僕たちは立派なヒスイの玉の持主を捜しています。ブラフマーさんが、その持主ですか?」
「ヒロはずいぶん勘が鋭いようだなあ、スガワラ」
ブラフマーが驚いてスガワラ先生を見ると、ヒロがあわてて説明した。
「サスケは匂いでヒスイの玉の持主が分かるんです。ほら、じっと顔を見てるでしょ?」
「そうか、そうか。三人の子供達も三匹の動物達もかなり賢いようだ」
ブラフマーがそう言うと、スガワラ先生は得意満面の笑顔になった。
「じゃあ、みんなで街に帰って、歓迎会をしよう。娘のパールヴァも喜ぶだろう」
小高い丘の上の超古代都市に向かって、ブラフマーが歩き出した。
超古代都市に近づくと、建築中の建物が目立つ。
さっそく、ケンが質問した。
「ブラフマーさん、建物はみんなレンガで作るんですか?」
「そうだよ、レンガで壁と天井を作って、土台だけ石で頑丈に作るんだよ」
ブラフマーが答えると、今度はミウが質問した。
「道路もレンガで舗装してあるから歩きやすいですね。排水路もレンガですか?」
「レンガは水はけがいいから舗装道路には向いているけど、排水路には向かない。排水路には平たい石を敷いてタールで防水するんだ」
ブラフマーが説明しているうちに、一行はレンガ造りの大きな建物の前に着いた。
「この建物の裏側に、スガワラが突然現れたんだ。一年前のことだよ」
超古代人の一人がスガワラ先生を指差して言うと、別の一人が続けた。
「東の方から竜に乗って来たって言ったんだ。スガワラの話は奇想天外で面白いよ」
「おいおい、俺はいつも本当のことを話しているんだぜ」
スガワラ先生が真剣な表情でみんなを見ると、ブラフマーが笑いながら言った。
「私はスガワラを信じているよ。また奇想天外な話をしてくれよ、スガワラ!」