6節 超古代のカンベイ湾(1)
一万一千年前の超古代都市は、大きな川に近い丘陵地帯にある。
超古代都市から少し離れた丘の中腹にある洞の中から、ヒロとサスケが顔を出して回りの様子を観察している。
洞の外は晴天なのに涼しく、白樺のような木がたくさん生えている。
続いて、ミウとカゲマルが外の様子を見てヒロとケンに合図をした。
サスケが走り出すと、その後をヒロが追いかける。
間をあけてミウとカゲマルが走る。
最後に、ケンとコタロウが回りに気をつけながら走った。
「あれっ、ヒスイの玉が消えちゃった。さっきまでしっかり握っていたのに・・・」
ヒロが立ち止まって、ヒスイを握っていたはずの左手を開いた。
すぐに後を振り返って、途中で落としたのではないかと捜している。
ケンもコタロウと一緒に地面を捜し始めたが、ミウとカゲマルはサスケに近づいて行く。
サスケの反応を見たミウが、あることに気づいたようだ。
「影宇宙を出た時に、ヒスイはこの時代の持主のところに帰って行ったんじゃないの?」
「そうか!きっと、そうだ!どうしてすぐに気づかなかったんだろう」
ヒロはミウを見て、大きくうなづいた。
ケンも納得して、サスケに声をかけた。
「よーし、その持主のところに行けば、サーヤのいる場所が分かるぞ!サスケ、しっかり道案内してくれよ」
ワンと吠えて、サスケがまた走り出した。
サスケに続いて走っていたヒロが、白樺の林を出たところでサスケに声をかけた。
「風下から何かが近づいてくるぞ。サスケ、何の足音だか分かるか?」
「何か動物の群れが風下から俺たちを狙っているみたいだな。風下だから、匂いが分からないけど」
ケンが後から声をかけると、ミウが立ち止まって耳を澄ました。
「ケン、それはオオカミの群れよ。十頭以上いる気配がする」
超古代都市は丘陵地帯の小高い丘の上にある。
ここから超古代都市までは、起伏のある岩場や草地を走って行かなければならない。
「ウワッ、オオカミだ。二十頭はいるぞ!」
岩陰から現れたオオカミの群れを見て、ヒロがサスケを抱き上げた。
「オオカミたちは飢えているみたいね。カゲマル、気をつけて!」
ミウが言う前に、カゲマルとコタロウは、後の白樺の林に向かって駆け出した。
木の上に逃げるのだ。
三頭のオオカミが後を追ったが、ほかのオオカミはヒロ達の回りを回りだした。
「スッゲー恐い目をして近づいてくるぞ。闘うしかないな!」
ケンはミウをかばいながら、先頭のオオカミを睨みつけた。
一瞬たじろいだが、オオカミは牙をむいてケンに跳びかかってきた。
ケンも同じ高さにジャンプし、右手を突き出して二本の指でオオカミの両目をつぶした。
しかし、すぐに二頭のオオカミがケンとミウに跳びかかってきた。
「アッ、危ない!仕方ないから、手裏剣を使うよ」
ミウがオオカミの上に高くジャンプしながら、手裏剣を一頭のオオカミに命中させた。
「手裏剣も上達したな、ミウ!」
ケンはまだ余裕があるので、強烈な足蹴りで一頭のオオカミを気絶させた。
簡単には倒せないと分かったオオカミたちが、三人の回りを回りながら徐々に近づいて来る。
今度は、サスケを抱いているヒロに、五頭のオオカミが同時に襲いかかった。
「危ない!サスケ、しっかりつかまっていろよ」
ヒロはサスケを抱いたまま高く高くジャンプしてオオカミたちを跳び越えた。
しかし着地した瞬間、一頭のオオカミがヒロの足に噛みついた。
ヒロの足から赤い血が流れ出し、ヒロはそのままうつ伏せに倒れてしまった。
「ああー、ヒロ、しっかりして!」
ミウが駆け寄ってヒロを抱き起こそうとすると、一頭のオオカミがミウに襲いかかる。
「あっ、危ない。ミウ、伏せろ!」
ケンがすばやくジャンプして、オオカミの喉元を蹴り上げた。
すると別のオオカミが、ヒロから離れたサスケを狙って跳びかかる。
サスケは右へ左へすばやく走って林の中に逃げ込んだ。
「ミウ、大丈夫か?ヒロの傷はどうだい?」
ケンが声を掛けると、ヒロが起き上がって回りを見た。
「あっ、サスケがいない。ケン、サスケは?」
「サスケは林の中に逃げて行ったぞ」
サスケの後を追って、二頭のオオカミが林に向かって行く。
その二頭に、ミウが手裏剣を投げつけると、一頭に命中して倒れた。
もう一頭は手裏剣を避けて、サスケのいる林の中へ走って行った。
「サスケが危ない。サスケは木に登れないから、助けに行かないと・・・」
ヒロがふらふらと立ち上がって、林に向かって駆け出した。
ヒロの体には不思議な力があるので、足の傷が治り始めている。
「ヒロ、まだ傷が治っていないから、わたしも行くよ」
ミウがヒロの後を追って駆け出した時に、三頭のオオカミが後からミウに襲いかかった。
「ミウ、後ろを見ろ!」
ケンの声を聞いて、ミウが振り向きざまに一頭のオオカミを足蹴りにした。
その一頭は気絶したが、残りの二頭がぶつかってきたので、ミウは仰向けに倒れてしまった。
「しまった!えーい、この薬を食べて苦しめ!」
ミウは危機から逃れるために、ポシェットに入れていた毒薬の粒をつかんでオオカミに投げつけた。
オオカミに当たってバラバラと落ちた毒薬を、二頭のオオカミは雑草と一緒にガツガツと食べた。
その直後、二頭のオオカミはヨロヨロと歩き出し、二頭でじゃれ合うようにしてミウから離れて行った。
「すごいじゃないか、ミウ!オオカミに何を食べさせたんだい?」
「ハシリドコロの根から作った毒薬の粒よ。オオカミも幻覚で苦しむんだね」
「じゃあ、俺たちを狙っているオオカミに残りの毒薬をばらまいちゃおうよ」
ケンと同じことを考えていたミウは、持っている毒薬をオオカミに向けて全部ばらまいた。
腹をすかせた十頭以上のオオカミは、争いながら毒薬を食べている。
「オオカミは用心深いのに・・・すっごく飢えていたんだね」
ミウは複雑な気持ちでオオカミ達の様子を見ている。