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5節 古代インドのモヘンジョ・ダロ(7)

「この四匹の竜はまだ子供だから、影宇宙の構造をあまり知らないんだろう。いつかヒロの父親のシュウジに会えたら詳しく教えてもらおう」


スガワラ先生は宇宙の構造にあまり関心がないが、ヒロは父親譲りの想像力を持っている。


「影宇宙の上下方向と、僕たちの宇宙の時間軸が同じ方向になって重なっているんじゃないかなあ。僕たちには宇宙の時間軸は見えないけどね」


「じゃあ、影宇宙の時間軸は俺たちの宇宙の上下方向と重なっているのか?」

ケンにはまだよく分からないようだ。


「ところで、もう大分過去に遡ったんじゃないか、シリュウ?」

スガワラ先生は宇宙の構造より、古代史に強い興味を持っている。


*** スガワラ先生、一万一千年前まで遡ったよ。あそこに古代都市が見えるだろう・・・


ずーっと光の指す方向を見ていたヒロが大きな声をあげた。

「あっ、ヒスイの玉の光が、あそこに見える古代都市を指しているよ!」


カンベイ湾の海岸線は八千年前にはこの古代都市のすぐ近くにあったが、一万一千年前になると遥か遠くに見える。

三千年遡ると、海面はさらに低くなっていたのだ。


古代都市から海岸線まではもの凄く広い平野が広がっていて、大きな二本の川が海まで悠々と流れている。

そのうちの一本の大きな川に近い丘陵地帯に古代都市はあった。


「サーヤの匂いを感じるかい、サスケ?」

*** そうだね、あの古代都市の方からサーヤの匂いがするよ、ヒロ・・・


「じゃあ、あの古代都市に近づいておくれ、タリュウ。どこか近くの目立たない場所に降ろしてくれないか?」

ヒロがそう言うと、スガワラ先生が慌ててさえぎった。


「ちょっと待て、ヒロ。この古代都市が、いつ造られたのか見たくないのか?もう少し過去まで遡ろう」

「先生、何度も言いますが、それより早くサーヤを捜しましょう!」


「そうですよ、先生。早く影宇宙から出て、サーヤを捜しましょう」

ミウもヒロと同じように、スガワラ先生に注意した。


「よーし、多数決で決まったから、影宇宙から出ましょうよ、先生!」

ケンはそう言いながら、降りる準備を始めている。


しかし、スガワラ先生は頑固だ。

「ここで時間を使っても、マリの待っている宇宙に戻るタイミングを調整すれば問題ない。どうしても今出たいのなら、勝手に出て行け。俺はもう少し過去に遡る」


古代都市に近づくと、大きな川を見下ろす丘の上から川に向かって街が造られているように見える。


レンガ造りの建物、舗装された道路など、モヘンジョ・ダロと同じように整然としている。

建物や道路は新しく、建築中の建物もあるので、この古代都市が始まって間もないことが分かる。


「先生、この古代都市は新しいから、過去に遡ると消えてしまいますよ。一緒に影宇宙から出ましょう!」

ヒロが再度説得したが、スガワラ先生は意地を張っている。


「いや、もう少しだけ過去に遡って、この古代都市の始まりを見たいんだよ。みんなは俺に構わず、今ここから出て行っていいんだ」


「仕方ないなあ。じゃあ、俺たちだけ先に行きますよ。サブリュウ、目立たない出口に行こうぜ」

ケンはスガワラ先生を説得するのは無理だと分かっている。


ヒロとミウは早くサーヤを捜したかったので、スガワラ先生を説得するのをあきらめた。


「先生、あんまり過去に遡らないで、早く出てきてくださいよ」

「じゃあ、わたし達は先に行きます。先生、気をつけて!」


スガワラ先生は内心動揺していたが、強気をよそおって別れを告げた。

「みんなも気をつけて行けよ!」


ヒロとサスケを乗せたタリュウを先頭に、三匹の竜は古代都市に近い目立たない出口に向かって進んで行った。


一方、スガワラ先生を乗せたシリュウは、過去に向かって上昇して行った。

*** スガワラ先生、もう街の建物がほとんどなくなっているよ・・・


「シリュウ、さっきから何年遡ったか分かるか?」

*** うーん、一年くらいかなあ。もう影宇宙から出た方がいいよ・・・


「分かった。じゃあ、そこの建物の裏側に出よう」

*** そこは洞じゃないから、古代人達にすぐ見つかってしまうよ・・・


「なーに、大丈夫だ。シリュウ、時間を遡ってくれて、ありがとう。後でまた会おう!」

スガワラ先生は、シリュウから降りてレンガ造りの建物の裏側に姿を現した。


その建物の窓からぼんやりと外を眺めていた少女が、突然目の前に現れたスガワラ先生を見て、大声をあげた。

「きゃーっ、男の人が空から降ってきたあー!」


建物の中では、五十人くらいの聴衆に向かって、一人の中年男が演説をしていたところだった。

少女の声を聞いて、演説をしていた男と聴衆全員が建物の裏側に走り出た。


「あっ、やあ、こんにちは。皆さん、大勢ですねえ・・・」

四千五百年前の古代インド人の姿をしたままのスガワラ先生が、どぎまぎしながら挨拶をした。


スガワラ先生は、五十人以上の超古代人達に取り囲まれている。


「あなたはこの付近の人ですか?私はブラフマーという者です」

演説をしていた男が、スガワラ先生をじっと見つめて問いかけた。


「私はスガワラという者です。東の方から竜に乗って来ました。立派なヒスイの玉の持主を捜しているのです」


スガワラ先生も、ブラフマーをじっと見つめて静かに答えた。

ブラフマーはがっしりした体格をしているが、背が高い方ではない。


「ほんとに竜に乗ってきたの?私には空から降ってきたように見えたけど!」

ブラフマーの後からスガワラ先生を見ていた少女が、不思議そうな顔をして前に出てきた。


「ほんとに竜に乗って来たんだよ。竜から降りる時は、空から降ってきたように見えるものだよ」

スガワラ先生が真顔で説明すると、少女は大きくうなずいてにっこりほほ笑んだ。


その様子を見て、大勢の超古代人達もなごやかな表情に変わった。

ブラフマーは、少女の頭をやさしくなでながらスガワラ先生に話しかけた。


「あなたが捜しているヒスイの玉の持主は、私かもしれない。私の家に案内しましょう」


「お父様、あたしが案内するわ。竜に乗って来たおじさん、私はパールヴァっていうのよ」

十歳くらいの少女はすっかり安心して、スガワラ先生の手を引いて歩き出した。

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