5節 古代インドのモヘンジョ・ダロ(4)
「クーン、クーン」
「サスケー!大丈夫かー?今、助けに行くから待ってろよー」
サスケの声が響く暗い井戸の中をのぞき込んで、ヒロが叫んだ。
「ヒロー、大丈夫だったのー?頭が血まみれだけど、もう痛くないの?」
カゲマルを連れて、ミウが駆け寄って来た。
ミウはポシェットからタオルを出して、ヒロの顔や頭を拭いている。
その後から、ケンとスガワラ先生がコタロウを連れて走って来た。
井戸の中をのぞいているヒロを見たスガワラ先生が、懐から長い縄を出して渡した。
「ヒロ、この縄を体に巻いて井戸の中に下りろ。ここで、俺とケンが縄を引き上げるから」
「先生は必要なものを何でも持っていますね」
ヒロは、先生に感謝して暗い井戸の中に下りて行った。
サスケが犬かきをして水面から顔を出している。
「サスケ、どこも怪我していないか?」
ヒロがサスケを抱いて上に向かって合図をすると、縄がゆっくりと引き上げられた。
井戸から出て来たサスケをヒロから受取って、ミウがサスケの体をあちこち調べた。
「あー、良かった。どこも怪我していないね、サスケ・・・あれ、サスケが何かをくわえているよ」
ミウは、サスケが緑色に光るものをくわえていることに気づいた。
それは、井戸の底に沈んでいた古いヒスイの玉だった。
「これは、この時代より前に造られた高価なヒスイの玉だ。この地域では採れないから、ヒスイは貴重品だ。おそらく、この都市の神官か市長の家族が持っていたのだろう」
スガワラ先生が、着ている服の袖で古いヒスイの玉を磨いているうちに、とろりとした透明感のある美しい緑色の玉になった。
「先生、なんだか空が暗くなってきましたよ」
ケンが空を見上げて言った。
先生は、月が太陽を隠そうとしている様子を見ている。
「皆既日食じゃないかなあ・・・鳥たちが騒いでいるぞ」
「だんだん暗くなってきた・・・市民達が丘の上の神殿に向かってお祈りしているよ」
ヒロは、市場にいる大勢の市民がゴータマ神に祈っているのだと思った。
神殿の上に見えた太陽がすべて月の陰に隠れて地上が暗くなった直後に、太陽の光が一ヵ所だけ漏れ出て輝いた。
「あっ、ダイヤモンドリング!すっごく、きれい!」
ミウが、あまりの美しさに感動して声をあげた。
しかし、大勢の市民は皆地面にひれ伏して祈り続けている。
ヒロがヒスイの玉を空に向けると、まだ暗い空から太陽の光がヒスイの玉に届いた。
その光が緑色に輝き空に向かって反射した時、四匹の竜が天から顔を出した。
*** 早く、市民たちが気づかないうちにおいらの背中に乗って!・・・
タリュウがヒロとサスケを乗せて影宇宙に戻った。
兄弟のジリュウはミウとカゲマルを乗せ、サブリュウはケンとコタロウを乗せた。
最後に、シリュウがスガワラ先生を乗せて影宇宙に戻ろうとした時、大勢の市民達が恐怖の叫び声をあげるのが聞こえた。
市民達は空を見上げて騒いでいる。
その視線の先にはオレンジ色に輝く飛行物体があった。
その飛行物体はまっ赤な火炎を噴射しながら、もの凄い轟音とともにこの都市に向かって近づいている。
「あれは何だ?」
スガワラ先生は、とっさにシリュウから飛び降りた。
「ヴィマナという飛行機に似ています!先生、マハーバーラタとラーマーヤナに書かれた神々の戦争シーンに出てくる恐ろしい飛行機ですよ!」
ミウがジリュウから降りて、先生の後ろに立った。
「もしかしたら、飛行機からアグネアの矢が投げられて、この都市の古代人達は死んでしまうかもしれない。モヘンジョダロの近くで核爆発があったらしいじゃないですか!」
ケンもサブリュウから飛び降りて、スガワラ先生に訴えた。
「核爆発があれば、放射能でこの都市の人達は死んでしまう!みんなを建物の中に避難させなくちゃあ!」
ヒロがタリュウから飛び降りて、丘の上の神殿に向かって全速力で駆け出した。
「みなさーん、早く近くの建物の中に隠れてくださーい!灰が空から降ってきたら・・・・・」
神殿の前でヒロが大声を上げたときに、飛行物体がモヘンジョダロの郊外に激突した。
その衝撃で地面が激しく揺れる。
続いて火山が噴火したような火柱が上がり、ものすごい轟音が聞こえた。
「キャー!助けてー」
「うわー!早く逃げろー」
「あーっ、もうダメかもしれないー!」
丘の中腹の役場に逃げ込む者や、近くにある自分の家に逃げ帰る者達で、大混乱になった。
「あっ、空を見ろ!また飛行物体が来るぞー!」
ケンが空を指差して大声をあげると、丘を駆け上る者達と駆け下りる者達がぶつかったり、転倒したりして大勢のケガ人が出た。
「ケガした人達を役場に運んでー!」
ミウがケンとヒロに向かって叫ぶ。
ケンとヒロが数人のケガ人を支えて役場に運ぶと、他のケガをしていない市民達も大勢のケガ人を助けて役場に運んだ。
ミウが役場の中に入ると、大勢のケガ人で混雑している。
「忍者の薬草を少し持ってきたから、少しずつみんなに飲ませて!」
「ぼくも薬草を持ってきたから、手分けして飲ませよう」
ヒロが懐から薬草を出すと、ケンとスガワラ先生も薬草を出した。
「足が痛い、痛い・・・」
「胸が痛くて、苦しい・・・」
ミウ達は、血を流して座り込んでいる者や、苦しそうに横になっている者達に薬草を少しずつ飲ませた。