5節 古代インドのモヘンジョ・ダロ(3)
「最近、アンコクという独裁者が攻撃してくるという噂を聞いたぞ・・・」
「今度は、南の方からやって来るという噂だ・・・」
「何か、ものすごい武器を作っているらしいが、ほんとうか?」
数人の市民が、ヒソヒソと怯えた声で話をしている。
そこに、ヒロ達の後を歩いて来たスガワラ先生がヌッと顔を出した。
「ヒソヒソと何の話をしているんですか?」
「ウワッ、あんたは誰だ?見たことのない顔だな!どこから来たんだ?」
初老の男と議論していた目つきの鋭い痩せた若者が、スガワラ先生を怪しい移住者と決めつけた。
周りにいた大勢の市民が、スガワラ先生を見て騒ぎ出した。
「何を調べに来たんだ?」
「アンコクの手先じゃないのか?」
「その犬や子供達も怪しいぞ!」
とっさにサスケが、目つきの鋭い痩せた若者に飛び掛り、着ていた服の肩の部分を食い破った。
若者の肩が現れると、その肩を見て周りの市民達が叫んだ。
「アッ、こいつがアンコクの手先だ!」
「肩に真っ黒な大男の刺青があるぞ!」
しかし、アンコクの手先は一人ではなかった。
痩せた若者と一緒にいた数人が、サスケとスガワラ先生に殴りかかったので、周りにいた大勢の市民がサーッと逃げた。
すぐにサスケは大きくジャンプして、アンコクの手先の頭上を越えた。
同時に、ケンがアンコクの手先の一人を跳び蹴りで倒し、スガワラ先生の側に来て一緒に戦った。
「おじさん、早く警察を呼んでください!」
ミウが、カゲマルを抱きかかえて、初老の男に大きな声で頼んだ。
アンコクの手先は全部で九人いた。
「忍術を使って全員を倒してしまうと、大勢の市民に恐れられるぞ」
スガワラ先生は、忍術を使わないようにケンに注意した。
「了解!じゃあ、こうしましょう」
ケンは、アンコクの手先三人の胸に次々と拳を突いて気絶させた。
「オオーッ、この少年は強いぞ!」
見ていた大勢の市民が歓声を上げた。
そこでコタロウが、ケンの真似をしてアンコクの手先を拳で突いた。
しかしコタロウは逆襲されて、スガワラ先生の後ろに逃げた。
とっさにスガワラ先生が、相手の男の襟をつかんで放り投げた。
残る四人の男達は、小柄なヒロに襲いかかろうとした。
「おっと、ここは闘わずに逃げた方がいい!」
ヒロは、サスケと一緒に丘の上の神殿に向かって走った。
「待てえー、逃げるなー!」
叫びながら、アンコクの手先がヒロの頭を狙って石を投げる。
「ウッ、痛い!」
ヒロの後頭部から赤い血が流れ出し、ヒロは前のめりになって倒れた。
「大きな石がまともに当たったぞ。あの少年は大丈夫か?」
頭に石が当たる様子を見ていた市民達が、心配してヒソヒソと話している。
「俺たちはあの犬を捕まえるから、お前たちはその子供をやっちまえ!」
アンコクの手先が二人ずつに分かれた。
心配してヒロの顔をのぞき込んでいたサスケは、二人の手先に向かって激しく吠えた。
「生意気な犬だ。これでも食らえ!」
アンコクの手先が、また石を投げたが、サスケは身をかわして横道に逃げた。
「アレッ、こいつの血が止まってるぞ。気がつく前に思いっきり殴っておこうぜ」
アンコクの手先二人がヒロに近づいてきて、血に染まった髪の毛をつかもうとした。
「後から石を投げるなんて、卑怯じゃないか!」
すばやく起き上がったヒロが、赤い血まみれの顔で二人の男を睨んだ。
「ウワッ、なんでこんなに早く回復するんだ?」
男達は驚いて、一瞬後ずさりした。
ヒロは、サスケがいなくなったことに気づいて、大声でサスケを呼んだ。
「サスケー、どこにいるんだー?」
丘の上の方からサスケの声がする。ヒロは、男達を突き飛ばし、丘の上に向かって駆け出した。
サスケが丘を駆け下りてくる。
ヒロが坂道を上り始めた時、サスケを追って来ていたアンコクの手先が、横から飛び出した。
「待て、コラー!」
アンコクの手先は、ダイビングしてヒロの足にタックルした。
「アッ、危ない!」
ヒロが前に倒れる時に、サスケを突き飛ばしてしまった。
そのはずみで、道の脇にあった井戸の中にサスケが落ちて行った。
「コラー、アンコクの手先ども—っ、逃げるなー!」
十人以上の警察官が、四人のアンコクの手先を追って近づいて来る。
手先たちはバラバラの方向に分かれて逃げて行った。