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5節 古代インドのモヘンジョ・ダロ(2)

「アンコクって、ヤミと同じ暗いイメージだよな」

役場を出て坂を下りながら、ケンがミウに話しかけた。


「そうね、アンコクとヤミって何か関係があるんじゃないかな、ヒロ」

ミウがヒロの顔をのぞき込むと、サスケが先にワンと答えた。


「関係があるかもしれない。だけど、古代インドでアンコクっていう言葉が暗いイメージなのか分からないよ」

ヒロが慎重に答えると、スガワラ先生はもじゃもじゃ頭をかきまわしながら言った。


「まだ分からないことだらけだが、アンコクもヤミも我々の敵に違いない。きっと成敗せいばいしてやるぞ、ヤミー、アンコクー!」

興奮したスガワラ先生の声が大きくなったので、ミウが慌てて先生の口をふさいだ。


移住者用の住居は、広い沐浴場と城壁の間にある。

その場所には古い城壁があったが、数十年前に取り壊されて、そのかなり外側に新しい城壁が造られていた。


人口が増えると城壁を外側に広げるということを、数十年おきに繰り返してきたようだ。


「特に怪しまれず、なんとか移住者用の住居に入れることになったな」

スガワラ先生は、ほっとした表情で子供達に言った。


ミウはカゲマルと一緒に住居の中を調べている。

「台所とお風呂に水道があって、トイレは水洗トイレ!大昔なのに便利な家だね」


「地方から移住してくる家族のためにこんな家を貸してくれるなんて、親切な街だなあ」

ケンとコタロウも住居の中を見て感心している。


ヒロも住居の設備に感心したが、サスケを連れて、早くサーヤのいる場所を捜しに出かけたかった。

「先生、サスケと一緒にサーヤを捜しに行ってきます」


「待ってよ、ヒロ。わたしも一緒に行くから」

ミウが慌てて、カゲマルを連れてヒロの後を追いかけた。


続いて、ケンとコタロウも住居を飛び出した。

「おーい、俺だけ置いて行くなよー、ミウ」


ヒロは、サスケがどこに向かうのか知らない。

しかし、サーヤを捜すためにはサスケの後について行くしかない。


「年寄りや貧しい若者に食糧を与えろよ!兵隊を増やすより、市民の生活の方が大事だろ!」


「まあまあ、落ち着け。こんなに豊かで便利なこの街で、誰も飢え死になんかしないよ。この街を守る兵隊が足りないと、大変なことになるぞ」


街の中心にある市場で、言い争いをしているようだ。

そこに向かってサスケが歩いて行く。


「大変なことって、どんなことだ?誰かがこの街を攻撃するとでも言うのか?」

「そんなことはないが、もしもの場合に備えておくことも大事なんだよ。三十年前に、地方の独裁者がこの街を攻撃してきたことを忘れたのか?」


さっきスガワラ先生に声を掛けた穏やかそうな初老の男が、目つきの鋭い痩せた若者に反論していた。

この都市の市長選挙が数日後に行われるので、あちこちで市民達が議論しているらしい。


「おじさん、この辺でサーヤっていう女の子に会ったことはないですか?」

早くサーヤのいる場所を知りたいヒロが、初老の男に声を掛けた。


「やあ、さっきの子供だな!サーヤっていう女の子かあ。聞いたことがないなあ。お前の家族かい?」


「そうです。僕の妹なんです。双子だから僕と同じくらいの子供です」

ヒロが回りの市民の反応を見たが、誰も思い当たることがないようだった。


「サーヤっていう女の子がいないか、毎日みんなに聞いてあげるから、元気をだせよ!ところで、この街を守る兵隊を増やすことが大事だって、父親に言っておくれ」

初老の男は、ヒロを励ますつもりで話しかけた。


「あー、分かりました。でも、今言っていた三十年前の地方の独裁者って何ですか?」

何気なくヒロが質問すると、初老の男は得意げに説明し始めた。


「あの丘の上の神殿にはゴータマの神が祭られている。ここはゴータマ神に守られた慈愛に満ちた都市だ。市民同士で戦争をすることはなく、選挙によって市長や議員を決める。市長や議員は市民のために働くが、意見が一致しないこともある。なかなか決まらないことが多いから、不満を持つ市民もいる。三十年以上前のことだが、この都市に不満を抱いて出ていった若い男が、東の方の田舎で急に人気者になった。田舎の人々が困っている問題をどんどん解決して、人々の心をつかんだんだ。その田舎に人々が集まって来たので、小さな都市になった。そこの市民は、その若い男が何でも解決してくれるから全てを任せるようになったんだ。その若い男に反対する者は警察に捕らえられるので、何事も早く決まったそうだ」


「その若い男が、三十年前の地方の独裁者なの?」

ミウが興味を持って質問をした時、役場にいた目の大きな中年の役人が横を通りかかった。


今度は初老の男に代わって、目の大きな中年の役人が説明を始めた。

「この都市に不満を持っていた者達が小さな都市に移住したりしたから、そちらの人口が増えたんだ。若い男は、熱狂的な市民を煽動して兵隊をどんどん増やして、本当の独裁者になってしまった。その独裁者は、小さな都市のやり方を我々の都市に持ち込もうと考えて、この都市を兵隊に攻撃させたんだ」


「その独裁者は何と呼ばれていたんですか?」

ケンは、さっき聞いたアンコクという独裁者と同じ名前なのか知りたいと思った。


目の大きな役人が躊躇したので、初老の男が代わって大きな声で答えた。

「そいつは、アンコクって呼ばれていたよ。変な名前だが、百年以上前にも同じ名前の独裁者が、この都市を攻撃して来たそうだ。その時も三十年前と同じように、我々の兵隊が独裁者達を撃退したんだ。だから、兵隊を増やすことが大事なのさ」


話を聞いていた大勢の市民が、アンコクという名前を聞いて不愉快そうな表情に変わった。

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