4節 命を救える特殊能力(5)
*** サーヤはインドの山奥のどこにいるの?詳しい場所を教えてよ・・・
竜が質問したが、ヒロは詳しい場所を知らない。
「雪で真っ白な高い山がいくつもあって、その下の方にある田舎の村だよ。すごい山奥だけど、お釈迦様の一族はそこで暮らしているそうだよ」
*** そんな説明じゃあ、サーヤのいる所には行けないよ。サスケはサーヤの匂いとか声のする方向が分かるんじゃないか?・・・
竜はヒロよりサスケの能力を頼りにしているようだ。
*** まだ遠すぎて、何の匂いも声もしないよ。とにかく過去のインドに向かって行けば、匂いか声が届くはずだよ・・・
サスケは賢いのか大雑把なのか分からないような返事をした。
*** じゃあ、インドに向かって時間を遡るから、しっかりおいらにつかまっておくれよ・・・
竜はどんどん斜め上に昇っていった。
「時間を遡って過去のインドに行けるんだったら、過去の奈良にも行けるんだろう?マリが怪我をする前に行けば、僕がマリを守ってあげられるよ!」
ヒロが竜に話しかけると、同情たっぷりの声で竜が答えた。
「宇宙の時間は、そんなに簡単じゃないんだ。マリが怪我をする前に行っても、後で同じことが起きるんだよ」
一方、家に戻ったケンは、ヒロが神社の裏の洞の奥に消えていったことを父親、ソラノ先生に話した。
「俺とミウも、ヒロと一緒にマリを助けたいんだ。洞の奥に入る方法を教えてください」
ソラノ先生は上を向いてしばらく考えていたが、ケンとミウに視線を向けて話し始めた。
「ヒロのお父さん、アオヤマシュウジさんは、志能備神社という特別な神社の子孫だから八百万の神々の力を授かっている。一方、ヒロのお母さん、エミリさんは仏陀の子孫として特別な力を持っている。だからヒロには、八百万の神々と仏教が融合した特別な能力があるのだろう。忍者として、ヒロは確かに優秀だが、ケンとミウも同じように優秀だ。そうすると、神社の洞の奥に入るには、ヒロと同じような特別な能力が必要だということになる。それは、神々に通じる能力だ。志能備神社の裏の洞は、神様の抜け道につながっていると言われている。だから特別な能力があれば、神様の抜け道を通って影宇宙に入れるのだろう」
「父さん、その特別な能力は、どうすれば俺たちも持つことができるの?」
「実は父さんにも分からないが、八百万の神々と仏教の両方から神々に通じる能力を授けてもらう修行をすればいいと思う。幸い、志能備神社という特別な神社と仏教の東大寺大仏殿がすぐ近くにある。マリを助けたいという願いを込めて、一心不乱に念じるんだ。心のエネルギーを集中させるために、印を結んで呪文を唱えなさい」
ケンとミウは、その場で精神を統一して、心のエネルギーを集中し始めた。
しかし、ソラノ先生には、ケンとミウが特別な能力を身につけるためには、さらに何かが必要だと思われた。
「このまま訓練していても、特別な能力が身につくまで時間がかかり過ぎる・・・ミウのお母さん、クロイワ先生に、心のエネルギーを強烈に集中できる薬草を調合してもらった方がいい」
「じゃあ、わたしの家に行って、母にお願いしましょう、ケン」
ミウとケンは、大急ぎでミウの家に行き、クロイワ先生に事情を説明した。
クロイワ先生はおだやかな表情で聞いていたが、ミウの説明が終わるとすぐに自分の部屋に入っていった。
ミウとケンが待っていると、クロイワ先生が古いノートを持って部屋から出てきた。
「ヒロのお父さん、シュウジさんが志能備高校の二年生で、私が一年生の時だったわ。志能備神社の裏の洞から神様の抜け道に入りたいから、薬草を調合してくれって、シュウジさんが私に頼んだのよ。高校の先生より、私の方が薬草をよく知ってるからって言ってたわ。その時、古い文献を調べて、薬草の組み合わせをいろいろ試しながら書いたのがこのノートよ」
クロイワ先生は、一ページずつめくりながら詳しく思い出そうとしていた。
「それでヒロのお父さんは、神社の裏の洞から神様の抜け道に入ることができたの?どうやって薬草を調合したの?」
ミウは早くヒロの後を追って行きたくて、ノートを覗き込んだ。
「ヒロのおじいさんに連れられて神様の抜け道に入ったって、シュウジさんは言ったのよ。そして、その先に不思議な空間が見えたけど、私が調合した薬草の効果だったか分からないって、言ってたわ。このことは誰にも言わないようにしてくれって頼まれたの」
「その不思議な空間っていうのが、影宇宙なんじゃないの?お母さんの調合した薬草で影宇宙に入れるってことよ!」
「それはどうか分からないけど、あの時の方法で薬草を調合するから、二人とも精神を統一して心のエネルギーを集中する訓練を続けなさい」
クロイワ先生は、ノートを持って自分の部屋に戻って行った。
ミウとケンが精神を統一して心のエネルギーを集中する訓練を続けていると、バタバタとスガワラ先生が玄関に駆け込んできた。
「クロイワ先生!ヒロが神社の裏の洞の奥に消えていったって、おばあちゃんから聞いたけど、本当ですか?」
「あっ、スガワラ先生。それは本当です。わたし達もヒロの後を追うために訓練を受けているところです」
ミウが玄関に出て、これまでの出来事を説明した。
そこに、薬草を調合して茶色いビンに入れたものをクロイワ先生が持って来た。
「スガワラ先生、そんなに慌てないでください。ミウ、ケン、私が高校生の時にシュウジさんに渡したものと同じ方法で調合した薬がこのビンに入っているわ」
「お母さん、ありがとう。これを飲めばいいの?」
ミウがビンを受取って、ビンのふたを開けると、強烈な匂いがした。
「その薬は飲むものではないのよ。その匂いに包まれて精神を統一すると、神々の世界に近づけると言われているのよ」
クロイワ先生が説明すると、スガワラ先生が手をパンと打って話しだした。
「奈良が日本の首都になるよりずっと前の時代に、神官がその薬を八百万の神々に捧げて祈っていたそうだ。すると、天空から竜が顔を出したので神官が気絶したんだが、その後、気がつくと願いが叶っていたそうだ」