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4節 命を救える特殊能力(3)


「今もマリは昏睡状態よ。中に入って話しかけるのはいいけど、マスクをして入りなさい」


集中治療室の中から、ケンの母親が手で合図をしながら言った。

三人は中に入って、昏睡状態のマリの顔を見つめた。


「マリ、頭が痛いの?何も聞こえないの?マリ、目を開けてよお・・・」

ミウがマリの手を握って、耳元で呼びかけた。


「お医者さんと俺の母さんが治してくれるから、もう少し我慢していろよ、マリ!」

ケンはマリの肩に手を置いて、ゆっくりと話しかけた。


「マリ、治してくれるお医者さんを必ず見つけてくるからね!」

ヒロはマリの額を優しく撫でて、静かな声で言った。


集中治療室を出たヒロは、ケンとミウに言った。

「僕の母さんは、優秀な医学研究者だったって、ばあちゃんが言ってたんだ。母さんが働いていた京都の大学には、すごいお医者さんがいるかもしれないから、これから行ってくるよ」


ヒロは5歳の時に京都を離れたが、しっかり憶えていることがあった。

「今日は日曜日だから、京都に行っても大学はお休みだよ」


ミウが注意したが、ヒロは病院の外で待っていたサスケを連れて、駅に向かって駆け出した。

「早く京都に着いて、吉田神社の近くのオガタ先生に会おう」


必死に走るヒロは、気がつくとつむじ風になって鉄道線路の上を飛んで京都に向かっていた。


「飛んでばかりいると疲れるから、あの電車の屋根に降りて少し休もう、サスケ」

サスケを抱いて飛んでいたヒロは、前を走る電車に追いついて屋根に座った。


しばらく休んで元気になったヒロは、またつむじ風になって電車より先に飛んで行った。

さらに先を走る電車の屋根に降りて休憩したヒロは、もう一度つむじ風になって飛んで行き、京都の吉田山の近くに降りた。


「吉田神社がそこにあるから、オガタ先生の家はここを曲がって三軒目のはずだ。あった!小さかった頃は、こんなに近いとは思わなかったなあ。オガタ先生の家は近所だったから、七年前はサーヤと二人で、オガタのお兄ちゃんのところへ毎日のように遊びに行ったんだよ、サスケ」


ヒロは懐かしい気持ちと緊張感の混じった複雑な思いで、オガタ先生の家の呼び鈴を押した。

オガタ先生は、母さんの大学の先輩で医学博士だ。


「アオヤマ、ヒロ・・・あーっ、あのヒロかい?ちょっと待って・・・おーっ、大きくなったねえ。妹のサーヤは一緒じゃないのかい?突然いなくなって心配してたんだよ。今どうしているの?」


オガタ先生は、ヒロの手を握って顔を見つめた後、ヒロの頭をなでた。

ヒロは、両親とサーヤが行方不明になり、自分が奈良の祖父母に引き取られたことを手短に説明した。


オガタ先生は目をうるませて聞いていたが、ヒロは急いでオガタ先生に質問した。


「奈良の中学校の友達が、トラックにはねられて昏睡状態なんです。病院のお医者さんは知合いの優秀なお医者さん達に治す方法をきいているけど、みんな無理だと言ってるそうです。でも、オガタ先生なら治せるでしょう?」


「あーっ、その患者のことは、さっき京都の脳外科医から電話で聞いたよ。奈良のお医者さんから頼まれたそうだ。ヒロの友達のことだったのか・・・でも、その脳外科医も私も治し方が分からないんだ。今まで、その患者のような容態になって助かったことがないんだよ」


オガタ先生は、ヒロの目を見つめてゆっくりと話した。


「オガタ先生なら治せると思ったのに・・・ほんとに、どんなお医者さんも治せないんですか?マリは、僕の友達は、このまま死んじゃうんですか?」

ヒロはオガタ先生の手を握って必死に訴えた。


オガタ先生は悲しそうな顔をして遠くを見つめていたが、しばらくしてヒロに笑顔を向けながら言った。


「エミリ・・・ヒロの母さんなら、治す方法を知っているかもしれないよ。エミリは世界中の医学を研究しているうちに、ものすごい知識の持主になったんだよ」


「ありがとう、オガタ先生。でも、母さんがどこにいるのか分からないんです」

ヒロは溜め息をついて、オガタ先生の顔を見た。


そこへオガタ先生の息子が二階から降りて来た。

「あーっヒロ!ヒロじゃないか。今まで、どこにいたんだよ。元気だったのか?サーヤは一緒じゃないのか?ヒロは大きくなったけど、中学生としてはあんまり大きくないなあ・・・」


「ああ、お兄ちゃん!ずいぶん大きくなったんだね。もう高校生になったの?」

ヒロは懐かしさのあまり、子供の頃のようにふざけてジャンプしてみせた。


「ヒロとサーヤは不思議な子供だったよなあ・・・ヒロは怪我をしてもすぐに治るし、サーヤは怪我をしてる鳥を触って治してしまうし・・・」


息子に言われて、オガタ先生はヒロとサーヤの特殊能力を思い出した。

「ヒロの父さんは神社の家系だから八百万の神に近い。一方、母さんは仏陀の子孫だから、ヒロとサーヤには日本の神々と仏教の融合した特別な能力があるのかもしれないな」


「オガタ先生にそう言われると、特別な能力で母さんを捜せるような気がしてきました。どうしたらいいか、まだ分からないけど・・・ありがとう、オガタ先生とおにいちゃん!」

ヒロはオガタ先生の言葉に勇気づけられて、先生の家を後にした。


奈良の家に戻ったヒロは、夕食の支度をしているばあちゃんに話しかけた。


「サーヤと僕には八百万の神様と仏教が融合した特別な能力があるのかもしれないって、京都のオガタ先生が言ってたよ。オガタ先生は、母さんならマリを治す方法を知っているかもしれないって言ってたんだ。特別な能力で母さんを捜したいんだけど、どうすればいいの?」


「そう言えば、ヒロは怪我をしてもすぐに治るし、サーヤは猫の怪我を治してしまったねえ。しかも、ヒロはつむじ風になって速く飛べるしねえ。でも、母さんがどこにいるのか誰も知らないんだから、千里眼みたいな特別な能力が必要だと思うよ」


ばあちゃんは、答えの分からない質問に無理に答えようとして、思いつきを口にした。


「そうか、千里眼かあ・・・じいちゃんにお願いすれば、何か分かるかもしれないね」


ヒロはばあちゃんの言葉を信じて、神棚の横に掛けられたじいちゃんの写真に向かって小さな声で話しかけたが、何の反応も感じられなかった。

その様子をサスケがじっと見ていた。


「さあ、夕ご飯を食べて早く寝ないと明日の朝起きられないよ、ヒロ」

ばあちゃんが美味しそうな夕食を並べてくれたが、ヒロは千里眼のことを考え続けていたので、何を食べているのか分からなかった。


どうすれば千里眼になれるのか分からないまま時間が過ぎて、ヒロはサスケと一緒に眠ってしまった。


翌朝、いつもより早く目が覚めたヒロは、サスケを連れて外に出た。

外はまだ真っ暗だった。

上を見上げると、無数の星が明るく輝いている。


「星の向こうに何かが見える・・・何だろう、どんどん遠くが見えてきたぞ、これが千里眼なのかなあ、サスケ・・・」


星が輝く空を見つめてヒロが話しかけると、サスケも空を見て、ワンと吠えた。

「あーっ、母さん!母さんなの?母さんだよね!」


たくさんの星の向こうに金色に輝く部屋があり、その中に母さんがいる。

何かを研究しているようだ。


ヒロの声に気づいて、母のエミリがヒロの方を向いた。

「あっ、ヒロ!ヒロなのね。大きくなったわね。新聞配達をしてばあちゃんを助けているのね。ヒロはよく頑張っているわ」


「母さん!やっと会えたね!話したいことも聞きたいこともいっぱいあるけど、一番先に聞きたいのは、マリのことなんだ・・・」


「京都のオガタ先生に会いに行ったら、母さんが治す方法を知っているかもしれないって言われたんでしょう?ヒロは本当に優しくて強い子になったのね」


「オガタ先生が母さんのことを言ってたよ・・・でもどうして何でも知っているの?」

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