4節 命を救える特殊能力(1)
超古代の四つの謎を勉強した日は、ヒロの十三歳の誕生日だった。
—— スガワラ先生は、昨日、何故ぼくの誕生日を訊いたんだろう・・・
ヒロは、誕生日祝いのケーキを食べている時も考えていた。
学校が終わった後、マリ、ミウ、ケンが誕生日祝いに、ヒロの家に集まっていた。
サスケ、ヒショウ、カゲマル、コタロウも外で遊んでいる。
「普通の歴史の授業で習うのは、五千年前のインダス文明、エジプト文明、メソポタミア文明なのに、一万年以上前の超古代文明があったなんて、驚きだよなあー」
ケーキを食べ終わったケンが、みんなを見ながら言った。
「氷河が融けて海面が上昇したから、超古代文明が海の中に沈んじゃったんでしょ?海底を捜せば、アトランティスの財宝が見つかるかもしれないね」
マリは、財宝が見つかる場面を空想しているようだ。
「ヒロのお父さんは、宇宙の始まりだけじゃなくて古代の謎も研究してたんだから、ヒロに話してくれたことがあるんじゃないの?」
ミウは、ぼんやりと考え事をしているヒロに向かって言った。
「父さん達がいなくなったのは僕が五歳の時だから、難しいことは教えてくれなかったよ。そうだ!ばあちゃんなら何か聞いてたかもしれない・・・ ばあちゃん、父さんから超古代の謎のことを聞いてたの?」
ヒロが台所にいるばあちゃんに声を掛けると、ばあちゃんは夕食の支度をしながら答えた。
「ヒロの父さんと母さんは、じいちゃんとわたしにいろんな話をしてくれたけど、日本にも世界にも大昔から神様がいたって言ってたねえ。その神様と超古代文明の関係は知らないけど、謎を調べるとまた新しい謎が出てくるらしいよ。じいちゃんなら、もっと大事なことを思い出したかも知れないねえ・・・」
ケンとミウが顔を見合わせた。
ヒロのじいちゃんが死んだのは、事故ではなく事件だったことをばあちゃんは知っているのか、ヒロに聞きたかった。
「ばあちゃん、父さんからの手紙か何か、残っていないの?」
ヒロが訊ねると、ばあちゃんは笑顔で答えた。
「可愛い我が子からの手紙だから、わたし宛の手紙は全部持っているよ。だけど、難しい内容の手紙はじいちゃんが大事に保管していたから、夕ご飯を食べた後で捜してみようね」
「あっ、夕ご飯・・・ もう家に帰らないと・・・」
立ち上がりながら、ミウが言うと、マリとケンも立ち上がった。
ケーキを作ってくれたばあちゃんにお礼を言って、三人は帰っていった。
夕ご飯を食べた後、ばあちゃんとヒロは、父さんからじいちゃんに来た手紙を捜した。
「思ったほど難しい内容の手紙はないねえ。難しい秘密の話は、父さんが直接じいちゃんに話したんだろうね」
予想外に少ない手紙のすべてに目を通して、ばあちゃんが言った。
「あっ、この手紙に書いてあることは・・・」
一通の手紙を読んでいたヒロが、声をあげた。
—— 影宇宙に入ると時空を超えられる ——
父さんがじいちゃんに出した手紙に書いてある影宇宙という言葉は、ヒロが四歳の時に父さんから聞いた言葉だった。
「ばあちゃん、『影宇宙に入ると時空を超えられる』って、父さんから聞いたことあるの?」
「わたしは聞いたことがないと思うよ。難しすぎて頭に入らなかったのかもしれないけどね・・・」
ばあちゃんは、じいちゃんが保管していた手紙を片付けながら首を振った。
「父さんは、影宇宙に入って過去か未来に行っちゃったのかなあ。母さんとサーヤも一緒に行ったのかなあ。ばあちゃん、何か知ってるの?」
ヒロがばあちゃんの顔を見て訊くと、ばあちゃんは悲しそうな目をして答えた。
「自分の可愛い子供と家族のことなのに、ばあちゃんは何も知らないのよ。じいちゃんは何か知ってたかもしれないけど、『何も知らない方がいい』って言ってたのよ」
—— ヤミっていう名前を言うと、ばあちゃんがもっと心配するかもしれない・・・
ヒロは、ばあちゃんをこれ以上悲しませたくなかった。
翌日の朝、ヒロはいつものように新聞配達を済ませ、マリを誘って一緒に中学校へ行った。
「今度の土曜日、東大寺大仏殿の記念式典で、マリが歌うんだよね」
学校へ行く途中、ヒロが話しかけると、マリは目を輝かせて説明し始めた。
「志能備中学校から六人選ばれたの。各学年二人ずつだから六人ね。奈良の五つの中学校から六人ずつで、合計三十人で歌うのよ。わたしは、その真ん中で歌うことになったのよ」
「すごいな!マリが奈良で一番歌の上手な中学生ってことだね」
「エヘヘッ、そうならうれしいな。ヒロも出席してくれるんでしょ?」
「もっちろん!ケンとミウも行くし、ばあちゃんも行くって言ってたよ」
ヒロとマリが話しながら教室に入ると、ミウが笑顔で話しかけてきた。
「今度の土曜日、マリが真ん中で歌うんだよね。ちゃーんと練習してるの?」
「もう、完璧よ!ミウもびっくりするくらい上手に歌えるから」
マリは歌が上手だし、自信を持っている。
「土曜日の記念式典には、有名な声楽家も出て歌うらしいよ。そんなところで、マリが中学生代表で歌うんだから、すごいよ!」
ケンも少し興奮して、話に加わってきた。
「将来の総理大臣といわれている有名な国会議員がスピーチをするって、お父さんが言ってたよ。警備が大変になるって・・・」
ミウが、父親の警察官から聞いたことを話した。
「それでサスケが空を見たりして、いつもと様子が違ったのか・・・ヒショウはいつもと変わったことないの、マリ?」
ヒロは、朝からサスケが落ち着かないのが気になっていた。
「そう言えば、今朝は高い木に留まってあちこち見ていたなあ。でも、ミウのお父さんが警備してくれるから、きっと大丈夫よ」
マリは少し不安になって、ミウの顔を見た。
その週の土曜日の朝、マリは志能備中学校の歌の代表五人と一緒に歩いて東大寺大仏殿に向かった。
記念式典は十時に始まり、国会議員のスピーチの次にマリ達三十人が歌うというスケジュールになっている。
大仏殿の周囲の道路には、警備の警官が多数立っていて、不審な者が簡単に近づけないような雰囲気だ。
「まだ早いから、あっちの池の近くで練習しようよ」
マリ達は、大仏殿の正面入り口手前の池のほとりに並んで歌の練習を始めた。
暫くすると隣の中学校の代表六人が池の向こう側に現れ、こちらに近づいてきた。
「私達も一緒に練習していいでしょう?」
その六人は向かい合って、マリ達と一緒に歌の練習を始めた。
十五分くらい練習した時、一台のトラックが大仏殿の正面入り口に近づいてきた。
不審に思った警官達が、そのトラックを取り囲もうとした。
するとトラックは急発進して、警官達をはね飛ばしながら、池に向かってきた。
志能備中学校の六人は忍者らしく身をかわすことができるが、隣の中学校の六人は立ちすくんだまま動けない。
「こっちへ来て!早く!」
マリは夢中で手を引いて助けようとしたが、トラックが猛スピードで突進してきた。
次の瞬間、ドン、ドーン、マリと隣の中学校の六人がはね飛ばされた。
トラックは、池に突っ込んで止まり、逃げようとした運転手を、警官達が取り囲んで逮捕した。
「救急車を呼べーっ!四台呼べーっ!早くしろ!早くーっ!」
警官が必死に叫んでいる。ミウの父親だ。
「マリ!マリ!しっかりしろ!マリ・・・」