3節 超古代の四つの謎(4)
「ウワッ、石に潰されるーっ!」
ケンが大声で叫んだ時、ヒロはサスケを抱き上げて、高く高くジャンプしながらケンに言った。
「思いっきりジャンプしよう。僕たちは忍者だろう!」
ケンもコタロウを左手で抱きかかえて、両側の高い壁を片方ずつ強く蹴って大きな石より高くジャンプした。
ジャンプした二人の下を通過した大きな石が、入り口の石の扉にぶつかった。
その反動で入り口の石の扉が動き、床に開いた穴が現れた。
その穴に大きな丸い石が落ちて、ボッチャーンという音がした。
大きな丸い石は、ナイル川に続く地下水路に落ちたようだ。
雨期になってナイル川の水位が上がれば、大きな丸い石は水圧を利用して再び上り坂の頂上に戻る仕組みになっているのだ。
難を逃れたヒロとケンは、上り坂の頂上まで駆け登った。
大きな丸い石が乗っていた石造りの筒の両側は深い溝になっていて、下に地下水路が見える。
その溝の向こう側は四角い部屋になっていて、正面の壁一面に壁画が描かれている。
壁画のなかには、飛行機、ヘリコプター、潜水艦、電球のようなものがある。
「七千年も前に何故、飛行機や潜水艦の絵を描けたんだろう・・・」
ケンが呟いたが、ヒロにも答えは分からない。
横の壁には石の棚が十段ほどあり、四角い石板が棚一杯に並べられている。
もう一つの横壁にも十段ほどの棚があり、その全ての棚には粘土板が並んでいる。
「石板や粘土板に書かれている文字の意味は分からないけど、できるだけたくさん赤外線ビデオカメラで撮って帰ろう」
ヒロとケンは正面の壁画を撮った後、右と左に分かれて大急ぎで石板と粘土板の文字を撮影した。
「ヒロ達が大量の記録を撮影中です。まだまだ時間がかかると思います」
隠し通路の状況を外でモニターしているロンが、スガワラ先生に言った。
「そうか、次は後班の番だな」
スガワラ先生が後班に合図を送ると、身軽なヨウがクフ王のピラミッドをピョーンピョーンと飛びながら登り始めた。
クフ王のピラミッドはエジプト最大のピラミッドで、その高さは百四十メートルもある。
ヨウはピョーンピョーンと飛びながら、どんどん頂上に近づいて行く。
あっけにとられていた観光客が、ヨウを指差して騒ぎだすと、大勢の観光客や警備員がクフ王のピラミッドに集まってきた。
すると、ピラミッドのそばで大勢の人達が集まるのを待っていたナオミや後班の生徒達が、一斉にピラミッドを駆け上り始めた。
後班の生徒達も、よく目立つ赤いチェック柄の制服を着ている。
ほとんど全ての観光客がクフ王のピラミッドに集まって、十人の生徒達がピラミッドの頂上に登って行くのを見ている。
「アーアアー!」
ターザンのような大声を出して、ヨウがピラミッドの頂上から斜めに飛び出した。
下から見上げていた観光客は、ヨウがピラミッドの斜面にぶつかると思って、皆ハッと息をのんだ。
しかし、ヨウが両手を大きく広げると、モモンガのようにスーッと斜めに滑空してピラミッドから離れた。
ヨウの家に代々伝わる滑空衣を着ていたのだ。
それを見て、大勢の観光客は拍手喝采を送った。
すると、ヨウは地上百メートルくらいの高さから急に垂直に落ちた。
またまた観光客がハッと息をのんで騒然となった。
五十メートルくらい落ちた時に、ヨウは重力操縦羽を広げて、「ヤッ」と掛け声をかけた。
すると、垂直に落ちてきたヨウが直角に曲がり、スッと水平に飛んで半円を描いてピラミッドの裏側に消えて行った。
続いて、後班の生徒達が頂上からピラミッドの裏側にスッと消えて見えなくなった。
ピラミッドの裏側に来た後班の生徒達が、赤いチェック柄の制服を裏返すと、ピラミッドの石のような色の制服になって、ピラミッドの石と区別できなくなった。
「たくさん撮影したから、そろそろ隠し通路の入り口に戻ろうよ」
ヒロが四角い石板に刻まれた文字をビデオカメラで撮りながらケンに言った。
「そうだな。でも、この部屋からどうやって戻ればいいのかなあ」
ケンは部屋全体を見回しながら、ヒロだけでなくコタロウやサスケの顔を見た。
サスケの視線の先を見たコタロウが、横壁の石の棚の一番上に登って部屋の角の天井をたたいた。
ヒロが棚の上に登って、その天井の石を押し上げると意外に簡単に動いて、人間が通れるくらいの穴が開いた。
「やったな、ヒロ!ここを通れば、もとの入り口に帰れる!」
ケンはサスケを上に持ち上げながら、声を弾ませた。
天井の穴から入ると、人間が中腰で歩けるくらいの狭い通路が伸びているが、緩やかな上り坂になっている。
ようやく坂の頂上まで登ったら、今度は急な下り坂だ。
真っ暗で先が見えない。
しかも排気口のように狭くて、足を下にして滑り落ちる以外に方法がない。
「この先に何があるか分からないけど、僕のあとから慎重に付いて来いよ」
ヒロが足を下にしてズルズルと滑り落ちて行った。
続いて、サスケ、コタロウ、ケンの順に滑り落ちて行った。
ヒロが、滑る速度が徐々に速くなったと思ったら、ドスンと平らな石の上に落ちた。
最後にケンがドスンと落ちた時に平らな石が二つに割れて、みんなが隠し通路の中の積み上げられた石の上にゴロゴロと転がり落ちた。
「アアーッ、ヒロ!良かった、ケン!」
隠し通路でカゲマルと一緒に待っていたミウが、歓声を上げてヒロとケンに抱きついた。
「ヒロ達が入り口に戻ってきました。もうすぐ隠し通路から出てきます」
大スフィンクスから離れた場所で、隠し通路の状況をモニターしていたロンがスガワラ先生に告げた。
「そうか、みんなに目立たず帰ってくるように合図をしよう」
スガワラ先生が先班、中班、後班に合図を送っていると、ヒロ、ケン、ミウがスッと現れてニッコリ笑った。
サスケ、コタロウ、カゲマルも得意顔になっている。
暫くして、ピラミッドの石のような色の制服になっていた生徒達が、数人ずつ目立たず帰ってきた。
「よーし、みんな揃ったようだな。警備員に見つかる前に教室に戻るぞー!さあ、みんな、この指先を見ろ!」
スガワラ先生が突き出した左手の人差指を、生徒達が見た瞬間に、大スフィンクスも三大ピラミッドも消えて、生徒達は元の教室の中に戻っていた。
「みんな、よく頑張ったな!みんなが各自の役割を果たしたから、侵入班が凄い発見をしたぞ。隠し通路の中を調べて、隠し部屋の様子や古い記録をビデオカメラで撮影してきたんだ」
先生が、興奮を抑えきれない声で生徒達に言った。
「でも、撮影した文字がいつの時代のどこの国の言葉か分かりません」
ヒロはビデオカメラを先生に渡しながら、みんなの顔を見た。
「隠し部屋の壁に、飛行機、ヘリコプター、潜水艦、電球のようなものが描いてあったけど、そんなものが七千年前にあったとは思えません」
ケンが先生に、ビデオカメラのモニターを見せた。
続いてミウもビデオカメラのモニターを先生に見せて言った。
「人間が入れないくらい狭い隠し通路の天井に、星空が描いてありました。どうやって描いたんでしょう?」
「七人の小人が描いたんじゃないの?白雪姫の物語に出てくる小人・・・」
そう言って、マリはミウの顔を見た。