3節 超古代の四つの謎(3)
「やったあー!今度はエジプトのピラミッドに行けるんですか?」
マリが明るい笑顔で歓声を上げると、先生は無理に厳しい表情になって言った。
「隠し通路に侵入するのは難しいぞ!みんな、変装してエジプトの中学生になれー。情報収集術の装置や道具を持って行くのを忘れるなよ。さあ、みんな、この指先を見ろ!」
スガワラ先生が突き出した左手の人差指を、生徒達が見た瞬間に、教室が消えて本物の大スフィンクスが前方に現れた。
先生は、エジプトの学校の先生の姿に変装している。
「向こうの大スフィンクスの近くには、観光客が多いし警備員もいるから、隠し通路に侵入するのは簡単じゃないぞ。侵入している間は、観光客や警備員達の注意をそらしておく必要がある。そのために、メンバーを四つの班に分けるぞ」
大スフィンクスから離れた場所で、先生が小さな声で生徒達に言った。
この付近には観光客も警備員もいないが、大スフィンクスや三大ピラミッドの周辺には大勢の人がいる。
生徒達は、先生の指示で四つの班に分かれた。
先班はマリを含む歌の上手な生徒達七人、中班はジョウやミキのような大柄の騒がしい生徒達九人だ。
後班は身軽なヨウや背の高いナオミを含む動きの速い生徒達十人、そして侵入班はヒロ、ケン、ミウの三人とサスケ、コタロウ、カゲマルの三匹だ。
この三匹が教室に入ってきたことに、先生は気づいていたのだ。
最後にもう一人、科学好きのロンは、全体の作戦を指示する先生のアシスタントになった。
「さあ、先班、中班、後班は、クフ王のピラミッドの近くへ移動して、先班から作戦を開始しろ。侵入班とロンは、大スフィンクスの隠し通路の入り口に向かうぞ」
スガワラ先生が指示を出して暫くすると、大スフィンクスから離れたクフ王のピラミッドの近くで、マリが魅力的な声で歌い始めた。
その歌声に合わせて、先班の生徒達が大声で合唱し始めた。
生徒達は、よく目立つ赤いチェック柄の制服を着ている。次第に観光客が周りに集まってきて、大スフィンクスの付近にいた人達も大勢、先班の方へ移動して行った。
「先生、隠し通路に侵入するところが映らないように、監視カメラにダミーの映像を映します」
超小型PCを操作していたロンが先生に言った。
「よしっ、急いで入れ!」
隠し通路の入り口付近に誰もいないことを確かめて、先生が指示を出すと侵入班の三人と三匹が、スーッと入り口に入って行った。
三人は、超小型赤外線ビデオカメラと超小型無線電話を持っている。
入り口から降りて行くと、隠し通路は大スフィンクスの内部へ続いている。
しばらく進むと、その先は石が積み上げられていて行き止まりのようだ。
しかし近づくと、カフラー王のピラミッドの方角に向かって、三十センチ四方の狭い通路が延びている。
「こんなに狭い通路には入れないなあ」
ヒロが困った表情で呟くと、ミウがカゲマルを抱き上げて言った。
「カゲマルの体は細いから、もっと奥まで行けるよ。わたしの超小型赤外線ビデオカメラをカゲマルの額に付けておけば、カゲマルが見てきたものを後から見れるでしょ」
ミウがカゲマルの額にビデオカメラを付けて何か囁くと、カゲマルはサッと狭い通路に入って行った。
「先生、カゲマルが帰ってくるまで少し時間がかかりそうです」
超小型無線電話を通じて隠し通路の中の様子をモニターしていたロンが、スガワラ先生に告げた。
「分かった。じゃあ、中班に合図しよう」
先生が無線電話で合図すると、クフ王のピラミッド付近にいた中班のジョウとミキが、大声で喧嘩を始めた。
同時に中班の生徒達が、ジョウとミキを囲んで騒ぎだした。
中班の生徒達も、よく目立つ赤いチェック柄の制服を着ている。
この騒ぎが始まったので、先班の歌声に飽きてスフィンクスの方に戻りかけていた観光客が、またクフ王のピラミッド付近に集まってきた。
騒いでいた中班の生徒達は、ジャンプ、とび蹴り、宙返りなどをして観客が飽きないように派手なパフォーマンスを続けた。
「あっ、光りが・・・二つ見える・・・」
隠し通路の中でカゲマルの帰りを待っていたミウが、狭い通路の中に黄色く光る二つの目が近づいてくるのに気がついた。
「カゲマルが帰ってきたよ。あー、カゲマル、何を見てきたの?」
ミウがカゲマルを抱き上げて、その額から超小型赤外線ビデオカメラをはずした。
ヒロとケンも近づいて、三人でビデオカメラの小さなモニター画面を見つめた。そこに写っていたものは、カフラー王のピラミッドまで続いていると思われる長い隠し通路と、その通路の天井に描かれている星空だった。
「あんなに狭い通路に、誰がどうやって星空を描いたんだろう」
ヒロが呟いたが、ケンもミウも答えが分からない。
通路も行き止まりなので、三人は諦めて入り口に戻ろうとした。
その時、隠し通路の中の積み上げられた石の上で、あちこち動き回っていたコタロウが通路の天井に頭をぶつけた。
その瞬間、ケンが寄りかかっていた大きな石がかすかに動いた。
「あれっ、この大きな石が動くぞ!」
ケンが大きな石を強く押すと、塞がれていた隠し通路が現れた。
隠し通路は、ナイル川の方角に向かって続いている。
その場にミウとカゲマルを残して、ヒロとケンがサスケとコタロウを連れて通路を進んだ。
しかしすぐに石の壁が現れて、行き止まりになった。
「今度もコタロウが天井に頭をぶつければ、石の壁が開くのかな・・・」
ケンがコタロウを持ち上げて天井に近づけると、コタロウが頭を天井にぶつけた。
「そんなに簡単じゃないだろう・・・」
ヒロが笑って見ていると、暫くしてほんとに横の石壁がギシギシと音を立てて開いた。
「エエーッ?! やったあー!これは隠し部屋だあー」
開いた横壁の向こうに進みながら、ヒロが歓声をあげるとサスケも飛び跳ねて喜んだ。
「暗くて良く見えないけど、円形競技場みたいな部屋だな」
続いて部屋に入ったケンが、暗い部屋を見渡して言った。
二人と二匹は慎重に進んで、部屋の中央に立った。
丸くて低い天井いっぱいに星座が描かれている。
ギイーッという音で振り返ると、今入ってきた入り口が勝手に閉まって出られなくなった。
「先に進む出口がどこかにあるはずだ。周りの壁にたくさん星座があるから、その中のどれかをたたけば、壁が開くんじゃないか」
薄れて見えにくくなった十二個の星座を見回しながらケンが言うと、ヒロが一つの星座を目指して前に進んだ。
「きっと、オリオン座をたたけば壁が開くよ!」
ヒロに続いてみんなが前に進み、丁度一つの長方形の石盤の端に乗った時、クルリと石盤が下に回転してみんな揃って落下した。
ドスンドスンと固い石のスロープに落ちた。
「ワッワアー!すっげえー急なスロープだなあ!」
ケンが叫びながら、急な石のスロープを滑り落ちて行く。
ケンに続いて、暗くて幅の狭いスロープをコタロウ、サスケ、ヒロの順に滑り落ちて行く。
幅の狭いスロープの両側がどんどん高い壁になるにつれて、スロープが緩やかになった。
その先は行き止まりになっていたが、右手に大きな石があった。
「今度は、コタロウが頭をぶつける天井がないぞ」
ケンが上を見上げて呟いた時、ヒロが大きな石に寄りかかると、石がゆっくり滑って扉のように開いた。
そこは部屋ではなく、両側が高い壁になった暗い通路だ。
—— 簡単に開くなんて、気味が悪いなあ・・・
ヒロが先頭になって、 サスケ、コタロウ、ケンの順に狭くて暗い通路をゆっくりと進んだ。
その先は急角度の上り坂になっている。
その上り坂の頂上で、大きな丸い石が今にも転がり落ちそうに揺れている。
「ケン、あの丸い石を見ろよ!こっちに落ちてくるぞー!」
ヒロが叫ぶと同時に、大きな丸い石がゴロリと狭いスロープを転がり落ちて、こっちにやってくる。
両側は高い壁になっていて、逃げ場は後しかない。
ヒロもケンも必死で後に走ったが、ゴロンゴロンと大きな石が凄いスピードで近づいてくる。