2章8節 母はヒマラヤ山麓に(1)
突如現れた薬師如来が、ヒロたちを母の元へ案内すると言う。
この薬師如来を信用してよいのか、サーヤが心配していると、薬師如来を信用しなさいという父シュウジの声がサーヤの心に届いた。
校長の声が皆の耳に聞こえる。
「ヒロたちは薬師如来と一緒に影宇宙の中を移動して、母のいるヒマラヤ山麓に向かった。移動中に、薬師如来はシュウジと独裁者の魂のことを説明したのじゃ」
「独裁者の魂は、過去の地球に何度も神として現れたことがあった。
今また、強大な独裁者の魂が地球に密かに現れようとしていることを知ったシュウジは、影宇宙に基地を造り、八百万の神を使って地球を防御する手段を構築している」
「その過程で独裁者の魂との闘いがあり、母エミリを安全な仏陀の時代に送り届け、サーヤを母の一族に預けた。
さらにヒロを奈良の祖父母に預け、忍者としての修行をさせた」
ヒロたちが薬師如来の話を聞きながら影宇宙の中を移動していると、宇宙の中で起きた超新星爆発の衝撃を受けた。
その衝撃が強烈だったので、ヒロたちは影宇宙から飛び出した。
「宇宙空間に放り出されたヒロたちは、巨大なブラックホールに引き寄せられていることに気づいた。ブラックホールに近づくほど、時間の進み方が遅くなる。
ヒロたちは、ゆっくりとブラックホールに飲み込まれてしまったのじゃ」
ブラックホールに飲み込まれたヒロたちは、気を失ってしまった。
薬師如来の声で、最初に気がついたのはヒロとサーヤだった。
「ヒロたちは、ブラックホールの向こう側の子宇宙の中にいた。
しかし、ヒロたちは、自分がどこにいるのか分からなかった。」
薬師如来は、ヒロ、サーヤ、ケン、ミウ、マリ、ロンに向かって、自分たちがブラックホールを通って子宇宙の中に現れたことを教えた。
「この薬師如来は、父シュウジのクローンが中に入っている装置じゃ。我々の宇宙から影宇宙やブラックホールの向こうの子宇宙の中にも高速で移動できる」
「じゃあ、この薬師如来は八百万の神になって、マルチバースを探検しているのか」
ケンは、薬師如来が羨ましくなった。
子宇宙から我々の宇宙に直接戻るには、あのブラックホールを逆に通過しなければならない。それは過酷でほとんど不可能な旅になる。
「この子宇宙は、ある時空で影宇宙と交差しているから、そちらを通ってヒマラヤ山麓に行こう」
薬師如来は、殺伐とした子宇宙の中を高速で移動する。
ヒロたちは、タリュウたちが一つになった竜の中で、気が遠くなって行く。薬師如来と竜が、超高速で子宇宙から影宇宙に移動しているからだ。
「自分たちが、どこにいるのか、どんな時代にいるのか、全然わからない。
まわりの景色も見えない」
論理的に理解できない状況が苦手なロンが、一番早く気を失った。
意識朦朧としているヒロたちに、薬師如来が声をかけると、サーヤが遠くの山を見る。
「あれは、ヒマラヤ?
あっ、近くに母さんが見えるよ。ヒロ、外を見てごらん」
ヒロはすぐに外を見る。あっ、と言ってサーヤの手を取り影宇宙から飛び出した。
「母さん、母さん、ヒロだよ、サーヤも一緒だよ」