2節 忍者学校の厳しい訓練(5)
ようやく、待ち望んでいた土曜日がやって来た。
ヒロとマリが、サスケとヒショウを連れてミウの家に着いた時には、玄関前でケンがミウと話をしていた。
二人の側には、コタロウとカゲマルが置物のように座っている。
コタロウは、ケンが飼っている猿で、カゲマルは、ミウの飼い猫だ。
ミウの家は、門から玄関までは現代風に見えるが、建物内部の構造は忍者屋敷になっている。
「ミウ、すぐにお父さんに会えるの?」
ヒロは、はやる気持ちを抑えきれずに、大きな声でミウに訊いた。
「だいじょうぶよ。中で待ってるから、入りましょ」
ミウに続いて、みんなが古風な広い和室に入ると、野武士のような風貌の父親がニコニコして座っていた。
皆が挨拶を済ませると、ミウの父親が話し始めた。
「私がこの家に生まれる前から、ヒロのおじいさんは志能備神社の神主だったよ。六年前に亡くなった時は、自動車事故として処理されたが、最近になって殺人事件だった可能性が高くなったことは、ミウから聞いているね?」
「はい。でも何故、犯人はじいちゃんを狙ったんですか?」
ヒロがクリクリした目を大きくして質問した。
「それは尋問しても答えないんだ。しかし、その犯人が今回起こした事件と同様、誰かに唆されたか、何かを狂信して、おじいさんを狙って自動車ではねたようだ」
「ヒロのおじいさんが病院に運び込まれた時、『シュウジ・・・私はシュウジだ・・・ヤミ・・・ヤミ・・・』ってうわごとを言ってたそうだけど・・・」
ケンの母親が警察に話したことから何が分かったのか、ミウが問いかけた。
「おじいさんが犯人に、『私はシュウジだ・・・』って言ったから、車ではねられたのかも知れないが、犯人は何も話さない。『ヤミ』というのが、その犯人の名前ではないことは分かっているが、犯人を唆した人物の名前なのか、あるいは組織の名前なのか、まだ分かっていない」
ミウの父親が残念そうな表情でヒロを見ると、ヒロが小さな声で言った。
「じいちゃんは、父さんの名前を言って、父さんの身代わりになって、殺されたってことですか?」
「それは、まだ分からない。しかし、君のお父さんとお母さんが行方不明になっていることと六年前のおじいさんの事件が関係しているかもしれない。残念ながら、今まで分かっていることはこれだけだ」
ミウの父親が大きな溜め息まじりに話し終えると、ヒロはお礼を言って立ち上がった。
四人と三匹と一羽は、ミウの家を出ると、コタロウを先頭にケンの家に向かった。
ケンの家は、ミウの家から見える高い松の木のそばにある。
その松の木には、ケンが小さい頃に剣術の稽古をした時の傷がたくさん付いている。ケンの家は、外見も内部も古風な忍者屋敷だ。
「母さん、ただいまあ。みんなを連れてきたよー」
家の中に向かってケンが声をかけると、奥からケンの母親が応えた。
「待っていたのよ。さあ、みんな入りなさい」
皆が、背の高い健康そうなケンの母親に会釈をして座った後、ヒロが質問した。
「じいちゃんが病院に運び込まれた時、『シュウジ・・・私はシュウジだ・・・ヤミ・・・ヤミ・・・』ってうわごとを言ってたそうですが、何故そう言ったか分かりますか?」
「六年前は事故だと言われていたから、ヒロのおじいさんのうわごとは意味が分からないまま、ぼんやり憶えていたのよ。でも、警察に訊かれて思い出したけど、おじいさんは運び込まれた時、シュウジさんの服を着ていたような気がするわ。ヒロが小さかった頃は、毎年夏休みに皆で志能備神社に帰ってきてたから、ヒロのお父さんの服も憶えていたのよ」
「やっぱり、じいちゃんは父さんの身代わりになって死んだのか・・・あのー、ヤミって何のことだと思いますか?」
ヒロは、強い忍者だったじいちゃんが勝てなかった敵がヤミなのか、ヤミとは人の名前なのか組織の名前なのか、知りたかった。
「おじいさんがヒロのお父さんの身代わりになって死んだのか、まだはっきりしていないのよ。おじいさんがうわごとで、ヤミって言ってたけど、聞き違いかもしれないわ。でも、おじいさんは悔しそうに二度言ったから、私は・・・敵の名前じゃないかって思うよ」
ケンの母親は、思い出したことから推測できる話しをしたが、ふっと危険を感じて小声でみんなに言った。
「ヤミの関係者がどこにいるか分からないから、ヤミって言葉は口に出さないようにしなさい」
みんなは、お互いの顔を見合わせて大きく頷いた。