2章5節 古代メソポタミアの謎(2)
「忍者中学校で習った児童虐待防止法は、全国民に通報義務があるって」
ロンが言うと、ミウが応じる。
「近所で虐待の疑いがあるときは、児童相談所のホットラインに電話するって習ったよ」
「でも、悲惨な事件がニュースになっているよね」
サーヤが悔しそうにつぶやくと、ケンがサーヤの肩に手を触れる。
「それは警察が早く犯人、つまり親を逮捕しないからだよ」
「虐待された子供が死んでから、警察が犯人を逮捕したってニュースが多いよ」
マリが納得できない気持ちを口にすると、ヒロは無念の表情を見せる。
「児童相談所が子供を保護する、警察が犯罪を調べて逮捕するという法律がうまく実行されていないからだよ」
「そうじゃな、法律は出来たが警察の役割が小さいから、虐待死を未然に防げないんじゃ」
校長は説明を続ける。
「全国民に通報義務があるというが、罰則がないから普通の国民は義務と思っていないし、通報の効果がないから関わるのを避けとるんじゃ」
「一方、アメリカは同じような法律が早くから出来ておった。虐待死につながりそうな場合は警察が未然に犯罪を調べて、犯罪者を逮捕しておるのじゃ」
「通報の成果があるから、国民も積極的に通報しておるぞ」
校長の説明に納得したケンが、皆に向かって宣言する。
「俺は日本の法律を改善してから警察官になって、虐待する親を逮捕するぞっ」
「そうだね、警察が犯罪を防ぐ仕組みにすれば、虐待死を減らすことができるよ」
ヒロはケンと拳をぶつけ合った。
「ところで、ヒロとミウは仲良くしておるか?サーヤとケンはどうじゃ?マリとロンは?」
校長の話が突然変わったので、皆は驚いて声が出ない。
「まあ良い、自分達からは話しづらいじゃろう。時間がないから、かいつまんで説明しよう」
校長の楽しそうな声が聞こえていたが、急に何も見えなくなり声も聞こえなくなった。
ミウは、兄妹のように育ったケンとは違う何かをヒロに感じていた。そんな自分に気づいた時から、ヒロを最も大切な人と想うようになった。
ヒロは、幼い頃から双子の妹サーヤと生き別れて暮らした。マリはその代わりのような存在として特別な幼馴染だ。しかしヒロは、大人になったらミウと共に前に進むだろうと感じていた。
サーヤは、ケンが自分に好意を感じているのは分かっていて、優しく受け止めている。これからケンと自分が向かう方向を想像する時もある。
ケンは、サーヤに再会した時に自分の気持ちが分からなくなった。ミウに好意を抱いていたのに、サーヤにはもっと強い好意を感じていることに戸惑っている。
マリは、歌と同じようにヒロとサスケとヒショウが大好きだ。ミウがヒロを好きになっていることに気づいても気にしないようにしている。博識のロンに好意を感じ始める。
ロンは、天真爛漫のマリに対する好奇心が好意に変わり始めている。自分にない歌の才能と楽観的な精神構造に魅力を感じている。
「さて、五千年前のメソポタミアは、その五百年前の大洪水に見舞われた後じゃった。
それまでも氷河の融解による洪水が、繰り返し起きていたのじゃ」
校長の声が戻ってきた。
「古代人達は、アンの魂に教えてもらった最新技術で、複数の街を最新の都市国家に造り変えたのじゃ」
「その記憶が、ギルガメシュの叙事詩として残っておる。さらに三千年後には旧約聖書のノアの箱舟伝説になったのじゃ」
ヒロ、サーヤ、ミウ、ケン、マリ、ロンとサスケ、カゲマル、コタロウ、ハンゾウ、ヒショウは影宇宙の中を通って、四千年前の古代メソポタミアに現れる。
校長の説明が始まる。
「ヒロたち皆が、四千年前の古代メソポタミアに現れた時には、既にジゴクの魂が地方の豪族をそそのかして、シュメール人の複数の都市国家を混乱させていた」
「ジゴクの魂とは何か、それは後になれば分かること。アンの魂がシュウジに依頼したのは、この混乱を解決することじゃ」
<「2章6節 シュメールの神々」に続く>