2章4節 アトランティスと古代エジプト(4)
「ヒロ達6人と犬、猫、猿、鳥、象が影宇宙の中を通って五千年前のエジプトに現れた時には、気候変動によって付近が砂漠化しておった。ということは、アトの国王ラーの時代にはスフィンクスの周りは緑に覆われていたということじゃ」
校長の話は、さらに続く。
「五千年前のエジプトには、スフィンクス文明に基づいて、多様な人種の混血によるエジプト文明が繁栄していた」
「八千年前、アトの国王ラーの後継者争いに敗れた人々はスフィンクスの地を離れ、エジプトの各地に分散して行った。彼らはそれぞれの土地で王国を造り、栄枯盛衰を繰り返していたのじゃ」
「六千年前には、トガル、エスパが各地と交易を行い勢力範囲を拡大していたが、軍事力を増強したランス、ギリスが競って周辺国を支配し始めた」
「一方、今ではルクソールと呼ばれる地域に繁栄していた大国スマンに衰えが見え始めた。
その支配地域は広大で、ナイル川の恵みによって豊かな農地が広がっていたのじゃ」
「トガル、エスパの後に勢力を拡大したギリス、ランス、ジャーマは、大国スマンの支配層を懐柔しつつ、スマンの広大な領地を徐々に植民地化して行った。さらに、アトの時代から続く古い国プスブ、後発国ソロシ等も衰退した大国スマンの豊かな領土に進出した」
「争いを避けるために、ギリス、ランス、ソロシは三国同盟を結び、広大なスマンの領地を自分たちの都合の良いように分割することを勝手に決めた。しかし、その領地には多様な部族がそれぞれの地域に居住しており、三国同盟が勝手に決めた領地分割によって、将来、部族同士が争うことになってしまうのじゃ」
「ついに、ギリス、ランス、ソロシがジャーマ、プスブと衝突し、全面戦争に突入した。ジャーマとプスブはスマンの一部だったトルンの協力を得て戦力を増強した」
「一方、ギリスとランスは広大なスマン領土各地の部族に将来の領地譲渡を約束して戦力を強化した。さらにギリスは、放牧民として自国を持たず戦闘力に優れたダヤ族にも領地譲渡を約束して協力させたのじゃ」
「そして、全面戦争が終結したが、戦勝国のギリス、ランス、ソロシは、多数の戦死者を出して疲弊してしまった。そこに、領地譲渡を約束したスマンの各部族とダヤ族から約束を果たすように迫られた」
「ところが、ダヤ族に譲渡する地域はスマンのある部族に譲渡すると約束した地域と同じ地域だった。さらに三国同盟が勝手に決めた分割線は、スマンの各部族に争いをもたらしたのじゃ」
「自分たちが引き起こした問題を解決できなくなったギリスやランスは、全ての国々を集めて相談し、ダヤ族とスマンの部族に約束した土地を折半するように決めた。そんな解決策はどちらも納得できず、ダヤ族とスマンの各部族の戦争が始まったのじゃ」
「それはひどい!ギリスは無責任すぎる」
ヒロとケンが同時に声をあげた。
「そのとおりじゃ。しかも戦闘力に優れたダヤ族は、約束された土地の大半を武力で獲得してしまった。その後は、ギリス、ランス、ソロシ、ジャーマ、さらに新大国エスエが、ダヤ族、スマンの各部族をばらばらに支援したので、混乱した紛争状態が100年以上続くことになったのじゃ」
サーヤ、ミウ、マリがため息まじりにつぶやいた。
「五千年前も今と同じような悲惨なことがあったのか」
「目の前のことだけ見て争うのは愚か、広い視野で真の敵に勝利せよ、ということだね」
ロンが悟ったようなことを言う。
「自分が当事者なら、わかっていても実行するのは難しいぞ。さて、皆は五千年前のエジプトから影宇宙に戻るのじゃ」
<「2章5節 古代メソポタミアの謎」に続く>