ダンジョン2
ダンジョン2
あれから、10日がたった。
俺はこの10日間、何をしたって、何をされたって痛みを感じなかった。蹴られても、魔法を当てられても痛くもない、そんな毎日を過ごしていた。
しかし、非情なことに、感情だけは日に日に高まっていった。
(俺が何をした?)
(歩香はなぜ裏切った?)
(俺はなぜ生きてる?)
何度も死のうと考えたが怖くてできなかった。
ドンドンドン!
急にドアが激しく叩かれた。
これはこの10日間毎日行われた行為だった。
ドアを激しく叩かれて呼び出されれば、殴ったり蹴ったりされ、時には魔法の練習台をやらされていた。
これは生徒達からではなく王女から命令だった。
「なんにもできない役たたずなんですから、的にくらいには、なってください。」
と言われ、食事を脅しの材料にされ、無理矢理やらされたのだ。
もう、何個アザができ、血を吐いてきたか覚えてないくらい痛めつけられていた。
不幸中の幸いが痛みを感じなかったことだろう。
部屋に戻っても何もなく、すぐに硬く冷たい床の上で寝るという日々を過ごしていた。
寝ている間の時間は、なんにも考えずに済む、唯一の時間になっていた。ただその時間だけが帆風にとって安らぎを与えてくれるのだった。
俺は今日もまたやられるのかと少し億劫になるが、ドアを開けないと余計に長い時間痛めつけられるのでドアを渋々開けた。
開けた瞬間いつもとは違った光景が目に飛び込んできた。
なんと、部屋の前にいたのは剣を腰にかけた兵士だった。
今まで、この部屋に生徒以外が訪ねてきたことはない。
何故ならば
「今からこの部屋に近づくことを禁止します。」
と王女自ら、城の者達に命令したからだ。
勿論、帆風はそれを知っているはずはないのだが、今までの10日間一度も城の者が入ってきたことがなかったのでなんとなく察していた。
(なぜ、城の兵士がここに?)
と、帆風は疑問に思い、首を傾げたが、兵士はそんな帆風をよそに
「おい! 何やってるんだ! もうダンジョン行く時間だぞ!」
そう怒鳴り散らしながら、中に入ってきた。
「は? 」
帆風は言われてる意味がわからず、情けない声を出してしまった。
それもそのはずだろう。ダンジョンに行くことを説明したのは帆風がショックで寝いていた間に行われたのだから。
兵士はそれを知るはずもなく帆風が寝坊していると思っており、
「役立たずな無能なのに寝坊とはどういうことだ!」
と、帆風を殴る勢いで胸ぐらを掴んできた。
兵士の勢いはすごく、帆風の体が宙に浮いており、とても苦しそうにしていた。それもそうだろう、帆風のステータスは最底辺、一般の兵士の10分の1も満たないステータスしか持っていなのだから...。
(あれ...、おかしい!? なんで今日に限って痛みを感じるんだ... くっ... こ、このままじゃ、やばい...!!)
勿論、帆風が兵士の手を振り払えるわけもなく苦しんでると兵士が少し満足した顔になって硬い床に思いっきり投げ飛ばした。
「ぐはっ...!!」
「他の勇者様達はもう行ってる。 早く行くぞ!」
兵士はそう言うと帆風を肩に持ち上げて馬車に向かっていった。勿論、帆風はそれに抗うすべもなく連れて行かれるのだった。
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馬車に揺られること約30分ようやくダンジョンらしき入口を見つけることができた。
ダンジョンの周りには武器屋や防具屋、ポーションなどを売っている道具屋らしき屋台がズラリと並んでいた。
それもそのはずだろう、この町はこのダンジョンが生まれた時に冒険者が集まって栄えた町なのだから。
「す、すごい...」
帆風が驚くのも無理もない。平然と剣や弓などむき出しの状態でずらりと並んで売られているのだから。現代の日本では決して見ることのできない光景だろう。
「何ぼさっとしてんだ! ただでさえお前のせいで遅れてるんだからさっさと歩け!」
そう言いつつ兵士は帆風の手を思いっきり引っ張り、ダンジョンの入口に向かっていった。まるで傍から見ると警察に連行される様子を連想させる光景だった。
「ここが、ダンジョンの入口だ。まぁ、お前はもう見ることはないだろうけどなw」
(もう見ることがない? どうゆうことだろう...)
帆風は兵士が笑いながら最後に言った台詞が気になったが別に知っても意味が無いと思い、考えないようにしたのだった。
入口はとても広く大人5人横に並んでも入れるくらいの広さがあり。中は暗い訳ではなく、岩が薄ら光っており視覚が可能なくらいには明るくなっている。
「もう少し先が目的地だ。さっさと行くぞ」
(目的地?そこにほかの生徒達がいるのか?)
帆風が不思議に思いながら兵士について行くと厳重に柵で囲まれている、人1人入れるくらいの大きな穴の前に連れてこられた。そこには大きな立て札に
[ 処刑場 ]
と書かれていた。