95話 初夜と秘密
95話は姉妹のお話です。
ノックがあって、ローザが寝室に入ってきた。22時だ。
メイド服ではなく寝間着姿だ。
いつもは俺に就寝の挨拶をしてから入浴しているが、今日は手順が逆だ。
外は寒いが、俺の寝室は魔石暖炉が赤々と光を放ち温まっている。だからだろう。ローザは羽織って居た足下まであるローブを脱いだ。
おおう……。
透けてる。
黄味が少し入った艶やかな絹のガウンが露わとなった。
見たことのない感じで首元から斜めに袷があって、何カ所もリボンで結んである。品のある透け方だが、急峻な起伏を誇る体型のローザが身に着けると破壊力が凄まじい。
「ローザ。妻となってくれて礼を言う」
立ち上がり、ローザの前に手を差し出す。
「こちらこそ。幾久しくお願い致します」
すっと手が重なった。美しい色形ながら、細かい傷が沢山あってすこしざらついてる。
「ああ。苦労掛けると思うけど」
そこに口を付けた。
ゆっくりとローザは、首を振った。
一度抱き締めると、そのまま手を牽いてソファに座らせる。
少し上気して色づいたローザを見つめ唇を奪う。深く舌を差し入れゆっくりと回し、少し引いてはまた穿つ。
柔らかくも急峻な起伏が俺を圧し、愉悦を生み出す。
ローザの息遣いと、どこから薫るのか甘い香りが漂い陶然となる。
「夢のようだ」
「ラルフェウス様……ああぁ」
背に回した腕に、思わず力が入る。
唇から啄む先が右に逸れ、艶やかな耳たぶを一舐めし、細かく震える首筋を滑り降り、そのまま顔を埋める。
柔らかい。
過去に似たような体勢にはなったことはあったけど……当然状況は違う。
「ふぅぅ……」
脇から腕を抜く。
顔を上げると、襟元を閉ざす結び目を噛み、首を後ろへ反らせる。
白い丸みが転び出た。
「ぁん……ラルフェウス様、昏くして下さい」
「断る!」
「そんなぁ……ああ、せめてベッドへ…………あっ、ああぁぁぁ……」
†
「……ん?」
一緒に眠ったはずなのに、伸ばした手に触れない。夜具を捲って見たが、ローザの姿はなかった。
同衾したのは夢?
いや。昨夜の光景が……ありありと浮かんできた。
うーむ、まだ6時前か。少し早く目が覚めた。上体をベッドの上で起こす。
気配を感じ顔を向けると、静かに扉が開いた。
「お目覚めでしたか、おはようございます」
「……おはよう……ローザ」
きっちり、メイド服を着込んでいる。
「ラルフェウス様。お身体が汚れてます。シャワーを浴びて下さいませ」
主寝室には、トイレとシャワーが併設されている。
「いいよ、ローザが拭いてくれたし」
布団の中を覗く。
「そっ、そこだけではなくてですね」
「ああ……ローザも一緒なら」
「そういうことは、夜に仰って下さい」
「じゃあ……今夜そうさせて貰うか」
真っ赤になってる。
年上だが初々しくて可愛い。
「訊いて良いか?」
「何でしょう」
「昨夜着ていた、そのう、絹の薄衣……」
「はい。ガウンです」
「初めて見たけど、とても魅力的だった」
「ああ……はい」
恥ずかしそうに視線を伏せた。
「何でも、東の国から伝わってきたのだそうで」
「ほう」
「それが……何か?」
「ああいや。ローザがよく持って居たなと、思って」
総絹で、結構値段も張るだろうし。少しローザの趣味とは違うような……。
「はあ……私も19歳ですから。持って居ても……」
「ああ。ごめん」
「ふふふ。あれは、奥様に頂いた物です」
「おふくろに?」
「はい。王都にやってくるすぐ前に。あなたも19歳になったのだから、これからは必要になるからと」
「そう……なんだ」
おふくろめ。
「あのう」
「ん?」
「シーツを、サラちゃんが来る前に洗っておきたいので……」
洗濯はサラも手伝っている。
「あっ、ああ。なるほど」
「みっ、見ないで下さい」
腰が当たる辺りを見ようとしたら、止められた。
からかうのは、この辺にしておこう。
†
目覚めると部屋の違和感で、アリーは身震いした。
「審査官。うら若き女性の部屋に忍び込むのは、感心できませんね」
いつになく低い声は、誰も居ないはずの部屋の片隅に放たれた。
すると靄が掛かるように煙り、凝結して像を結んだ。
「随分この星の人間に馴染んだじゃないか、監査官」
豹頭の人型は、低く音声を発した。
「お褒めに与り恐縮です。ですが、監査官だったのは15年前の話、今は第2723星系第2惑星特務駐在員です」
美しくも可愛い唇が返した。
「もう15年か、お疲れ様だねえ」
「まあ、15年など我々にとっては片時の話ではありますが。審査官の規則無視の尻拭いもなかなかに骨が折れます。が、彼を監視対象にリストアップしたのも監視役に志願したのも自分ですし」
「助かるよ。で、状況は?」
「芳しくないですね。ラルちゃん……じゃなかった監視対象は、他文明の技術の一部を手にしてしまいましたので、危険度が跳ね上がっています」
「そうかなあ。さほどでもないだろう。魔術なら、この国の……えーと、なんて言ったかな……」
「緋色連隊ですか?」
「そうそう、それ! そこにいるヤツの方が強いはずだ」
「ご存じないのですか? 審査官が中級魔術の術式を教えてしまったので。勝手に分析して改良しています。監視対象が例の力を会得するのも、時間の問題ですよ」
「とは言え、彼への介入は控えて欲しいんだがね。君の主任務は監視だ!」
「無論、監視対象の関心が、超獣とやらに向いている間は何もしませんし。任務に差し障りのある場合を除いて、この少女の行動や思考にも介入しておりません。きちんと自重していますが」
「自重ね……8歳の頃、その娘の止まった心臓を動かしたのは、君だったよな?」
豹頭天使は、皮肉たっぷりの声音で問い質す。
「ええ。この星に出現する超獣は、魔力を多く持つ者の生命維持を阻害する波動を発生します。もう1人の少女は、監視対象が助けました。が、彼らが離れていた、この少女までは手が回らなかった」
「その娘は、彼らより超獣に近い位置に居た。悪影響は当然大きい」
「死んでしまっては使命も果たせませんし、第一監視対象の人生を傾け過ぎる訳にはいきませんでしたからね。蘇生しましたが、何か問題でも?」
「それ自体は異議はないがね。その娘も、監視対象も自身が助けたと思い込んでいる。人間関係は変わったということだ」
天使達は睨み合う。
アリーの顔は、今更何だという顔。
豹頭は鋭い眼差しだったが、牙を見せて嗤う。
「不毛な過去の話はこれまでだ」
何事もなかったように切り出す。
「はあ……」
「昨日の件だが、由々しき事態になった……」
「それを警告なさるために、わざわざ、下界までお越しになったと」
「ああ、その通りだ」
「ですが、私は特に動いていませんよ」
黒い表情で自身を指した。
「確かに、主体的は動いていない。内心にはどうだった」
「任務遂行のためにはやむを得ません」
「そうかい……精々、気を付けてくれ。その現し身がおかしくなれば、彼にも少なからず影響が及ぶ」
「心得ております。監視対象に好かれ過ぎず、さりとて決定的に嫌われないよう彼女の深層心理を偽り続けるのは、なかなか不憫ではありますが」
「その少女を今も生かすことを看過したのは、例の役目を果たすためだ。それを忘れないようにな、駐在員君。全ては大いなる試みのためだということを」
如何だったでしょうか。
当初から考えていた設定だったわけですが。アリーちゃん、難しいですねえ。
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2021/05/08 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/07/01 誤字訂正(ID:1935714さん ありがとうございます)
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