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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
6章 青年期III 王都1年目の冬休み編
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94話 ゼロサム

他人は幸福、私の不幸つまりゼロサム。よく見えないこともあるけど、そういう関係ばかりではないんですよねえ。

 求婚した後、ローザは数秒呆け、一筋涙を零した。


「ラルフェウス様の妻として……お仕え致します」


 俺は、ゆっくりと(うなず)いた。


「ああラルフェウス様……」

 抱き締めて口付けする。

 舌を差し込むと、それを吸い上げ狂おしく応えてくる。俺達は堰を切ったように貪り合った。


 はぁぁ……。

 名残惜しくも、顔を離す。


「我が儘を言って、申し訳ありませんでした」


 ローザは、自分から歩み寄ることができなかった。退行催眠を掛けて心の枷を外しても、難攻不落。おふくろが気付いていたことが切り札、主人としての命令こそが翻意させる唯一のものだったのだ。


 ローザの涙が止まらなくなった。


 何年か振りで見たが、その姿まで美しい。

 肩を抱いて宥める。

 数分泣き続けて顔を上げた。


 今一度、抱き締めて口付けをする。


「でも、側室として下さい」

「いや、側室って……」

 正妻でない妻だ。

「ラングレン家は、准男爵のお家柄。可能ですよね」


 准男爵で側室を持って居るなんてことは聞いたことはない。

 可能かどうかと言えば、一応貴族なので法的にできなくはない。その点は、子爵のダンケルク家と同じなのだが……。あとは経済的な問題だ。准男爵は国や領主から領地を与えられない。無論ばらつきはあるが、裕福な家は少なく、平民とさほど変わらない場合がほとんどだ。

 ウチは、断絶男爵の分家だったこともあり、財産もそれなりにあるが親父も爺さんも一夫一婦だ。


「可能だが……」


「ラルフェウス様は、今後高い身分の方との婚姻もあるかと思いますので、そのような場合の支障にならないようにしなければなりません」


「そんな気は無い。ディアナ嬢のことも断るつもりだ」

「ディアナ様のことだけを申し上げているわけではありません……」


「それに、私はメイドの仕事に誇りを持っておりますが、世間ではそうではありません。正妻がメイドでは外聞がよろしくはありません」

「メイドは続けるのか?」

「だめですか?」


 なんか俺に対する感じが、幼くなった。甘えが出て来たのか。少しアリーに近付いてる。


「いいけど」


 それにしても側室。(ローザ)の方から言い出すか? そう思ったが決心は固いようだ。


 段階的にローザの意識を変えていくことを決心した俺は、長々と口付けと抱擁を交わし、愛を誓った。


     †


「そういうことになった。アリー、お前にも伝えておく」

 昼過ぎに帰ってきたアリーを、応接間に呼んで告げた。

 

「そっ、そうなんだ……」

 そう答えた彼女は、顔を伏せ黙り込んだ。


 残酷だよな俺。

 アリーが、俺のことをどれだけ好きなのか、知らないわけもない。


 長い沈黙の後、うっすらと笑みさえ浮かべ、擦れた声でしゃべり出した。


「ラルちゃんが、お姉ちゃんのことを好きなのを知ってたし、遅かれ早かれ切り出すとは思っていたけど……お姉ちゃんが受けると思ってなかった……側室かぁ、そこはお姉ちゃんらしい」


 アリーは天井を見上げた。

「それで! アリーちゃんはどうしたら良い?」


 そう来るか。


「これまで通りで、居てくれないか?」

「うわぁぁ。本当にえげつないよね」

 まあ、恋敵の姉の住む館に同居しろと言っているわけだからな。


「だめか……?」

「だめじゃないよ。それなら、希望も残るってことだし」


「ん? 希望?」

「だって。正妻は空いてるわけでしょ?」


「それは……」

「じゃあ、アリーちゃんにも、その余地がないことも無いじゃない」


 無いと言うのは、簡単だが。そう斬って捨てたくない俺も居た。

 結局のところ、俺はアリーのことを好きなのだ。

 ローザと違って、妻としたい……までは行っていないのも事実だが。


「なんとも言えん」

「よかった! 無いって言われたらどうしようかと思ってた……じゃあ、今は……そういうことにしておこうよ。ああ、でも、お義兄ちゃんとは呼ばないからね」


 すくっと立ち上がると、足取りも軽やかに笑顔で応接を出て行った。


 俺も応接を出る。


 ホールの階段を、サラが降りてきていた。いつの間にか帰って来ていたようだ。

 何だか首を捻っている。


「どうした?」

「ああ、いえ。アリーさんとお部屋の前ですれ違ったんですが、凄く恐い顔をされていたんで……どうされたんで……すっ、すみません。私、立ち入ったことを」


 俺と何かあったことを途中で感付いたようだ。


「構わない。アリーは見た目ほど子供じゃないからな」


 そう。子供なのは俺の方だ。


「はあ」

 サラは会釈して、玄関を出て行った。


 さて、次は……親父とおふくろ、それにマルタさんにも手紙を書かないとな。

 許可を求めるわけではなく、報告だが


 もうひとつも有るが、それは……。


     †


 夕食。

 ローザは、憑きものが落ちたように、落ち着きを取り戻した。


 アリーも内心は分からないが、何事もなかったように席に着いた。

 サラは、食堂に入ってきたときに、俺とアリーの間で視線を行き来させていたが、ほっとしたように少し微笑んで座った。



 アリーとサラが食べ終わって立ち上がる。厨房に運ぼうと、使った食器を持ったとき。


「ああ、仕事の件で話がある、居間に居てくれ」

「はぁーい」

「分かりました」


「ローザもな」

「はい」


 夕食を食べ終わったあと、俺は調査依頼の件を切り出した。


     †


「それで、もう一度エヴァトン村へ行くわけですか?」

 サラが問い返してきた。


「俺はそうしたいが。どうだ?」

 昨日ギルマスに提示された内容や報酬等の条件を説明した。


「私は、賛成します。昨日今日と、薬師の仕事が結構進んだので、時間が取れます」

「アリーは?」


 真顔だった、アリーがこちらを向く。

「うん。この前沢山お酒を飲まして貰ったし、あの村の人達の為になることなんでしょう。だから良いよ!」

 軽い。


「それはいいんだけど、お姉ちゃん呼んだのは?」


「今回の依頼は、数日掛かる。しかも林の中だ、宿屋などは当然ない」

「なるほど!」

 アリーは察したようだ。


「私に野営炊さんせよということですか?」

 黙って聞いていたローザが聞き返す。


「いいじゃない、お姉ちゃん。折角ラルちゃんと(つが)いになったんだし!」


 おい!


「師匠が番い……はっ!」

 サラが反応しかけて止まる。


「そうね、1泊ぐらいならともかく。数泊もご不自由をお掛けるするのも、心苦しいわね」

「それ! アリーちゃんに嫌み言ってない?」

「ああ、わたしは、少しは料理できますから、今度から……もちろん師匠ほどではないですけど」

 いいぞ、サラ!


「ええ、サラちゃん。よろしくね。でも、アリーはね、料理上手いのよ」


「ぇぇええ!!」

「どういう、ぇぇええよ? サラ、失礼ね!」


 確かに。アリーの料理は美味いよな。基本を外してるようで、辛うじて破綻せず踏みとどまり、見た目はおざなりで、なんの料理かはよく分からないのに、旨い。まあ生まれてから3回しか食べたことがないが。


「では、依頼を受けるということで、いいな!?」

 皆が肯く。


「出発は、明後日7時に東門前だ。セレナも頼むぞ!」

「ワフッ!」


「ああ、でも。野宿かあ……この時期寒いよね。王都付近は雪降らないらしいからいいけど。いや、よっぽどの時はかまくら作った方が暖かいのかな?」


「その点は、考えてる。明日手伝ってくれ!」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴


2018/07/14 正妻にされては外聞が→正妻がメイドでは外聞が(Knight2Kさん,ありがとうございます)

2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 独善を貫くならローザを正室になる様に説得して欲しかった、それがせめてもの償いじゃないかな?人の心を裏技で暴いた者の。主人公に最初の頃持ってた好感度が地に落ちるよ。これじゃ。
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