90話 妹……
仲良き事は 美しきこと哉
兄弟姉妹と仲が良いことは良いですね。ウチは……ノーコメントでお願いします。
おふくろ達が王都に来てから、2日が過ぎた。
『今日は、付いて来なくても良いから』
旅装ではない正装でどこに行く気か? そうは思ったが、昨日の今日でおふくろとあまり話たくないこともあって、何も聞かず見送った。
ローザが、辻馬車を拾って乗せたようだ。
「少し遅くなったが、俺達も狩りに行くか?」
居間に居た2人に声を掛ける。
「はい! 喜んで!」
「うーん……ちょっと」
「どうした? アリー」
「ああ。まあいいか。とりあえずギルド行ってみる?」
はっきりしない態度ではあったが、返事が返ってきた。
「じゃあ、10分後に玄関ホールに集合な!」
ギルドの玄関ロビーに行く。
冒険者達はもう依頼や討伐に出掛けているのだろう、閑散としていた。休憩時間なのか、受付も無人だ。
普通の冒険者と同じく、依頼掲示板を見てみる。アリーとサラとはバラバラだ。この辺は、比較的時間が掛かりそうな依頼が集められているようだ。明日、おふくろ達が帰るから、その後はそういう依頼も受けられるが。
ふむ。大部分は隊商の護衛だな。
これは10日、こちらは12日も拘束されるのか。
ターセル迷宮の一件で非討伐系の貢献も足りてるし、今となってはその手の依頼達成が不可欠でもなくなった。割の良い依頼でもない、除外した方が良さそうだ。とは言え、そうやって選別していくと大した依頼はない。
どうしたものかなあと考えていると、後ろから肩を叩かれた。
受付嬢のサーシャさんだ。
今日はラルフ君って大声出さないな、別に良いけど。挨拶しようとしたら。
「静かにして」
はっ?
なんだか、きょろきょろ辺りを窺っている。
「ふう……居ないようだわ。よかった」
何がだ?
アリーとサラも寄ってきた。
「ここだと目立つわ。窓口に来て!」
「それで、なんなんです?」
「ああ、一昨日からね、今日の朝まで来てたのよ」
「はっ?」
「新聞記者! 女の」
「えっ」
「もちろん、狙いはラルフ君達よ。ラングレンって魔術師を出せ! とか、家を教えろとかね、鬱陶しいたら、ありゃしない」
こっちに手を回して来たか。修学院にも来たらしいが、門前払いにされたと先生が言って見えた。
「ご迷惑掛けます」
「ああ! いいのいいの。ラルフ君の所為じゃないからね! 記者に会わないように、ここのところ、ギルドに来なかったの?」
「ああ、いえ。単純に来客があったからですが……」
「そうなんだ。ラルフ君の顔は見たかったけど、ここに来たら記者に捕まるし。今は来ないでぇって、気を揉んでたのよ」
横で、アリーの人相が悪化する。
「あっ、あのう!」
「どうした、サラ?」
「今日は2日。月が変わったので、序列が更新されたのではないかと」
「ああ、そうだった。ギルドカードを出して下さい」
大丈夫か? 受付嬢!
今のところ先月中級者になったばかりで、序列は未定だったが。結構貢献しているし良いところに行っているはずだが。
俺が見て居た反対側の壁には、上級冒険者と上位12人の中級冒険者の序列が張り出されているらしいが……。
「はい、どうぞ」
カードが帰って来た。序列を見るためには、中央の金色部分に触るんだったな。
枠の中に数字が表示された。
「おっ、アリーちゃんは17位だって」
「私は、135位です。ああ、アリーさんは巫女さんもやってらっしゃいますしね」
そうらしい。2日に1日位の割りで行っているようだ。
本人に訊いたら。
『うん。お姉ちゃんに言われてるしね。でも小金しか儲からないよぅ』
でも金遣いが荒く、すぐ何かに遣っているようで、いつもお金無いって言ってる。
「ラルちゃんは?」
「855位だ!」
「えっ、アリーちゃん達より下なの?」
確かに変だな。
3人の視線がサーシャさんに向く。
「えーと。数字が書いてある枠の色は、何色?」
枠?
「白」
「私も白です」
「俺のは……」
微妙な色だ。
サーシャさんが身を乗り出して見る。
「んー、灰色ね」
「これって……」
「そう、中級の組の色よ! 上から黒、灰、白の3組」
「と言うことは、アリーちゃん達は白組で、ラルちゃんだけ灰組ってこと……贔屓だ! 贔屓したでしょ! サーシャさん」
「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないで、アリーさん。そもそもそんなこと、受付嬢の私にできるようになってないから」
「ふーん。本当かなあ」
「本当よ! でも凄いわねえ、ラルフ君で2500人、アリーさん達でも1500人は一気に抜いてるわ」
「へぇー」
「もっと一杯喜んでよ!」
†
討伐依頼は無かったので、王都の周りで狩ってみたが、小物の魔獣ばかりで大した成果もなかった。
記者もいるかも知れないので、ギルドへは寄らず直接館へ帰った。
おふくろとソフィーとの最後の夕食だったので、ローザが一段と気合いを入れた料理を作ってくれた。和やかな内に食べ終わったが、またおふくろから、話がありますと応接室に行った。
気が重いなあとソファに座って待っていると、おふくろとソフィーも入って来た。
「あれ?」
なんでだ? ソフィーを連れてきたのはどうしてだ。昨日の話の続きじゃないのか。
ずっと引っかかっていたことが浮かび上がる。
「おふくろ。今日は、ソフィーとどこへ行ってたんだ? もう終わったんだから言っても良いだろ?」
「もちろんです。ねっ!」
ん?
明らかに、ソフィーの表情が硬く、畏まった姿勢だ。
「ソフィーのこと?」
「そうです。今日は、王都東外郭第一基礎学校の転入に向けた面接を受けてきました」
理解した。
妹は、王都に来る気だ。
もちろん、この館に住む前提だ。
「なんとか、おっしゃい!」
「おふくろが言っていた、もうひとつとは、このこと?」
「そうよ」
「それで、面接の結果、転入の承認が得られたと」
「その通り」
ソフィーは賢いしな。学力試験は問題なかっただろう。
面接もこんなに可愛い……は、審査基準外としても、性格の良い子を落とすわけないよな。
「親父は、許可してると言うことですね」
流石におふくろの独断では進めないだろうが、確認は必要だ。
「無論です。まあ泣いていましたけどね」
同情する……。
「あとは、俺の承諾待ちと」
王都外郭に住むためには、資格を持つ者の関係者登録が要る。
それは、俺の場合5人まで。ローザ、アリー、サラ。まだ2人分ある。
おふくろは大きく肯いた。
「さぁて、どうする? ラルフ」
俺を試しているのか?
認めれば、俺の責任。
認めなければ、落胆するよなあ。
そんな眼で見るなよ、ソフィー。
俺は女に甘い……か。いや。ソフィーは女だけど7歳、子供だ。
「ソフィーは、本当に王都に来たいのか?」
「うん」
上目遣いでモジモジするのはやめてくれ。
「俺は、神学生の名目で、3年間王都に住むことを許可されている。つまり、ソフィーが基礎学校4年生までで、シュテルン村に戻らなければならなくなるかも知れないぞ!」
「いいの。お兄ちゃんと少しでも長く一緒に居たいから」
「よく考えろ! 王都に来ると、親父とおふくろと離れて暮らすことになるんだぞ」
「わかってるもん」
なんでだ。なぜそこまで。
「ああ、一応言っておくけど。前に勤めていたところを貶すようで嫌だけど、何と言っても王都で教育を受けられるということは、ソフィーにとって良いことだわ」
うう。痛いところを……。
「それで、転入の時期は?」
「後期、つまり来年の1月からよ。ソフィー! お兄ちゃんが、ここに住んで良いって!」
うう。予定を聞いた段階で負け……か。
「本当?」
「ああ……うぉ!」
飛びつかれた。
「お兄ちゃん、大好きぃぃ!!」
感想でご質問を戴きましたので、こちらでも書かせて頂きます。
物語世界、ミストリアの兄弟姉妹婚ですが慣習法(成文ではない法)として、同母は不可、異母は可です。
ラルフとソフィーは、2人ともルイーザが産んだ子です。
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本話のルイーザ発言「前に勤めていたところを貶すようで嫌だけど」につきましては、7話に書きましたようにシュテルン村の基礎学校の臨時教員をやっていましたので、変更は致しません。
ご承知置き下さい。
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ブクマもありがとうございます
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訂正履歴
2018/06/10 誤字(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2021/05/08 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)




