表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
6章 青年期III 王都1年目の冬休み編
91/472

89話 お気に召さない

小生、自由気ままに生きてきたつもりなんですが。

思い返すと人生の節目って、回りが固めたり、切っ掛け作ったりすることが意外と多いなあと。

当たり前と言えば当たり前ですけど、多いなあ親……ありがたくもあり。

 おふくろが我が館に着いて1日経った。


 ローザの準備が行き届いていて、大過なく過ごして貰っている。

 彼女(ローザ)も2週間前はなんか疲れたというか落ち着かない感じだったが、大丈夫なような気がする。


 ひとつ揉めたのは、眠る段になってソフィーが、『お兄ちゃんと一緒に寝る』と言って聞かなかったことだ。

 おふくろの部屋の隣に、ソフィーの部屋を用意してあったのだが。結構執拗に強請(ねだ)られた。

 まあ、ソフィーが4歳ぐらいまでは、そうしてやったこともあるし。俺が寝てるベッドは、無駄に大きいからな。いいでしょ、いいでしょと抱き付いて来る。上目遣いの余りのかわいさに、心が揺らいできた頃。


 何バカなこと言っているの! そういうことを言うなら! そう、おふくろが一喝したら、なぜかあっさり思い留まった。


 そういうことを言うなら……どうするというつもりだったのか? 余程ソフィーには看過し得ない交換条件なのだろう。少し気にはなったが、それほど重要なことでもないだろうと、この時は思っていた。


 館を出て、足取り重く目的地へ向かう。冬ではあるが、降り注ぐ陽光で暖かい。


 11時30分。申し合わせ通りの時間だ。

 ダンケルク家の御館の門で、マーサさんに出迎えられた。


「いらっしゃいませ。ラングレン様」


 他人の家を食事時に訪問するのは憚られるが、その時間に招かれれば致し方ない。本当に致し方ない。


 庭を突っ切って館に入る。

 おふくろさんは、喜色満面であれこれ調度を見ながら、マーサさんの案内に随っている。


 来ているのは、その3人だ。今頃はアリーとサラで、ソフィーをどこかに連れ出しているはずだ。


 おやっ?

 思わずローザと顔を見合わせた。これまで案内されてきた、部屋を通り過ぎたからだ。 2つ扉を進み。


「こちらで、奥様がお待ちです」

 開けてもらって、中に入る。

 ほう。

 壁の設えと言い、絨毯の感触と言い、魔石照明のクリスタルの細工もそうだ。この部屋の方が一段格調が高い。

 そうか。この部屋こそ応接室であり、いつも通されている部屋は、この館では談話室扱いなのだろう。まだ格上の部屋があるかも知れないが……。


「ようこそ。ラングレン殿」

「これは、子爵夫人様。初めましてラルフェウスの母のルイーザ・ラングレンでございます」

「ドロテアです、まあ……」

 おふくろと俺の顔を何度か見比べている。


「……よく似てらっしゃるわぁ。どうぞお掛けになって」

 そうかなあ。親父を見たら見解が変わると思うけど。

 おふくろと俺はソファに座る。


「本当に……お口と顎などそっくりだわ」

 そう言われると……それで女装と……。


「はぁ……ああ、ラルフェウスには、もったいなくも御館をお貸し戴き、いつも目に掛けて下さっているとのこと。ありがとうございます」

「いえいえ。ちゃんと賃料を頂いているのですから、御礼を申すべきはこちらの方ですわ」


 ふうむ。夫人は機嫌が良いように見えるな。


「まあ、かたい話はこれまでとして、ラルフさんの親御さんに会うことがあれば、訊きたいことがありました」

「なっ、なんでございましょう」

「こんな素晴らしいお子さんを、どうやって育てたか、是非ご教授願いたいと……」

「ああいえ……」


 いや、おふくろ。10割外交辞令だから……真に受けないでくれ。


 マーサさんが、お茶を持ってきてくれたが、それに手も付けず、夫人とおふくろが喋り続ける。茶葉が高級なこともあって結構おいしいのになあ。


「それで、一目見て、ラルフさんを気に入りまして。ちょうど一族に年齢が近い者が居りましてね……」

 来たか!


「はあ」

「マーサさん」

「はい、奥様」

 予め示し合わせていたのだろう、マーサさんは部屋を辞して行った。


「私の姪なのですが、親御さんにも引き合わせたいと思いましてね、今日は待たせておりますの」

「そうなんですね」


 眼が泳いでるなあ……。

 うーむ。おふくろ、このことは予見していたはずだし、この動揺っ振りは演技だな。


「失礼致します」

 会釈して件の人が入ってきた。

 俺は立ち上がって迎える。


「ディアナ・トルーエンと申します。よろしくお願い致します」

「こんにちは、母のルイーザです」

「我が分家、トルーエン家の長女です」

「ご長女……」


 長々と俺の幼い頃の話が盛り上がり、12時を過ぎてからマーサさんが2回促して、ようやく昼食となった。


 2時頃、館へ戻ってきた。


 着替えてから、おふくろにまた話がありますと言われ、応接室で向かい合った。

 ローザにお茶を運んで貰い下がっていった後、おふくろが切り出した。


「ふふふ……」

 ん?

 嬉しそうに笑っている。


「なんですか?」

「いえ。ラルフの困った顔が久しぶりに見られて、楽しかったわ」

 どんな母親だよ!


「さて、私が王都にやって来た理由は縁談とは言いましたが、その趣旨はラルフ! あなたの被害者である、可愛そうなお嬢さんをこれ以上増やさないようにするためよ!」


「俺の被害者?」

「そうよ!」

 おふくろから、さっきまでの笑みは消えている。


「いやいや! 俺が何したって言うんだ?」

「自覚ないわよね」

「なっ!」


「しかし、来てみれば、やっぱり間に合わなかったわ! ディアナさんも……」

「いや、彼女には何もしてないって! 縁談だって……」

「はっきり断った?」


「いっ、いいや、断っては居ないけど」

「そう、ラルフが悪いところは、はっきりしないことよ!」

「はっきりするも何も」

 そもそも恋愛に発展してないぞ。


「じゃあ、訊くけど。ディアナさんと結婚する気あるの? 無いでしょ!」

 おふくろ。何てこと訊くんだ。


「そりゃあ……ないけどさ! 今は」

「今は? あははは、よく言うわ! そんなこと微塵も思ったことない癖に」

 何が言いたいんだ! だんだん腹が立ってきた。


「ソフィア、プリシラちゃん、バネッサちゃん、アリーちゃん、そして、ローザちゃん。私が知ってるだけでも、7人の被害者。まあ、バネッサちゃんは、お嫁に行ったから除いても良いかもしれないけどね。ああでも、サラちゃんは気を付けた方が良いわね」


「おふくろさあ」


「かわいそうよね、プリシラちゃんも、ソフィアも、その気にさせるだけさせて、あっちに置き去りだし」

 むう。確かにプリシラちゃんからは、何度か手紙が来てるけど。


「いや、置き去りって。別に……何か約束したわけでもないし、好きだとか言ったこともないし。ソフィーには言ったような気もするけど、それも兄としてだし。大体ソフィー入れるのおかしいだろう!」


「じゃあ、勝手にその気になった女の子が悪いと言うのね!」

「いやあ……わからない」


「ああ、もちろん母の欲目かも知れないけど、あの子達も悪いわね」

 はっ?


「恋愛事では詐欺でもなければ、一方的にどっちかが悪いってことはないわ! けどね、累積すれば、あなたの責任が重くなっていくって分かるわよね! それに、このまま放置すれば、これからもどんどん被害者は増えるとしか思えない」


 むう。


「釈然としない顔ね。ラルフは、回りの女達に気を持たせるのにもかかわらず、決断をしないわ。誰も傷つけないようにしているつもりかも知れないけれど、それは結局全員を傷付けることになるのよ! なんとかしなさい!」


「なんとかって?!」

「決めれば良いのです。ラルフが自分の伴侶を!」

「決めると言っても、相手があることだから」


「そうよね。ローザさんは、すごく厳しいわよね。ラルフ以外なら」

「なっ! ローザって」

「あんたね、分かってないとでも思ってるの?」


「うううむ。でもローザの方は」


「ラルフが何に引っかかって居るか知らないけど。あんな綺麗な子が、19歳まで一人で居るって、なぜか分からないの? それにラルフは切り札を持って居るのだから。使える物は、全部使いなさい。それは卑怯でも何でもないわ」


 だが……。


「それと、私は貴族に取り入って立身するなんて大嫌いだからね。憶えておきなさい」


 おふくろの視線が、窓に動いた。


「帰って来たようね」


 窓の外に、玄関へ向かうソフィーの後ろ姿が見えた。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/04/14 誤字訂正(ID:668038さん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ