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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
6章 青年期III 王都1年目の冬休み編
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86話 頭巾巫女

またヒーローの話ですが。良いことしてるのに、なんで顔や正体を隠すのだろう? 子供の頃、そう思っていました。


今なら分かります!

とある団体に募金した後、執拗に寄付を求めるメールが届きました。流石に辟易として、自動振り分けにしてしまいました。それ以来募金は、無記名でやってます。

「お帰りなさいませ」

 執務室でローザの挨拶を受ける。

「ああ、ただいま。昨日は外泊になって悪かった」


 彼女は少し微笑んだ。

「いえ、ギルドからお知らせ頂くよう、ご手配頂けたお陰で、夕食の調理開始前に分かりましたので」


「それも有るが、おふくろとソフィーの準備を任せきりになっているしな」

「いえ、お気になさらないで下さい。問題はございません」


 なかなかに意地悪な女だな。いや、俺を映す鏡なのかも知れない。


「俺の方は、問題大ありだ」

 席を立ち、前に出る。

「そうなのですか?」


 ローザは立ち上がると。俺を上から下まで眉根を寄せて見始めた。

「とっ、特に昨日の朝から変わっている点は、ございませんが」

「体調は、すこぶる良い……」


 ローザは、ふうっと息を吐いた。少し安心したようだ。

「では、どちらが?」

「問題は……気分だ」

「ご気分と、申されますと?」

 身を乗り出してきた。


「昨日は、ローザの料理が食べられなかった」

「はあ……」


「第一、ローザに会えなかったからな」

「まぁ、お戯れを……」


 あっ、あれ?

 直立不動になって、両手で顔を押さえた。


 10秒後、ふうと長い息を吐いて、吸った。

「ラルフェウス様!」

「ん?」

「そのようなことを、このローザ以外には仰らないで下さいませ。特に未婚女性には……そのぅ勘違いしてしまいます」

 俺に向けた顔は、かなり紅い。


「気を付けよう。で、ローザには良いのか?」


「それはもう。長くお仕えしておりますので……」

「じゃあ、ひとつ聞くが。俺は戦っているとき笑っているのか?」


「ええ、私が相手では、もう笑って頂けなくなりましたけれど……」


     †


 昼食を食べ終わり、ローザが買い物へ行くと言うので付いていくことにした。

 行き先は城外の市場だ。


 東門広場から、一筋南に下がったところにある。治安はお世辞にも良いとは言えないが、活気はあるなあ。

 門までは2度ほど来たことはあるが、中には入ったことはない。


「ご主人様、こちらです」

「あぁ、はいはい」


 ローザは、最近少しぼうっとすることがある。心配だ。今日は忙しいから、それに紛らわされているようだが。


「ここか?」

「はい」


「乾物屋か……」

「ここで、待っていて下さい」

 そう言い残して、店に入っていく。


 結構みすぼらしい構えだなと、思いかけ。 いや、シュテルン村なら、まともな部類だと思い直す。


 俺も、王都城内の暮らしに随分と毒されたな。


 店中の声が聞こえてくる。

「お願いしていた物は?」

「ああ、入ってますよ、干し銀鱒でしたね。あまり取引がないんで、苦労しましたよ」

「ありがとう!」

「いやいや、こんな別嬪(べっぴん)さんに、頼まれたら嫌だとは言えないでなぁ。あははは」


 おふくろが好きな料理の材料だ。


「毎度、ありがとう、ございます」

 勘定を終え、ローザが出て来た。

 手に、大椎の葉で包まれた物を持っている。


「ああ、俺が持とう」

「いえ、戴きました鞄がありますので」


「ああ、そうだったな」

 魔導鞄を作って、ローザを始め全員に渡してある。元の鞄は、全員バラバラで、ローザは小さな肩掛けのポシェットだ。ショールの下に着けて居たので、見逃していた。


「次は……」

 何店か回ったが。買ったのは、おふくろか(ソフィー)が好きな物。しかし、領都では余り出回っていない物ばかりだった。


 市場の奥の端まで来た。

「ありがとうございます。これで最後です」

「じゃあ帰ろうか?」


「はい。ですが、こちらの門から出た方がよろしいかと」


 なるほど。最短経路は、来た道を戻る方だが。人出は行く手を阻むからな、外を通った方が早い。

 裏門を出て、大通りに戻ろうとすると、20ヤーデン程の尖塔が見えた。

 そう言えば、この辺に光神教会があると聞いたことがある。

 路地を曲がると狭い路地に老人がたくさん居た。


「ああ、こちらも人が多いですね。いつもは空いているんですが。引き返しましょう」

「まあ待て」


 ローザを置いて、そこに近付く。


 皆が一方向を向いている。単純な混雑ではなく、何かの待ち行列だ。その方向は教会の方だから、何かの催事なのだろう。


「おばあさん。少し伺っても、よろしいですか?」

 最後尾とその前に並んでいる2人の老婆が振り返る。


「ああ、何かな? こりゃ、またえらい別嬪さんじゃ。」

 なんかもう、一々否定するのが億劫になってきた。


「ああ、えーと。大勢並んでいらっしゃいますが。これは何の列ですか?」


「そうだねえ、今日はいつもの日じゃないけれど。頭巾巫女様にお会いできるんじゃ」

 前の方に居る老婆も肯く。


「頭巾巫女というと? それはどういった巫女様なんでしょう?」

「何じゃ知らないのかね?! 顔をお隠しになってなあ。ありがたい巫女様じゃ」


 ああ、聞いたことがある。

 教会が拠点単位でやっている慈善事業だ。

 巫女は、巫女なんだろうが。頭巾を被っているのは、その巫女が聖職者でないことを示している。おそらく冒険者だ。

 顔を隠すのは、別に頭巾でなくても、覆面でも可だ。要は身元が知られなければ良いのだ。

 冒険者にしたら、顔を憶えられてしまえば、予期しない時に治療や回復をせがまれる可能性がある。相手は断りにくい弱者だ。顔を隠せば、そういう厄介ごとを排除できる。

 教会側も、回復魔術が使える希少な聖職者を動員しなくても済む。


 冒険者ギルドが、巫女や巫覡(ふげき)を催事に向けて有償で派遣する。そういう募集を掲示板で見たこともある。依頼者が主に教会なので、報酬は安いが、非討伐系の貢献値が入る。中級者のランクを上げるにも必要だ。その筋の冒険者も、それなりにやっているようだ。


 それはともかく、おばあさんが言ったように、実施日は普通何か記念日なのだが、今日は思い当たらない。臨時で実施してるのか。


「そうじゃ。痛いところをな、申し上げると、それはそれは美しい掌を翳されてな。たちどころに、楽になるのじゃ。儂は肩じゃ」


「私は、腰じゃ。本当にありがたいのう。しかも、銭も寄進もお取りなさらぬ」

「そうじゃ。それでいて、たちどころよく効く巫女様なぞ初めてじゃ」


 ほう……。

 言ってはなんだが、そうそう優秀な回復魔術師は居ない。

 なぜかは知らないが、急性の傷病は、魔術で治し易い。逆に慢性の疾病は治し辛い。無論、またこの列に並んでいるということは、流石に完治や根治ではなく、一時的な物なのだろうが。それでも、何十人も並んで、捌けるほどの短時間で施術できるのは相当優秀だ。


「ああ、変なことを訊いて、すみません」

「いやいや、ああ、この筋から2筋ぐらいは良いが、その先は物騒じゃ。若い娘さんは、入らぬ方がええ!」

「そうじゃ、そうじゃ」


 会釈して列から離れ、ローザの所に戻る。


「用事ができた。悪いが一人で戻ってくれるか?」

「いえ、ここまでお付き合い下さって、ありがとうございます」


     †


 ああ、また鐘が鳴った。午後4時だ。

 何やってるんだかな……俺。

 教会に続く路地裏で、じっと待っている。


 出て来た。

 アリーだ。そう。2時間前、無料の治療催事の巫女とは、アリーだった。

 感知魔術で、予めそれは分かっていた。

 もちろん、もう頭巾は着けて居ない。

 出て来たら激励しようと思って待っていたのだ。


 声を掛けようとした、丁度その時。

 ひとつ前の路地から、老婆が出て来た。ん? 知り合いなのか、アリーの方から歩み寄る。


 俺と同じで、アリーというか頭巾巫女を出待ちしていたのかと思ったが。違うのか?

 話をしているが、これ以上近付くと気が付かれる。


 おっ。アリーが懐から巾着を出して、その老婆に渡した。あれは、ギルド出納係がくれたやつ……中身は金だ。


 何者だ? あの老婆。なんでアリーが金を渡した?

 俺の思考がグルグル回っている間に、用が終わったようだ。アリーと老婆は分かれた……アリーは東門へ、老婆は逆の市場へ向かって行く。


 仕方ない。俺の身体はひとつだ。市場へ向かう。

 何者か確かめよう!


 老婆は、精肉店に入った。

 アリーから受け取った金で、高級肉を買うのかと思ったが、安いスジ肉ばかりだった。それも大量に買った。とても一人で食べきれる量じゃない。

 老婆の嬉しそうにしてる顔が見えるが、悪人の人相とは思えない。アリーを強請(ゆす)るか(だま)すかして金を巻き上げていると言うわけでもない。アリーから金を受け取った時に、金額を確認しなかったので、借金取りではないと思っていたが。

 むう。分からん。

 

 その後も、廉価な食品を大量に買い、それを背負って向かった先は、比較的近い場所だった。


 質素で古びた屋敷。

 壊れ掛かった木の柵で囲われた、何も無い庭。

 そこには大勢の子供がしゃがんだり、鬼ごっこなのか元気に走り回っている。

 大きな子から幼児まで居る。身形は小綺麗にしているが、一様にシュテルン村で見た小作人達の子よりも粗末だ。


 そして、老婆が門扉を開けて入って行くと、その子らが群がった。


「「「園長先生、お帰りなさぁぁい!!」」」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

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訂正履歴


2018/06/10 誤字(Knight2Kさん,ありがとうございます)

2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2022/10/07 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)

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