85話 濁った魔結晶?!
治世の能臣、乱世の奸雄と言う言葉がありますね。(三国志の話とは違いますが)
平時と非常時にどっちに役立つ人間か。無論両方が良いに決まってますが。
どっちか!と言えば、やっぱり後世に名を残すのは後者ですよねえ。アリーはそうかなぁ。
「おはよぅほぅ……どうしたの、サラっち! ん?」
アリーの眠気に塗れた顔が、一瞬でシャッキリとした。
そして、俺を睨んだ。
サラの右腕を持ち上げている。
「何! ラルちゃんにやられたの?」
稽古を中断して母屋に戻ろうとしたときに、アリーが出て来たのだ。
既に怒気相に転じている。
「いっ、いえ、あの……」
「ああ、俺がやった!」
「ラルフ様!」
「はあぁぁぁ。分かった分かった。ラルちゃんに挑んで、返り討ちされたんだ!」
「そっ、そうです!」
「じゃあ」
そう言ってから回復魔術の詠唱をした。
「ああ。木刀の跡……大丈夫よ! 痕形残さず治しちゃうからね。それにしても! ラルちゃんは、手加減ってものができないからね、本当に!」
険は消えたが、怒気はそのままプリプリしてる。
「で……さぁ……」
「はい?」
「ラルちゃん、笑ってた?」
「はっ? いっ、いいえ真剣なお顔でしたけど」
人に稽古を付けているのに笑うわけないだろ!
「そっか……」
「アリーさん。どう言う意味ですか?」
「ん、なんでもない。これ、結構痛かったよね」
「私が手加減しないようにお願いしたんです」
「それにしたって、お姉ちゃんみたく分からないように……あっ!」
「やっぱり、師匠は手加減してたんですね……」
サラは、がくっと首を折った。
「俺と闘って確かめたかったんだろう?」
「はっ?」
「……そうなんです」
「えっ?!」
2人の間で窺うアリーを余所に、晴れ晴れとした表情で、サラは顔を上げた。
「ラルちゃん、知ってたの?」
「ああ、こっちに来る時、馬車でそれっぽい話になった」
「ええぇぇ、聞いてないよ」
「アリーは寝てたからな」
「うっ!」
寝てたから、サラも言えたのだろうが……。
「ああ、もう。痛くありません。アリーさん」
「そう?」
「ありがとうございます。そして、ラルフ様も! また時々ご教授願います」
「ああ……」
「じゃあ。ラルちゃんを笑わせる位がんばらないとね」
†
王都東門へ戻ってきた。
「ねっ、寝なかった……」
眠らない代わりに、やつれてどうする、アリー。
大体、昨夜いや本日未明か、数時間しか寝てないだろう。
厩舎へ借りた馬車を返し、入城してギルドへ向かう。
「おはようございます。サーシャさん」
窓口に座る彼女に話しかける。
「ああ、おはよう、ラル・フ・く……えっぇぇえええ!!!」
ギルドの玄関ロビーに大音声が響き渡った。
「な、なな、なんで居るのよ!」
「なんでって、依頼終了したから帰って来たに決まってるでしょ! しっかりしてよ、サーシャさん!」
アリーが、呆れたように言い返す。
「あっ、うん。どこも怪我してないようだし。お姉さん、ほっとした」
「……それは、どうも。ギルマスは?」
「ええと、執務室にいらっしゃるけど。取り次げばいいの?」
「お願いします」
「うん、わかった! ああ、ターニャさん。ここ、おねがぁぁい!」
†
「で、朝一番で、帰って来たと……」
「そうです」
昨日から今朝までの経緯説明は終わった。
ギルマスと、ソファで向かい合っている。
「呆れたな……昨日、日没前に斃したってことは、実質1時間も掛かってないのか?」
「10分位かな。移動時間を除けば」
大威張りで、横に座るアリーが肯きながら応える。
大分ギルマスと打ち解けてきた。
頬に刀傷があって厳ついが、幸い髭は生やしてないからな。年配男性忌避が軽いのだろう。
「ふぅぅむ?!」
ギルマスは何度か首を振った。
「ああ、魔結晶を……」
まず敷物を出して、その上に結晶を置く。
「前に聞きそびれたが、どっから出してるんだ?」
魔収納のことだ。
「魔術ですよ、魔導鞄とほぼ同じです。常時発動していますが」
「そうなのか? 魔術のことは、よく分からないが……公開とかしないのか? 呪文とか、そのう、術式とか?」
「多分、需要がないと思いますよ」
「需要? そんなことはない。すごくあるだろう。高価な鞄がなくても、多くの荷物を運べるんだ。誰でも欲しいと思うが?」
確かに魔導鞄は高い。物に依るが、安くとも10ミスト以上、ちょっとした農民の数ヶ月から年収に相当してしまう。しかも入る量は大したことはない。
「機能はそうでしょうが、代償が……」
「ふむ、代償なあ……例えば、多量に魔力を使うと言うことか?」
魔術に疎いとは言ったが、そういうことは流石に鋭い。
「そういうことです」
「ふむぅぅぅ……ああ、済まない。話が横道に逸れたな。それにしても、この魔結晶、随分デカいな。嬢ちゃんの顔と同じくらいじゃないか? で、何と言う魔獣だった?」
隣で、アリーがむっとしている。そんなにデカくないわよ! って聞こえてきそうだ。
「巨甲蝦ですね」
「やはり……そうだったか。目撃情報を総合してそう判断したんだが……ん? なーんか、これ。少し濁ってないか」
「そう見えますか? 結晶化したときは、もっと濁ってましたよ」
ギルマスとアリーが同時に身を乗り出す。顔が近付き、アリーは途中で止まってウゲっという顔をした。
「うむ。少し気になるな……調べさせよう。それはそれとして」
「依頼達成ということで……」
「ああ、ご苦労だった。助かったぞ。国とのやりとりはこっちでやっておく」
「よしなに。それで、この魔結晶は、窓口へ持って行けばいいですか?」
「……いや、これは俺が預かる。50でどうだ?」
「50……ミストですか?」
「そうだ」
「「えぇ?!」」
相場として高いような気はするが、口止め料込みの価格と言うことらしい。
「アリーとサラ。どうだ?」
アリーはブンブンと、サラは大きく肯いた。
「分かりました。その金額で」
「よし、ラウラ!」
「はい。出納係に告げてきます。10分ぐらい、窓口前で待っていて下さい。所長、こちらに署名願います」
「おおう」
指示書なのだろう。書き終わると秘書は出て行った。
「佳い女だろう……」
「そうですね」
「手ぇ出すなよ!」
「ああ、佳い女で思い出しました」
本当は忘れてないけど。そう言わないと、アリーの怒気が倍増するしな。
「ん? なんだ?」
「スパイラス新報の記者が接触してきました。若い女で、名前はカタリナと名乗りました。どこで嗅ぎ付けたかは分かりかねますが、俺達がエヴァトン村に着いた時には、もう現地に居ました」
名前覚えてるし! 微かに横から愚痴が聞こえてくる。
「ああ、そう言えば、ターセル迷宮のことを発表した時、居た気がするな、若い女。その記者じゃないか? あの時は情報を公表したが、今回はしてないぞ」
「そうなんですか?」
「ああ! まあ、新聞と言っても官憲じゃない。何か訊かれても冒険者個人には答えてやる義理はない。これから何か有っても、適当にはぐらかせ」
「ではその方向で……」
ギルマスの執務室を辞し、買い取り窓口前で待っていると声が掛かった。
依頼達成の36ミストに、約束した魔結晶買い取りの50ミスト合わせて86ミストと査定を受け、国からの依頼なので源泉徴収済みかつギルド手数料無しのため、俺が38ミスト70スリング、アリーが17ミスト20スリング、サラが21ミスト50スリング、共有資金として8ミスト60スリングの分配を受けた。
俺が4割5分に減り、その分サラが2割5分に増えた。御者の働き分が反映されたようだ。
共有金は、計21ミスト25スリング35メニーになった。
昼前だが、アリーは行きたい所があるというのでギルドで別れ、サラはできれば薬師の仕事がと言うので午後は休みにして館に戻った。
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訂正履歴
2018/05/27 くどい表現回避、読点の頻度調整等(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2018/05/30 回復魔術2回掛けてた感じなので修正




