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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
6章 青年期III 王都1年目の冬休み編
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83話 黄昏の決闘!

執筆が調子よかったので、投稿します。


本文にも書きましたけど。記憶って如何に思い出すかが、肝なんですよね。

クイズや問題の解答を見て、ああ……そうだったって、思うってことは一応憶えては居るんですよね。

 2ダーデン余り(約2km)進むと、敵の姿が見えてきた。脇街道の側だ。

 葡萄のような黒褐色の巨大な節足動物が見えた。


 なんだ、あれは!

 そう疑問を思い浮かべると。


────(ヒュージ)甲蝦(バーガス)


 目の前に、半透明の四辺枠が見えた。

 古代エルフの遺産──


 薬物、薬学、医学に関する情報集積体のはずだが、相当な項目が収録されているようで、結構な確率で応えてくれる。記憶とは憶えるより、如何に思い出せるかが問題だ。

 遺産は理路整然と、しかも高速に思い出させてくれる。


 この魔獣についても、何か関係あるのか?


 椰子蟹(やしがに)の遠胤と推定される魔獣。巨大な鋏脚(はさみあし)を持つ。大量分泌される泡は強酸性であり、乾燥後精製により胃薬として使用できる。生体状態で脚を切断した場合、キチン質を抽出できる。また、魔結晶を処理した魔石では…………。


「うわぁ、なんか気持ち悪い」

 御者台の俺とサラの間に、顔を突っ込んだアリーがとても嫌そうに漏らす。


「サラ、停めてくれ!」

「えぇぇ。まだ、300ヤーデン位あるよぅ」

 アリーの言葉は無視されて、馬車が止まる。

 俺が降りると、真っ先にセレナが後から飛び降り、俺の傍らに寄ってくる。


「サラ、御者を代わって、戻って貰え」

「はい。あっ、お願い致します」


 俺の声が聞こえたのか、村人が後から御者台に上がって来た。サラは彼に手綱を渡すと、ひらりと地面に降りた。

 残りのアリーと記者も、後から出て来た。


「気を付けて下せぇ。お嬢さん達!」

 馬車は回頭して戻っていった。

 その”達”に、俺は入っているのか……? 俺の方を向いて言っていたが。


 脇街道に、4人と1頭が残される。

 そう。寄ってきたアリーの横に、ちゃっかりと女性記者もいる。

 どこまでも付いてくる気だな……仕方ない。親父との約束……破らせて貰うか。


催眠(エスタ)!】


 記者の目が大きく見開かれる!


【あなたは、後退はできても、前進はできない!!】

 声なき声を聞き、記者は何度か瞬きした。


「行くぞ!」

「「おーー」」「ワフ!」


「えっ、ちょっ! あっ、あれ? 脚が、脚が動かないわ!ちょっと! なんでーー!」

 絶叫が木霊するが、無視だ。


 150ヤーデン前進──


 敵の全体像が見えてきた。

 デカい!

 殻は全体的に黒いが、関節に近い部分には青みがかったところもある。それが冬の寒々とした夕焼けに、紅く照り返す様は荘厳と言える域だ。


 意外にもワキワキと素早く動く脚達が、不気味さを倍増させている


 森を荒らすか……今は、街道脇の貯木場に積まれた丸太を鋏脚で持ち上げては、バリバリ食い散らしている。草食? いや木食か?


「蟹……じゃないな」

「えっ、どう見ても、蟹でしょ!蟹じゃなかったら、何だって言うのよ」

「ヤドカリとかのエビの仲間だな」


「エビィ??? エビなら尻尾があるでしょうよ!」

「尻尾なら、胸の下に折り曲げている」

「そっ、そうなの?」

 尻尾じゃなくて、実際は腹だが。


「触角を見てみろ」

「はあ、確かに蟹にしては長過ぎますね」

 サラが気が付いた。数ヤーデンもある。

「紛らわしぃぃ!」


「では、ラルフ様。方針の説明をお願いします」

 前に居たパーティではそうしていたのか?

 確かに、これ以上近付くと、皆でまともに話せなくなるか……


「戦いの方針だが、ヤツをあそこから遠ざける必要がある。例の陣形で時間を稼いでくれ。後は俺がなんとかする」

「陣形、あれかぁぁぁ……」

 アリーが声を落とした。あからさまに嫌そうだ。


「私は良いと思います!」

「えぇぇ。サラっちぃ!」

「リーダーは、ラルフ様です」

 さっきと言い、今と言い。サラは、アリーに批判的になったなあ。

 まあ、新しい崇拝対象ができたからなあ。普段、仲は良いのだが……冒険者の活動に関しては、対象に成り代わっているつもりなのだろう。


「ワフッ!」

 アリーの足下に擦り寄る。

「分かったぁ、分かったよ。セレナ! ラルちゃんの言う通りやるからぁ」


 さらに50ヤーデン進み陣形を整える。

 横列陣形、左にセレナ、真ん中にサラ、右にアリーに並ぶ。

 俺はその後ろに立つ。


「あぁあ。女ばっかり前に立たせて、良い身分だよねえ」

 確かに、前列は女ばかりだ。左翼は女じゃなくて牝だが。次は男を入れるか……

 夕日が、山の端で最後の頑張りを見せ、なだらかな丘陵地を紅く染めて居る。


「そろそろ行くぞ。展開準備!」

「「了解!」」「ワフッ!」


氷礫(ヘイル)!!】

 いつもより斜線を高めに射出。

 甲蝦(バーガス)に、無数に直撃した。ヤツの回りが白く煙る


「当たった!」

 しかし。夕方の風が白い(もや)を剥ぎ取ると。


「無傷……無傷だわ!」

 極厚のキチン質の殻は、低級魔術で破られるほどか弱くはない。

 殻に護られた魔獣は大きい触角を動かして、辺りを探っている。

 まだこちらに気付いていない。


氷礫(ヘイル)!!】

 再び直撃し、ようやく、この方位を向いた。


「来るぞ!」


【……マヅダーの名に依りて命ず アリーちゃんに……もとい……我に何者も突き通すこと適わぬ盾を与え給え── 光壁!!】

 障壁魔術を張ると、続いてサラもセレナも光の盾を展開した。


 アリーには魔術を伝授し、後の者には術式を刻んだ魔石を、サラの鉄盾とセレナの首輪に装着してある。それに、ここに来るまでに、何度か実戦で訓練も積んだ。


 俺達を認めたのだろう。

 敵は8本の脚を器用に動かし、こちらに向かってきた。

 馬の常足(なみあし)ほどの勢いだ。

 数秒で指呼の距離──


 人より大きい鋏脚を振り上げ、うなりを上げて叩きつけた。


 ガッギーー。甲高い音が響き渡る。

 弾いた! これまで岩をも砕いてきたであろう一撃を、皆が張った光属性魔術が防ぎ切った。が、敵は怯むことなく、逆の鋏脚を叩きつける。


「ラルちゃん!! そう何発も持たないって!」

「分かっている! アリーはサラを支援!」

「やってるって!」


 命じながら眼を閉じる。

深瞑(シマラナ)


 闇より深き無明の次元に降りる。深く息を吸い、全て吐き去る。


 思考を一時的に高速化する魔術。感覚的には時間の歩みが遅れる。

 副作用2つ。感覚が途切れ、全く外乱に対応できなくなる。


 俺がここ、ヤツはそこ!

 蒼と紅の光球が現れる。彼我は32ヤーデン──


 [光壁!][光壁!][光壁!]


 紅き珠の周り、3条の皓き光帯が生まれた。

 三方より水平に集い、帯同士がぶつかった。


 失敗──やり直し!


 [光壁!][光壁!][光壁!]


 やや捩りを加え……またもや失敗…………失策の連鎖!



 7度やり直し、コツが掴めた。


 生成した光の帯は、集約するも円筒面に漸近──ぶつかる寸前、進路を上と転じ、捻れながら3条の螺旋を描く。互いに重なり天に尖る逆漏斗(ろうと)(かたど)った。


 刮目!


 幻は消え去り、現実が目に入る。仲間の障壁は軋みを上げている。

 敵は今も健在──しきりに泡を吹き掛かける。


光壁(オーラ)!】【光壁(オーラ)!】【光壁(オーラ)!】


 脳裏に確固と描いた疑似魔術が現実へ変わる!

 虹色に輝く光が渦巻き、脳裏にある通り構築された漏斗は、王都大聖堂主塔を凌ぐ高さで(そび)え、その懐へ(ヒュージ)甲蝦(バーガス)を虜囚とした。


「退避!」

 前列の皆は光壁を解除して振り返り、俺とすれ違って後方へ散っていく。


 ヤツは何が起こった理解しているだろうか? いずれにしても、自らを閉じ込める壁を本能が叩かせる。


「どうにかできるとでも思っているのか!」

 言葉を吐いて気付く、俺は躁状態だと。


 アリー達が100ヤーデン離れたことを、感知魔術が伝えてきた。


「燃えろ!」


劫火(イーグニス)──幽弾(ファントマ)!!】


 伸ばした腕の前で、ひとたび実体化した火球は掠れるように消失し、50ヤーデンも離れた漏斗(カンテラ)の中で灯った。


 焔は灯芯たる虜囚を赫赫と滅ぼしていく。

 やがて七色の漏斗の先端から、数百ヤーデンもの目映き火柱を吹き上げた。


 魔術の虚熱が上昇気流を生み、俺の周りを風が(そよ)ぐ。


 火力は王都の側で死にかけた時の幾十倍。

 初めて標準量の魔力を劫火魔術へ印加することができた。


 光壁魔術が熱や輻射を遮っていなければ、俺自身を死するまで焙っていたことだろう。今も陽に灼けるほどの、熱さを刺してくる


 剣呑な魔術だ。

 数百ヤーデン離れなければ撃つこともできんとは。

 しかも、その障壁とて魔力を継続して印加せねば支えきれない。3重の光帯を以てしても。


 魔獣を斃したところで、辺りを焼き尽くせば、村人はどちらを憎むか。

 灼かれた魔獣か? 行使した魔術師か?


 甲蝦(バーガス)の影は消え、夕焼け空を照らす地上の灯火は、一際輝きを増す。


 尽きたか──


解除(ハールト)劫火(イーグニス)


 後に残る障壁も魔力印加を滞らせると、極光の如く淡く消え去った。


ああ、もうひとつの副作用は忘れてませんよ。


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴


2018/05/22 誤用訂正:知識巣→情報集積体,一旋→一撃(Knight2Kさん ありがとうございます)

2021/07/31 脱字訂正(ID:209927さん ありがとうございます)

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