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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
6章 青年期III 王都1年目の冬休み編
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81話 非常事態!

第6章の始まりです。

ラルフの家族が王都にやってくる……だけでない章になります。

人間関係も変わってくることでしょう。


 時は足早に流れ、長期休暇前の登校最終日。

 俺は修学院でも、文化に貢献し、院の名を高めたとして表彰された。


「ねえ、ラルフ君。冬休み中、お館に遊びに行っていい?」


 帰り支度をしているところで、熊耳の少女に話しかけられた。

 同じ学級のアネッサだ。手に新聞を持って居る。


「みんな、これに載っている新進気鋭の冒険者の家ってどんなとこなのか、興味があるのよ」

 みんな?

 後ろに女子2人がこちらを窺っている。この子達は、アネッサと予め談合しているのか、それともアネッサの後で私も私もと追い打ちを掛けるつもりか……。

 新進気鋭……か。

 ターセルの迷宮が、多くの冒険者でごった返しているとの記事だ。俺達の発見に触発されて、まだ他にもそういう区画があるのではとの目論見だろう。


 それにしても、なんでこの子達は、ウチに来たがるのだろう?

 単に外出したいと言うのがあるのだろうが、それだけか?


「悪いが前半は来客があり、後半は仕事だ。生憎だが断らせて貰う」

「えぇぇ。いやあ、そんな長居はしないし、ちょっとだけ!」


 ああ。やはり、俺の住んでいる所にも興味はあるのだろうが、それを表向きの外出用件にして、本音では別のところに行きたいのだろう。


 ん?

「ちょっと、そのスパイラス新報貸してくれ!」

「うっ、うん。いいけど……」


 俺達のことを書いた記事の右下。


 隣国(ネルガルド)我が国(ミストリア)の国境付近で、災厄級(ディザスター)超獣が出現。一昨日、ネルガルドの上級魔術師部隊の尽力で討伐された。

 しかし、同魔術師が発動した上級火焔魔術は、国境付近の森林2000レーカー余りを焼き、同火災により130人強の死傷者……。しかし、我が国は、軽微な被害だったとして、隣国へ謝意を……。


 ああ……糞!


「ああ、ありがとう」

 新聞を返しながら言う。


「あっ、ああ、うん。」

 何か、少し脅えている。別件の怒りが表情に出ていたか。


「すまない」


 少し離れたところに居たクルス君達と挨拶を交わして、外に出る。悪いが友人でもない人を館に招いている暇はないからな。

 明後日には、おふくろさん達が来ることになっている。準備はローザが万端してくれているから遺漏はないだろう。


 俺は少しでも稼がないとな。


     †


 館に戻って着替え、食事した後、3人と1頭でギルドに向かう。

 昼過ぎだからだろう。事務所は閑散としている。


「ああ、ラルフ君、いいところに!」

「サーシャさん。こんにちは」


 そう俺が言っている間に、窓口から飛び出してきた。

「緊急事態なの! みんな来て!」


 相当慌てていることは切迫した相貌で分かる。

 俺の腕を取って脇に挟んで引っ張る。胸が当たっているんですが。


 それが見えて居るのだろう、後ろの女子2人の表情が、剥落して行く。


 2階、ギルマスの部屋に入る。


「おお。ラルフにアリーにサラ……面倒だからパーティ名を決めてくれ。それよりもだ。緊急の討伐依頼だ!」


 討伐指名依頼。中級者(ランカー)になったからな。実感が来た。


「ここから東南東に20ダーデン(18km)ばかり離れた村エヴァトンなんだが。複数の村人の証言に依れば、巨大な魔獣が近くの山に潜んでいるらしい」


「どんな魔獣なんですか?」

「なんでもハサミを持っていて、外骨格の脚が細くて長く、8ヤーデン(7m強)くらいある大きい虫というか蟹みたいな姿で……」


 アリーだけでなく、サラの表情もあからさまに曇った。ウチの女性陣は、虫系はお気に召さないようだ。ああ、セレナは聞いてないが。蟹と呼ぶことにしよう。


「上級魔獣の一種と認め、国から討伐要請が来た。成功報酬で36ミストだ」


 国から……36ミストか。

 この前の、ターセル迷宮で300ミスト弱収入が有ったので金銭感覚が麻痺しているが、36ミストは大金だ。


 いい話だが……。


「そういうのは、深緋連隊(サカラート)の下部が派遣されるんじゃないんですか?」


 そう。インゴート村の超獣事件が気になって頭を離れなかったので、王都に来てからサカラートについて調べた。


 もちろんサカラートは通称で、正式にはミストリア陸軍近衛師団所属対超獣・対上級魔獣魔術師特科連隊だ。誰も正式名で呼ばないわけだ。


 所属員数は千人程度で、半数が魔術師。遠征が多いので、残り半数は輜重部隊になっている。指揮系統は大隊、中隊と別れているが、魔術師である戦闘部隊は横串に機能分化されている。一握りの上級(アーク)魔術師(ウイザード)が集う上部、通称典雅部隊(エレガンテ)は、本当に超獣しか相手にしない。しかし、大多数の魔術師で構成される下部は上級魔獣も討伐対象だ。


 我が国、国単位でも、超獣は月に1体、多くても数体しか出現しない。

 ある意味で暇、別の意味では演習ということもあるのだろう。


「そうなんだがな……知らないとは思うが、ネルガルド付近で超獣が出てな」

 超獣対応優先ということか。


「数日前に斃されたっていう話でしたが」

「知ってたか。上部は帰っているだろうが。下部は調査もあるからな。都市間転送が使えると言っても、そう簡単には帰って来られない」


 そう言えば、インゴート村の時もそうだった。

 ちなみに、サカラートであれば、上級魔術師でなくとも、全国30カ所以上の間を一瞬で移動できる、都市間転送を使うことができる。

 まあ、超獣を斃す、撃退するのは国家の大事と言われているからな、最優先事項だから当たり前だ。


「したがって、サカラートは来られない。それに東支部所属(ウチ)上級(ハイ・)冒険者(ランカー)達は、手持ちの仕事があってな、すぐには動けない」


「いいけど! 他の中級者(ランカー)は?」

 アリーが気になったようで訊く。


「言っちゃあ何だが。お前達が見付けたターセル迷宮に、まだ他の隠された区画があるんじゃないかということでな……」

 新聞に書いてあった通りだ。


「出払っていると……どうするの? ラルちゃん」

「もちろん行きたいが……そのエヴァトン村に駅馬車とか行っていますか?」

「無い」

 だよな。


「「「うーん」」」

 徒歩で行くと、3時間掛かる。しかも着いた時に疲労してたら、問題だ。明日中には帰ってこないとな。


「そこでですね!」

 ん?

 口を挟んだのは、ギルマスの秘書だ。


「皆さんに、ギルド備品の馬車をお貸しします」

 それはいいな。

「御者は、できるか?」


「私、できます!」

 サラが手を挙げる。

 何かと特技持っているな。


「じゃあ、行ってくれ!」

「分かりました」


「私、厩舎へ!」

 いやいや、サーシャさん。受付嬢だろう。仕事はいいのか?

「じゃあ、伝票を発行します」

「ラルフ君達は、玄関で待ってて!」

 秘書とサーシャさんは出て行った。


「では、我々も!」

「ああ、気を付けてな」

「はい」

「嬢ちゃん達、サーシャはラルフを……」

「分かってます!」

 ギルマスを遮ったアリーとサラは、大きく肯いた。


 セレナをギルド前の厩舎から出し、ホールの玄関付近で待っていると、数分後。

 

「準備できたわ。行くわよ、ラルフ君!」

 サーシャさんが、窓口の奥から出て来た。

 それはいいのだが、アリーとサラはやや憮然としているし、周りの視線がもっと険悪だ。

 お前だけ美人に囲まれやがってという、音のない怨嗟が聞こえてくる。


 気にしても意味は無いので、無視して外に出る。

「急いで!」

 その必要があるかどうか分からないが。

 サーシャさんの走り方が良くないのか、とある部位が揺れまくる。


「牛か! 女の敵め!」

 アリーの方から、呪詛が聞こえてきたが、気の所為だろう。


 ハアハアとある意味、艶めかしい呼吸で、厩舎にたどり着くと、ここで待っていてと言い残して行って、サーシャさんは中に入っていった。


「一日座り仕事なんかしてるから、身体が鈍るのよ!」

「そうです! 大胸筋を鍛えれば揺れなくなります!」

「うぅ……それは嫌かも」

「えー。アリーさん」


「ああ、サラ、これで広場の脇にある露店で、腹に溜まりそうな物を、買ってきてくれ!」

 大銀貨を渡す。

「はい!」


 5分後。

 バスゥーーー。


 鼻息が聞こえて、厩舎脇の倉庫から馬車が引き出され来た。2頭立てだ。幌が張っている6人乗りだな。

 屈強そうな厩務員の横に並んで、サーシャさんがにこやかにやって来た


「この馬車よ。できれば明々後日(しあさって)までに返して貰えると良いんだけど」

「明後日の朝までには、帰って来ますよ」

 帰って来ないと、おふくろさんが悲しみそうだし。


「でも、あまり慌てないで、気を付けてがんばってね」

「ありがとうございます」

「もう、中級者(ランカー)なんだから、敬語なんて要らないわよ!」

 御者台には、既にサラが昇っていて、無表情になっている。


「ああ、これ。手紙を投函しておいて貰えますか。ああ、家の者に今日は帰られないと書いてあります」

 こういうことも有るかと、ローザから以前渡された物だ。

「分かったわ!」


「では、行ってきます!」

「うん! 行ってらっしゃい!」


 背後の低気圧がこれ以上勢力拡大しないように、話を打ち切って馬車に乗り込む。


 ハァ!

 気合いと共に馬車が走り出した。

 こっちに手を振っているので、振り返す。


 横で珍しく、アリーが荷台の床に寝そべるセレナを撫でている。

「知ってる? お前のご主人様が浮気者ってこと」


 セレナに嘘を吹き込むのは、やめろ!


章の区切りです、是非ご評価をお願い致します!


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/05/08 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)

2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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