80話 サラが館へやって来た
第5章最終話です。切りが良いので、日曜ですが投稿します。
ギルドでのやりとりを終え、夕焼けの中、館に帰って来た。
「おかえりなさいませ」
メイド服のローザに出迎えられた。
「ああ、ただいま」
私服も良いが、楚々としたこの姿も良いよなぁとか思いつつ返事する。
「あのう。お手紙が届いております」
「手紙?」
「奥様からです。執務室の机の上に置いてございます。
「おふくろから?」
なんか表情が硬いな。
「はい。お食事の用意もできておりますが」
「いや、先に読むよ。ついでだ。ローザも来てくれ」
一緒に執務室に入る。
「ああ、これ!」
「はい」
「前に言っていた代金を受け取った。40ミストある。生活資金に積んでおいてくれ」
「はい。お預かり致します」
机に近付いてみると、文箱に封書があった。
封書を持って裏返すと、お袋の署名があった。結構厚いな。
封を切って、便箋を取り出す。5枚もある。
親愛なる息子ラルフへ。
あなたが、故郷を後にして2ヶ月半が経とうとして居ますが、元気でしょうか。
……延々、どうでもいい話と向こうの近況報告が続く。
便箋2枚目の真ん中辺りで、ようやく本題が始まった。
ローザちゃんと、頻繁に連絡は取っているし、彼女が付いていれば安心と言うことは、分かっているのだけど、やはり母としては心配なところもあります。
「特にディアナ・トルーエン嬢のことは……」
あなたからは何も聞いては居ないけれどか。確かに敢えて伝えていない。
俺は、なぜか付いてきて、取り澄まして目前に立っているローザを睨む。
「おふくろに、どんな手紙を送っているんだ?」
「はあ。申し訳ありません。日頃のことを事細かにとの奥様のご指示でしたので、そのように」
「事細かにか……」
「大丈夫です。ラルフェウス様は、奥様にお伝えして憚れることなどされておりません」
それは、ローザの考えだろう。
3枚目便箋を読み始める。
したがって、私は決心しました。一度見ておく必要があると……何をだ? ……くぅ。
「ついては冬休みになりましたら、ソフィアと共にそちらに参りますので、ラルフもそのつもりで……とあるが。ローザ、何か聞いていたか?」
「はあ。それとなく」
「そうか……」
これは知っていたな。口止めでもされていたのだろう。少し引っかかるが、まあ、ここへ来るぐらいは構わないが……。
どちらかと言えば、おふくろの所為だな。常識人なのだけど。思い立ったら一直線だからなあ。
もしかして、最近ローザが落ち着かなかったのは、その所為か……?
それで、こっちは?
残された2枚の便箋を見る。
これは!
お兄ちゃんへ。
おおう! 妹からだった。
思わず頬が緩みそうになる。
あとで、じっくり読もう。
「冬休みならば、あと2週間もないが。当座必要な物は?」
「大体の物はございますが、寝具がございません」
「寝具か……予備があったはず……ああ、サラか」
時間が掛かるな。
「ダンケルク様に、ご相談されては如何でしょう?」
「ああ、頼む」
まあ、その線しか無いだろうが。
当然なぜ必要になるか、問われるだろうな。
おふくろが来ることが分かれば、夫人が是非会いたいと言うだろう。いや、おふくろこそ夫人に会いたいと言うに違いない。しかも、ディアナ嬢込みで……だろうな。
「では、明日にでも」
「ああ。サラもやって来るし、おふくろ達も来る。またローザには負担を掛けることになるが、身体は大丈夫か?」
「はい。お任せ下さい」
「よろしく頼むぞ。困ったことがあれば、何でも言ってくれ」
† † †
3日後。
「あっ、あのう。ほっ、本当にこちらなんでしょうか?」
この2日間で、迷宮以外でパーティとしての戦闘を積んで、大分打ち解けてきたと思ったのだが。
今日のサラは落ち着きがない。
今に始まったわけではなく、この街区に入って来た辺りから、過呼吸気味だったが。今は肩で息をしてる。
彼女が城内に入るには、観光許可を得るか、住人の滞在許可の員数に加える必要がある。つまり、俺の従者として許可員数を使うわけで、迎えに行ったのだけど。
俺達の館の前まで来たところで、とんでもないことを言い始めた。
「ええ、えっと。私……やっぱり城外に帰ります!」
「えーーー。ちょっと待って待って!!」
サラが尻込みして逃げ出そうとするのを、アリーが抑えてる。
「帰るって言っても、サラの鞄は、俺が持っているんだが」
「ああ。済みません取り乱しました……」
庭を横切って館に入る。
「う……わぁ。何です。ここは、なんなんですか? 広いわ、広すぎる?!」
思いっきり混乱している。戦闘中なら状態改善の魔術を掛けるぞ。
言いたいことは分かる。
「良いから良いから。中へ入ろ!」
吹き抜けのホールを、ぽかーんとして上の方を眺めてる。
「ここ教会じゃないんですよね?」
「今日からサラもここに住むんだよ」
「お帰りなさいませ」
「ああ、ローザ。ただいま」
「サラさん。ようこそ。お部屋へ、ご案内します」
俺から、サラの鞄を受け取ろうとする。
「ああ、良い。俺も行く。意外と重いからな、これ」
「もっ、申し訳ありません。ラルフ様に持たせてしまって」
「ああ、女ぽく見えるかも知れんが、俺は男だから大丈夫だ」
「ひぃーー。重ね重ね済みません」
思いの外、嫌みが効いてしまった。
「こちらです」
2階の客間、ホールからの階段から数えて3部屋目だ。その手前はアリー、さらに手前はローザの部屋だ。ちなみに吹き抜けのホールを挟んだところに、俺の主寝室がある。
「本当に、こちらなんでしょうか」
「ああ。この部屋だ」
「すっ、住めません。こんな立派な……お部屋になんか」
「ああ、分かる。分かるよぅ。初めて来た時は。そう思うよね、アリーちゃんもそうだったからねえ……」
はぁ? アリーは、ベッドの上で飛び跳ねてはしゃいでたよな。
「それから、サラさんが。こちらに入居するに当たって、1つ条件がございます」
突然ローザが切り出した。
「はっ、はい。何でしょう」
「こちらのお部屋で、薬の調合や精製をしないで戴きます」
ああ、なるほど。だが変だな、ローザに限って……。
「お姉ちゃん! そんなこと言ったら……」
アリーが何か言い換えて言い淀む。
「いいえ。確かに、こんな綺麗なお部屋で、薬を作るのは……煙、飛沫。それにどうしても匂いが付いてしまいますから。仕方のないことだと思います」
ん?
「よって、その作業をする、お部屋もご用意しました。荷物を置いて頂いたら参りましょう」
「うわぁあ。さっすがお姉ちゃん!」
廊下に出て、右に進む。奥の階段は、下りだけではなく、上、つまり3階にも通じている。
今までは使っていなかったが。
階段を昇り、傾斜の着いた低目の天井の廊下を歩く。ここに来たのは初めてだな。造りはしっかりしているが、質素な内装だ。
「こちらは、本来使用人が使う部屋なのですが。今は使われておりません。こちらでしたら、多少の汚れや匂いがあっても可と、大家のダンケルク家にもご許可を戴いてあります」
ローザ、手回し良いなあ。
「ああ、ありがとうございます。でも、今日まで居た部屋に比べて、何倍も立派です」
そうなのか?
「あのう……作業部屋と言わず、こちらに住まわせて戴くわけには」
「それは、認めない」
「ラルフ様……」
まあ、確かにシュテルン村にある実家のマルタさん達が住んでいた、部屋と遜色のない程度の内装だしな。確かに貴族でない平民の部屋としては、立派な部類と言えるだろう。
俺も、最下級とはいえ裕福な家に生まれたお陰で、贅沢をしている。上には上が居るが。
その暮らしに相応しい働きをしなくてはな──
皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2018/05/17 誤字(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2020/03/25 誤字訂正(ID:881838様 ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




