79話 パーティ登録と報酬分配
団体での人事評定って難しいすよね。成果、能力、どっちに寄っても駄目でしょうし。
ギルマスの部屋にサーシャさんも呼ばれ、手続きが引き継がれた。
部屋を辞して、受付に向かう。
階段を下る。
「やっぱりねえ。ラルフ君は凄いよねえ。私が見込んだだけのことはあるよ」
「はあ……」
「きゃっ!」
「危ない!」
フラッとしたので、思わずサーシャさんの手を取る。
「ありがとう。このまま下までお願いね」
手を持ったまま、階段を降りる。そっち側に、手摺り有るんだけどな。
「私、足下が見え難いから。階段苦手なのよね!」
この隆起じゃあなぁ……事実なのだろう、見え難いのは。段に足が着く度に、揺れまくってる。
サーシャさんは、そんなに背が高くないし、着てる服の襟刳りが広いんで、近付くと目の毒だ。そっち見ないようにしないとな。既に後ろから、殺意が籠もった視線が突き刺さってるし。
「ありがとう。ラルフ君」
一階に着いて、玄関ホールに入る。
「じゃあ、そこで待っていてね」
言い残してサーシャさんは、窓口の中に入っていった。3人のギルドカードは既に渡してあるので、俺達は長椅子に座る。
女子2人がひそひそ話を始める。
「あの女。何かと言えば、ラルちゃんを籠絡しようとして!」
「たしかに、さっきのは少しあざとかったですね」
「そうそう、まったく。ラルちゃんも、ラルちゃんよ」
聞こえてるぞ。
「でも、殿方というのは、あれに惹かれるのが本能と聞きましたが」
「大きさだったら、サラの方が大きいのにね」
「ああ、でもサーシャさんは小柄ですからねえ。目立ちますよね。揺れますし」
認めるのか。
「アリーちゃんが、あの女の歳になったら、ぶっちぎってやるんだから!」
サーシャさんの年齢を知っているのか。
数分して、窓口に呼ばれる。
「皆さん、おめでとう。これで晴れて、中級冒険者に昇級よ! それから、パーティ登録もしておいたから」
受け取ったギルドカードを見る。
上から名前のラルフェウス・ラングレン、15歳、魔術師、冒険者ギルド登録番号124041、ミストリア王都東支部所属とあって、その下のギルドランク欄が、中級冒険者に変わっている。
さらに団体欄は、今まで空白だったが117-0073と書いてあった。
この番号が、俺達のパーティを示すのか。
「ラルちゃん。見て見て!」
アリーは、ギルドカードを突きつける。
いや! カードは一緒だから、見なくても。わかった、見るから!
アリシア、15歳、巫女、冒険者ギルド登録番号2128423……ちゃんと中級冒険者と書いてある。団体欄も同じ番号だ。
ちなみに、同じ日に登録した俺達の登録番号が大きく異なっているのは、職位で分けられているからだそうだ。
「じゃあ、あとは、支払窓口にすぐ行ってねえ。報酬分配の説明をお願いしてあるから」
「はい。ありがとうございます」
にこやかに手を振るサーシャさんに見送られて、事務所の奥に行く。
「ラルちゃん!」
「なんだ?」
「鼻の下が伸びてる!」
「なんで、アリーはそんなにサーシャさんを目の敵にするんだ? ギルマスがああ言ったからか?」
「だって、ラルちゃんは、年上好きだし!」
「えっ! そうなんですか?」
「はい、そこ! 嬉しそうにしない!」
「ああ、すみません」
「まだ、基礎学校の時の話をしてるのか」
「人間の好き嫌いなんて、そう変わるものではないわ!」
「そんなことはない。アリーだって随分野菜食べるようになったじゃないか!」
「食べられるけど、好きになったわけじゃない。嫌いでなくなっただけ。そういうものなのよ」
「はぁ……この話は、またいつかな」
整理券の発券器の横に、小柄な年配男性が立っている。
「ラルフェウス殿ですか?」
「はい」
「では、こちらへどうぞ」
俺達を待っていてくれたようだ。
警備員詰め所の横を通って、行ったことのない区画に入る。
廊下を歩いて、小部屋に案内された。
「所長から、報酬のお支払い前に、分配方法の推奨案を説明するよう命じられておりますが。よろしいでしょうか?」
向かい合うと真面目そうな人相してる。
「はい。お願いします」
「分かりました。小職は出納担当主任のアンシャと申します。よろしく」
「こちらこそ」
「では、皆さんの、ギルドカードを拝見……」
3人が差し出す。
それを眺めて、返された。
「確かに。パーティ登録もされていましたので、早速説明を……」
曰く。
できるだけ大勢の同意を得て、明文化する。
新たに加入する者を受け入れる場合は、最初に同意させる。
報酬は、全て分けるのではなく、1割から2割程度共有分を取り、必要経費や不意の出費に備える。
指揮者と責任者役は、負担が大きい。絶対無報酬にしない。
経験年数、冒険者の等級、実力は大事だが、重視し過ぎない。働きに応じる分も多く取る。
複数人で携わった場合は、固定報酬と、働きに見合った比例報酬分を組み合わせる。
その上で……。
魔術師、特に複数の敵を同時に攻撃できる術を持つ者は希少である。高く評価すべき。
回復系はそれに次ぐが、戦士系が多いパーティでは高く評価すべき。
戦士系は存在として大勢というか、大多数である。希少性としては劣るが、武具防具を常時必要とするため、報酬としては低くとも、別途補填の必要がある。
従魔を使う場合は、その分も分配すること。
「それって、貢献度は毎回見直すのぅ……じゃなかった、見直すんですか?」
「それが理想ですね」
「うわぁ。面倒臭い……ですね」
アリーは少し遠慮した。
「そうですよね」
えっ?
説明していたアンシャさんが肯いた。
「そこで!」
ん?
「何かいい手が?」
「あります! ギルドカードです! パーティ設定して、さっきの基本方針が幾例か用意されていますから。それを元に、変更点を入力すれば、戦闘ごとに報酬が計算できます」
いい話だが。
「じゃあ、それは次回から有効ってことですね?!」
つまり、今回の報酬分配には使えないだろうな。まだ設定していないし。
「ええ、そういう話が多くてですね。100時間までなら遡ることができます。どうです、優れものでしょう!?」
「確かに、良いですね!」
アンシャさんとみんなで打ち合わせ、ギルドカードに入力が終わった。
「では、みなさん。今回の買い取り金ですが。現金で受け取られますか? 中級者の方からは、ギルドで資金のお預かりもできますが?」
「へえ……預かって貰うと何か良いことが?」
アリーが身を乗り出す。
「はい。まずは現金を持ち歩かなくて済みますので。落としたり盗まれたりしません。第一に安全です。ギルドカードを盗んでも、本人以外の方では通用しませんし、あと……」
「まだあるの?」
「少しですが利子が付きますし、ギルドの提携店では、ギルドカードでお買い物などの支払いが割引ありでできます。王都だけでなくミストリアの中でしたら有効です」
ふむ。冒険者ギルドは、ちょっとした町なら大体あるしな。意外と便利だ。
「へえ。良いかも……でも、やっぱりお姉ちゃんがうるさいから、今回は現金で」
「私は、全部預けておくでも良いですか?」
サラが前のめりになる。
「もちろん構いませんよ」
「えーと、じゃあ、別に追加で預けることも?」
「できます」
「よかったぁ」
「では、少々お待ち下さい。お金を取って参ります」
アンシャさんは、部屋を出て行った。
「はあぁ」
「何? サラっちは現金持たないの?」
「いえ、持ちますけど、程度問題です。大金貨なんて普通の店では使えませんし、かと言って、今借りてる部屋に置いておくのは危険だし。持って歩いてると恐くって。50スリングも持っておけば、十分です」
確かに、一昨日の臨時収入で、突然その百倍も持ってるわけだものな。落ち着かないよな。
5分ぐらい経って、布が被ったお盆を戻ってきた。
「では、今回の魔結晶2つの買い取り代金をお支払い致します。買い取り金額100ミストから、税の源泉徴収5分と、ギルドの手数料1割を差し引きまして、都合85ミストです。ここにはサラさんの分は持ってきておりませんが」
お盆の布を外すと、目映い金貨の小山が見えた。
「では、ラルフェウス様。42ミスト50スリングを。その中には従魔の分も入っております。アリー様とサラ様には、それぞれ17ミストずつ、残る8ミスト50スリングは、このパーティの共有資金としますが。如何しましょうか。ラルフェウス様にお支払いでよろしいでしょうか」
「ああ、すみません。共有資金分だけ、やはりギルドで預かって貰えませんか?」
「それは結構ですが」
「賛成!」
「私も賛成します」
「はい。分かりました、お預かり致します。手続きがございますので、ラルフェウス様とサラ様のギルドカードを……」
皆で、支払窓口へ回り、2人は手続きが終わったギルドカードを返して貰う。
カードの金色の部分を触ると、預金額と8ミスト50スリング0メニーと表示された。
「じゃあ、帰るか」
「ラルちゃん」
「なんだ?」
「今までラルちゃんにいろいろ強請り過ぎてたなあと……反省した。単独の仕事も、もう少し真面目にやるよ」
珍しく殊勝だった。
まあ、報酬以外の面で、いろいろ買ってやったりしていたからな。だが、今後はサラのこともある。身贔屓にならないようにしないと。
「じゃあ、明日。また、お昼1時にここで」
「はい。では失礼します」
ギルド前で、サラと別れた。
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訂正履歴
2018/05/17 誤字脱字(Knight2Kさん,ありがとうございます)




