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7話 神童の片鱗

2章開始です!

今日は、もう1話投稿します。

 4歳になった。


「僕、ご本が読みたい!」

「あら、ラルフェウス様、ご本ですか? 絵本でなく」

「うん。ローザ姉」


 僕の言葉で、少し困った顔をした。

 8歳になったローザ姉は大人びて、かわいいよりも綺麗と思えてしまう。


「ご本は、ラルフには早いと思うけど」

 おかあさんだ。

 今は、部屋の敷物の上に、僕とおかあさんに、姉妹とマルタさんの5人が座っている。


「でも。家にある絵本は全部読んじゃったし。そもそも、童話ばっかりだし」

 絵本はもう……いいや。


「ラルフ……この前、聖パルダスの冒険が好きだって言っていたじゃない」


「……あの本は、もう読まない」

「あら、そうなの?」

 おかあさんが不思議そうな顔をした。


 聖パルダス。

 光神(アマダー)教の聖人にして、大魔術師。

 その冒険を描いたのが、絵本だ。


 パルダスは別に好きじゃ無いけど、魔術師は格好良い!

 魔獣を次々斃すところとかね。そう言ってたのを誤解されたな。


 もう読まないのは、一緒に読んでいたローザ姉が悲しむからだ。

 あの時……


 僕とローザ姉は、今と同じように床に座って絵本を読んでいた。

 最後の方に差し掛かり、出て来たのが……。


 超獣──


 人類の最大、最凶の敵。

 魔獣から生まれ、遙かに凌ぐ存在。


 1つには山よりも大きい姿、1つには巌より堅き躰。

 城塞都市をも破壊する災厄。


『ローザ姉……涙』

 驚いた。初めてローザ姉が泣いているのを見たからだ。


 自分でも、気付いていなかったのか、あわてて指で拭った。

『ああ、何でもありません……』


『言って!』

 ローザ姉は、眼を見開いた。


『もっ、申し訳ありません。ラルフェウス様に隠し事など……父が』

『父?』

『私の……私達の父が亡くなったのはご存じでしょうけど……超獣に殺されたのです。泣くのは、泣くのはこれで最後にします』

『あっ……』


 僕をぎゅっと抱き締めると。

 ローザ姉は声を上げて泣きじゃくった──


 一月前ぐらいの話だ。


 パルダスの冒険の中身は、御伽噺ではない。

 超獣は実在するのだ。


「いやぁ。ご本! ご本が良いの」

 子供っぽく駄々を捏ねてみる。


「仕方ないわねえ」

 そう言いながら、なぜだかお袋さんは嬉しそうだ。


「奥様。旦那様の書斎から何か取ってきましょうか?」


 僕の家には結構広めの書斎がある。部屋の壁にびっしりと埋まる蔵書もある。

 そう、ウチはけっこう裕福らしい。

 この家だって、皆は館って呼んでる。確かに、部屋も10を軽く超える。館と呼んでも差し使えない。

 身分だって、最低級だけど貴族。准男爵(バロネット)というらしい。


「そうね。ローザ、お願いね。向かって左の棚にある本が良いわ」

「分かりました。奥様!」

 ローザ姉は、勢いよく立ち上がる。


【魔術の本!!】


 僕は、ローザ姉に念じて飛ばす。

 飛ばした先のローザ姉は、なんか一瞬ふらっと揺れて、こっちを振り返った。その後、頭を振ると、走って出て行った。成功かな。


 書斎には、魔術の本が何冊もあるらしい。

 魔術を憶えて、超獣を斃せるようにならなきゃ。


 超獣は、ローザ姉のおとうさんの仇……だけじゃなかった。

 今は務めに出ているおとうさんに、超獣のことを聞いた時のことだ。


『超獣って本当に居るの?』

『ああ、居るとも』

『どこに? どこに居るの?』


『うーーん。南の方の山、ラース山脈に居るらしいけどな』

『ラース山脈?』

『そうだな、ここから50ダーデン(45km)位にある』

『ふーん』


『超獣は、ここには来ない?』

『うーん。来ないとは言い切れないな』

 おとうさんが遠い目をした。


『70年以上前の話だが。本家……そうだな。領都(ソノール)に居るラルフの爺さんの、また爺さんの家が、超獣に襲われたんだ』

『えぇぇ、おじいさん(白髭もじゃ)のおじいさん?』

『ああ、ラルフの曾爺さんは独立して、ここに引っ越していたから無事だったんだがな』

『おじいさんのおじいさんは、どうなったの?』

『残念ながらな……』

『あなた! 子供に何て話をしているの!』


 おかあさんの一喝で、話が中断してしまった。


 後からおとうさんに聞き出した話では。

 ひいおじいさんは次男だったので難を逃れたが、おじいさんのおじいさんつまり高祖父とその長男は、村を護ろうとして超獣に立ち向かい、亡くなったようだ。それで本家は断絶してしまった。


 超獣本当に居るんだ。恐いな──そう思っただけだった、この時は。



「それにしてもラルフ様は、流石は貴族様のご一家というか、奥様に似てご利発で羨ましいです」

 マルタさんの声で、現実に戻る。


「うーん。ちょっと恐いぐらいね」


「奥様、取って参りました」

 重そうに両手に抱えて持ってきた。


「ありがとう。ローザ。魔術入門? うーん……流石にちょっと難しいかしら」


 よーーし! ありがとう、ローザ姉。


「いいから、難しくて良いから」

「わかったわ。じゃあ、私が読むのを手伝って上げるわ。ローザちゃんお願いね」


 僕は座ったローザ姉に抱えられながら、おかあさんに本を開いて貰った。


「第1章 魔術とは」

「ラルフ……よく魔術と読めたわね。絵本に有ったかしら?」

 ドキッ。


「あっ、あるよ、聖パルダスの冒険に書いてあったよ。次、めくって」

 嘘じゃない。

 9ページの7行目に書いてあった。気味悪がられるから言わないけど。


「ごめんね、はい」

「魔術とは、体内に宿る魔力を、言霊の力を借りて現世に及ぼす現象へ変換する術である。魔力とは、生物全てが持っている固有の力のことで、その多寡には個人差がある」


 へえー。そうなんだ。

 初めて読むはずの単語の意味が次々理解できる。


「えっ、ぇぇっと、本当にラルフが読んでいるのよね?」


「だって、おかあさんも読めるんだよね」

「私は大人だし、読めて当然だけど。ねっ、ねえ、ローザちゃん、読める?」

「いいえ。難しい言葉や初めて見る言葉があります。奥様」


「魔術には、光、炎、水、風、地の5大属性の精霊魔術と、物体移動や念伝心(テレパシー)などの念力、別名無属性魔術がある。その発動や行使には全て魔力が必要である。魔力は使う度に強化されていくが、倦怠感を伴うので5歳以下の子供は原則監督者同伴で実施のこと」


「ラルフ、倦怠感って?」

「ああ疲れたとか、だるいとか、そういう……」

「そう……ただ読めるだけじゃなくて、意味も分かっているのね」


 おかあさんが頭を抱えている。

 しまった! 調子に乗っちゃった。教えられてないはずの知識をあまり出すのは怖がられる。


「やはり、この本はラルフには早過ぎます」

 おかあさんは、本を閉じると自分の方へ取り上げてしまった。

 えぇぇぇ。


「ローザちゃん。やっぱり絵本を持って来て頂戴」

「はい。奥様」


     ◇


 しばらく、絵本を除く読書は禁止になった。理由は不明だが。


 時々見せて貰ってたローザ姉の学校のご本、教科書も。

『奥様が駄目だと仰いますので……』

 と見せてくれなくなった。

 

「そんなことでめげる、ラルフ様じゃないぞ」

 自分の顔の高さにある書斎のノブを開けて、中に入ろうとした時。


「ああぁあ! ラルちゃん。いっけないんだ!」

 後ろから声がした、アリーだ。

 無視すると騒がれる。


「じゃあ、アリーも一緒に入ろう」

「ええぇ。あたしも?」


 邪魔されるのは、嫌なので味方に引き込むことにした。


 おとうさんは役人で、ウチの館があるシュテルン村境から東へ3ダーデン(2.7km)行った所、領都ソノールにあるスワレス伯爵の公館に勤めている。

 おかあさんは、専業主婦のはずだったが、最近は光神教会に隣接した基礎学校の臨時教諭をやっている。

 又従姉(はとこ)のローザ姉は、その学校に登校している。


 つまり、今、この館に居るのは、子守兼家政婦のマルタさんに、僕とアリーの3人だ。そのマルタさんは、昼食の支度で忙しくて目が届かない。ローザ姉ちゃんは、昼過ぎには戻ってくるので、好機はあと2時間程だ。


「仲間だよ! 早く来て!」

「う、うん」

 自分の母親に言い付けようとしていたのだが、仲間だと言えば裏切るところが4歳児だな。


「へえ。すっごいねえ。ご本が沢山あるのねえ」

 確かに。本は結構高価なのだが、この部屋には数百冊ある。

 亡くなった大伯父が魔術師だったそうで、蔵書の半分は彼の遺産らしい。


「ねえ。ラルちゃん。何して遊ぶ?」

「本を読む」

 決まってるだろう。書斎で他に何をやるんだ。


「ええぇ。やだぁ! おままごとが良い。ラルちゃんがパパで。あたしがママ!」


 勘弁してくれ。

 アリーは、ことあるごとにお姉さんぶる。

 でも、おままごとって言うところが、4歳児だ。


 しかし、同い年のはずの僕は、なぜだか歳相応のことには、ほぼ興味が湧いて来ない。それに、なぜだかいろんな事を知っている。

 1歳になる前に喋れるようになったことに気を良くしたおとうさんに、エスパルダ文字の読み方を教えて貰ったことはある。しかし、手本が絵本だったから、基礎的な語彙しか教わっていない。

 だがおおよその単語が読める、発音できる、意味が理解できる。分からないのは、人名、地名などの固有名詞位だ。


 まあ、固有名詞と言う概念がある段階で、普通の4歳児であるわけがない。


 鏡で見る分には、確かに幼児なのだが。

 だから、ままごとをやっても違和感はないはずだが、とっても恥ずかしいのだ。


「わかった。もっと楽しいことをやろう」

「楽しいこと?」

「ああ。アリーは、ここに座って」

 革張りのソファを指差す。


 ……う、うぅん

 何だ。反応が鈍いな。チラッとそっちを見たが、もじもじと後ろに手を組んでいる。


「どうしたの? 座ってってば」

「あのね。ママがね。子供部屋以外では、ソファとか、ベッドとかに乗ったら駄目だって。この前座ってたら、お姉ちゃんにぶたれて、お尻がまっかっかになっちゃった」


 ほう……。

 おとうさんも、おかあさんも、分け隔てなく接しているようだが、どうやらマルタさんやローザ姉には、使用人としての引け目があるようだ。


「いいから、いいから。誰かに見つかったら。僕に座れって言われたと言えば良いよ」

「ホント?」

「ああ、本当だ」

「ぅわーい。この椅子、綺麗だから座ってみたかったんだぁ」


 おお、喜んでる。まあ、なかなか良い革のようだが、古ぼけていて、それ程の物には見えないが。


 アリーは座面に手を突いて、膝を持ち上げてソファに登ると、身体を捻ってこちらに向き直った。バズバスとその姿勢で飛び跳ねている。

「えへへ、良い感じ。で、何して遊ぶの?」


 ちぇ! 憶えていたか。

 仕方ない。


「ああ、アリー。僕の目を見て!」

「ラルちゃんの目……なんだか恥ずかしい」

 ほっぺたに手を当てて、いやいやと身を揉んでいる。


「ずっと見てるんだぞ」

「うん」

 素直だ。蒼い美しく澄んだ両の瞳に、僕の顔が映っている。ローザ姉の瞳とは違う色。


「アリーは、眠くなってくる。眠くなってくる」

「……眠くないもん」

 いやいや、もう眉も下がってトローンっとした表情だぞ。


「瞼が重くなってきた。ほらほら、重くなってきた」


「ぅぅううぅぅ」

 目が閉じたが、まだそれに抗っているのか、震えている。

「とても、気持ちいい、眠ったら気持ちいい……」

 だんだん、アリーの頬が(ゆる)んでいく。

「へあぁ…………」


【眠れ!】


 強い念を飛ばすと、強張っていた肩が下がって、腕もだらっと座面に着いた。


 ツンツン。

 ほっぺたを突いてみたが、柔らかな感触を返すばかりで、反応がない。

 寝たようだ。


 念が効いた。

 もちろんただ眠っているだけだ。前と同じなら2時間もしたら目が覚める。まだ、アリーとローザ姉にしか使ったことないけど。

皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2018/02/03 領都(城)の位置を、「シュテルン村から」→「シュテルン村境から3ダーデン」へ変更(いろいろ取りようがあるので)

2019/05/22 誤字訂正(ID:1076640 様ありがとうございます。)

2021/08/22 チャンス→好機

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「この」世界では普通なのかとも思いましたが、 声に出して呼ばなくても4歳でお袋さんと思うのは違和感がありました 8部分の最後まで読んでも転生前の記憶があるわけではないようですし あ、…
[気になる点] ローザの話し方がどう見ても10代後半にしか見えない。 これで8歳だったのか…
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