77話 縁
連休のお休みを戴きました。
投稿を再開致します。
それで、予告をしていましたが、投稿のペースの件です。
恐縮ながら、今後は、水曜日、土曜日の週2回の投稿にさせて頂きます。
よろしくお願い致します。
出張所を出た時には、日は大きく傾いていた。もうすぐ日暮れだ
宿の部屋でしばらく休んでいると、サラがやって来た。
「もう良いのか?」
「はい。お陰で、アスフォデスの下処理は終わりましたし。ありがとうございます」
嬉しそうだ。
「ラルフ様とアリーさん、なんだか大変だったそうで……お任せして、すみません。」
ギルドでの事務手続きのことだ。
「ああ、まあな。でも、サラもいくつか署名させられたろ?」
「ええ。でも大したことはありませんでした。」
「じゃあ、一段落だな」
「はい。まあ、私の方は、納品が有りますけど。明日向かいますので」
「それでだ。こちらとしては、サラは俺達のパーティに入ってもらいたい。どうだ?」
「いいえ! あっ……」
「えっ?」
アリーは、大きく目を見開いて、サラに詰め寄る。
「どうして?」
「最後まで聞こう。アリー!」
「そんな、困ります。私が……私の方が、入れて貰うんです!」
「はぁ?」
「わかった。それでいい!」
「はい、お願いします」
「まあ、どっちでも良いけど……リーダーは、ラルちゃんだよ。いい?」
「もちろんです」
「そういうわけだ、ローザ。しばらくしたら、王都館にサラにも住んでもらう」
「承りました」
ローザは、大きく肯く。
「あっ。あのう。発見者に私も加えて戴くなんて、よろしかったんでしょうか? なんだか申し訳なくて……」
「いいんだ。フンババ戦では貢献して貰ったし、サラがその薬草を探したいと言わなければ、あの広間にも行ってないしな」
「そうかも知れませんが」
「サラっち! パーティって言うのは、そう言うものなんだよ。だけどアリーちゃんの分け前は、お姉ちゃんに握られてるけどね」
「はい?」
「それは、アリーがすぐ無駄遣いするからでしょ。あなたの装備、普段の衣食住。足りてるとでも?」
「うう……すみません。もう言いません」
「ああ。私も、入居させて戴いたら、お家賃を支払わさせて……」
サラがあたふた答える。
「その話は、いずれまただな」
†
「はあぁぁ、お腹一杯」
夕食の店を出て歩いているアリーが、自分の腹を摩っている。うら若き乙女には似つかわしくない。容姿は抜群なので残念すぎる。
ただ、そう言う表裏のない性格が良いのか、アリーは女子に人気があるんだよな。男子は……まあそれは良いか。
「ラルちゃん、なんか失礼なこと考えてるでしょ」
よく分かるな。
そんな会話をしていると、宿のアルデス亭に着いた。
「ラングレン様」
玄関に入り鍵を貰い部屋に行こうとすると、膝丈まであるコートを着込んだ年配紳士に声を掛けられた。衣装の品は良いが、余り個性のない仕立てだ。貴族の執事というところか。
「確かに、ラルフェウス・ラングレンと申しますが。あなたは?」
「私は、さる貴族に仕える者でございます。主人より、こちらをお渡しするよう下知を受けました」
さる……ねえ。
封書を差し出された。
「こちらは?」
「大変恐縮ながら、こちらの名を明かすことができませぬが、御礼状でございます」
「礼状……」
会釈して受け取る。
重!
絶対に紙だけじゃない。なんか金属が入っている。多分これは……。
表には何も書かれていない。裏返したがこちらにも署名はない。
ん?
封書の裏、暗紅色の封蝋がされているが、紋章が押してある。
「それでは、失礼致します」
片脚を引き、胸に手を当て礼をした紳士は踵を返した。
「少々お待ち下さい」
立ち止まると、微笑して振り返った。
「なんでございましょう?」
「こちらの紋章は、ご主人の物でしょうか?」
俺が、紋章を手掛かりに、彼の主人の身元を詮索していると思ったのであろう、一瞬眉間に皺が寄った。
「いえ。仕える家の物ではございません。それが如何致しましたか?」
大貴族は、誇りに掛けて他者とは被らない意匠紋章であったり、装飾の図案を使う。
家の物でなければ、彼の主人と個人的に縁のある紋章ということだ。
「引き留めて申し訳ないが、こちらを見て下さい」
肯いたので、俺は魔収納からフンババが落とした手鏡を取り出した。
紳士に渡すと、鏡面を一通り眺めて裏返した。金メッキの紋様に、紋章が鏤められている。それは、封蝋と同じ意匠だ。
明らかに驚いた表情だ。
「これをどちらで?」
「ここの迷宮で、斃した魔獣が落としました」
「そうでしたか、分かりました。帰って主人に申し伝えます」
紳士は、俺に手鏡を返そうと、差し出した。
「いえ。それは、お持ち帰り下さい。もしご不要であれば、棄てて戴いても構いません」
「本当によろしいので?」
「はい」
「屹度、主人に見せます。ありがとうございました」
紳士は玄関から出て行った。
「ラルちゃん。なんだって?」
「ああ、なんか手紙を貰った」
「へえぇ」
「ああ、あと。拾った手鏡が関係のある品のようだったので、渡した」
「ああ、あれ。まあいいか、それほど値打ちがあるようには思えなかったし」
そう言って、サラを見た。
「わっ、私はラルフ様さえ良ければ……」
「はぁ。サラ、なんか怪しい……ああ、嘘、嘘!」
†
サラを呼んで、俺達の部屋に4人が集まる。
「その手紙が何なの。ラルちゃん宛なんでしょ」
「まあ、そう言われたけどな」
封書を開ける。
中に入った便箋を持ち上げると金属がぶつかった音がした。
便箋を横に置き、封筒を大きく開く。
「なっ!」
俺は、ずしりと重い硬貨を取り出した。
「大金貨じゃない! ど、どど、どうして?」
「さあな、何か手紙に書いてあるとは思うが」
結局、大金貨は3枚入っていた。
「うわぁ、始めてみたよ、大金貨!」
「私もですぅ。3枚って、こっ、これで30ミストもあるんですよね」
ごくっとサラは生唾を飲み込む。
「そ、そ、そうだね。ああ、そう言えば、タバサちゃんの家の年収50とか60ミストって言ってたから、半年分かあ」
「タバサちゃんと申しますと?」
「ああ、ラルちゃん家の畑で麦作ってた家の子」
そう言えば、同級生にいたな。
「はあ……」
会話しながらも、2人は山吹色の硬貨を顔を寄せて見ている。
俺は、便箋を読む。
ラルフェウス・ラングレン様
並びにパーティ御一同様
この度は、古代エルフ遺跡の真髄を発見頂き、感謝に堪えぬ。
些少ながら、感謝の意を同封致す。
文章短いな。
大金貨3枚ということは、あの金はみんなで分けろってことだな。
2人の間に手を伸ばす。
「あっあん」
1枚を持ち上げると、サラの前に置く。
数秒意味が分からなかったようだが、突然狼狽し始めた。辺りをきょろきょろ見始める。
もう1枚は、アリーの前に置いた。
口を開けたままだ。
「ローザ。家計に入れておいてくれ」
立ち上がってこちらにやってきた。
最後の1枚をローザに渡す。
「承りました」
翌日。サラと分かれた俺たちは、土産を買って王都へ戻った。
帰り道では、多くの馬車とすれ違った。
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訂正履歴
2022/10/07 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)
2025/04/24 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)




