76話 犯人は現場へ戻る
GWになりました。
恐縮ながら、投稿はお休みを戴いて、次回は5月6日の日曜日に投稿致します。
あと、さらに恐縮ながら、執筆速度の方が追い付かなくなってきました。週2回投稿ペースに落とさざるを得ないと思います。
詳しくは、次回告知致します。
よろしくお願い致します。
ギルマスとバルサムさん、それに出張所長のワーレンさん、あと警備兵2人を連れて、廃墟となっている広間に転層してきた。
俺達一行以外は相変わらず無人だ。
「ここなのか?」
「はい」
皆新しい、転層石を持って居る。転層陣で到達履歴を記録していた。
そしてギルマスは、兵を広間の入り口と、転層陣に配置して警備させた。
「こちらに……」
残る3人を例の場所に案内する。
「なんだ。この床上にある土の痕は? 何か重たそうなものを引き摺ったようだが」
「その横が、秘密の場所の入り口です」
「おお……そうなのか」
まずは、天井に隠された文字の秘密を、皆に教え一頻り驚いてもらった。
「書いてある通りやれば、入り口が開きます」
「書いてある通りと言ってもだな。読めんぞ、あんな文字。うーん。神代文字ってやつか?」
ギルマスの眼が恐い。
「はい」
「で、なんて書いてあるんだ?」
バルサムさんにも思いっきり睨まれる。
ਠਲਰਖਵਠਰਸ ਬਜਲਵਫ ਞਦਗਏਚ ਮਟਦਉਖਫਕਡ ਢਬਇਘ ਯਖਲ ਚਙਲਛਙਟਹਤ
「この下で関門を抜きし証を示せと書いてあります」
「証なあ……そうなのか? バルサム」
「さあ。私が分かるのは、公開されている呪文だけです」
「ふむ。なんで分かるんだ、ラルフは?」
「ああ。俺は修学院の学生ですし」
「そうか、そうだったな」
「いや、所長。納得しないで下さい。神代文字を読める人間は、この国に何人も居ませんよ。それも、しっかりできてるとは言えないらしいですし」
「むう。そうなのか。俺は戦士上がりだからな。あやうく騙されるところだったが……まあいい。その辺は後できっちりとな。とにかく、開けてくれ」
バルサムさんは、首を振っている。
「では」
フンババの魔結晶を取り出すと、例の如く地響きと振動が発生し、地下への扉が開いた。
「はあ……驚いたな。こんなものが隠されていたとはな。先代から引き継いだ時に調査はさせたが、ここまで大掛かりとは思いもよらなかった。見つからないわけだ。あの天井、よく見付けたな」
「ここの広間は、樹が天井をぶち抜いてるし。蔓草が天井を避けてるようなので、気になって天井を見てたら見付けました」
「おお。確かに、蔓草が天井の手前で止まってますね」
「言われてみれば気になるが……」
「はぁぁ! ラルフ。おまえ、そういうところにも気が回るのかよ……で、この先に何がある?」
ギルド幹部職員が、唸りながら感心というか呆れの混じった感想を言われる。
「突き当たりに部屋があります」
「そうか。早く見たいぞ。安全なんだろう?」
「ええ、まあ」
ギルマス。なんか急いでいるというか、時間が厳しいのか?
「じゃあ、行こう!」
俺が先導して降りる。あれ3人? 出張所長が降りて来ない。
「何だワーレン。来ないのか」
「ああ、私はここで待っています」
「仕様がないな。まあいい、そうしてくれ」
薄暗い通路を進むと、第1の光膜が見えてきた。
「ああ、気を付けて下さい。こいつは、そのままでは通り抜けられません」
「何だと?」
ギルマスは腰に付けていた短剣を抜くと、光膜を叩いた。
金属音が通路内に響き渡る。
「本当だ」
「じゃあ、ラルフ君が入って来られたのは、ここまでなのか」
「いいえ」
「そりゃそうだろう。ここまでだったら怒るぞ!」
「これを使えば、先に進めます」
バルログの魔結晶を出庫する。
「また違う魔結晶かよ……はあ」
何かギルマスに溜息を吐かれた。
「これを持って居ると通り抜けられます。あと奥の部屋に安置すると、この膜自体が消えます」
「なるほどな。まいった。ラルフは、魔術師にしておくのは惜しいな」
ギルマスは、何を言ってるんだ?
玉座の間に案内する。
「ここで少し待って下さい。灯りを点けてきます」
部屋の奥まで行って、祭壇の上にバルログの魔結晶を置く。
天井が光り明るくなる。
「なっ、何だ。ここは! すげえ。すげーぞ!」
ギルマスは玉座に取り付く。
「これは……」
息を飲んだバルサムさんは、壁の段に置かれた劣化知晶片に歩み寄る。
しかし、流石はギルドの職員。無闇には触らない。
「金無垢だ。それに翡翠にラピスラズリ………しかも、見たこともねえ精巧な細工だ。この椅子は、とんでもねえ、お宝だぞ……国宝だと言われても納得する」
「そんなものより、このクオーツですよ」
「おいおい、そんなものって……」
「いや。これだけの数のクオーツ、1度に見つかったことはないはずです。特別史跡指定されますよ、ここ! ありがたい」
バルサムさんには、似合わない興奮の仕方だ。
「史跡指定か……」
少しギルマスが複雑な顔をした。
「ええ、文化省にもすぐ連絡しないと!」
「分かっちゃいるがなあ……」
「ラルフ君、これが何か分かるか?」
「知識片ですよね」
「知っていたか。それで、ここにある物は動かしたか?」
「いいえ」
「それは良かった。並びも研究対象になるらしいしな。これは、人工遺物なのだからな。国内で見つかった物は、研究施設に収蔵されているということになってる」
引っかかる言い方だ。
「無論、表では流通はできない」
「そうだな。動産だから発見者である君に所有権はあるが……実入りがない割に、保護措置義務は負わされるぞ」
「義務?」
「ああ、盗難されないように保護する金庫を用意するとか、常時警備員を雇うとか、そういった措置が要求される。一応補助金は出るがなあ。それに、貸し出しの陳情がしきりに来る。これだけの文化財となれば、間違いなくな。そういう時の為にギルドで預かることもできる。手続きをして貰えば当然返却もする」
悪くない話だ。
「分かりました。ではギルドに預かってもらうことにします」
「ああ、出たらすぐ手続きしよう」
「もう一つ訊きたい」
「何でしょう。バルサムさん」
祭壇を指差す。
「さっき光の膜だったかを通り抜けるのに使った、その魔結晶……どうやらバルログのようだが、どこで手に入れた?」
「地下第4階層の広間で斃したら落としました。ああ、行き止まりの方です」
「あそこかあ。そんな強い魔獣が出現するという報告はないが。ん? バルログだと? ……そう言えば、この迷宮の紋章。牛が描かれていたなあ。フンババも牛……何か有るのか?」
「紋章?」
「ああ、今は文化省に収蔵しているが、迷宮の入り口軒上に浮き彫りの彫刻があってな。それが紋章と言うことになっているが、牛も彫られていた」
そういうことか。
「ところで、なんで文化省なんですか? この迷宮の入り口には内務大臣と書かれてありましたが。管轄はどちらなんでしょう?」
それは、余り良い質問ではなかったようで、ギルマスは渋い顔をした。
「名残が尽きんが、戻ろう」
「はい」
ギルマスはせかせか歩いて、玉座の間を出た。
ふう……。
「ん? どうした。ラルフ君」
「ああ、いえ。バルサムさん。少し疲れたなと」
2人でギルマスを追う。
とりあえず、奥にあった玄室を塞いだことには気付かれなかったので、安堵の溜息が出てしまった。
「そうか。しかし、ここを出たら、まだ事務作業が残ってる。がんばってくれ!」
「はい」
迷宮から再び出た時は、14時を回っていた。
ローザとアリーが待っていた。
「じゃあな。俺はここで!」
そそくさと、ギルマスは行ってしまった。
「なんか、お急ぎのようでしたね」
「あっ、ああ……そうだな」
そのままバルサムさんと出張所長さんに、ギルドの出張所へ連れて行かれ、いくつかの書類に署名をさせられた。
フンババとバルログの魔結晶は、玉座の間に連なる部分の保全に必要とのことで、買い取り前提で預けた。
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訂正履歴
2021/04/14 誤字訂正(ID:668038さん ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




