70話 秘密の残像
すみません。遅くなりました。
「サラ! 何か手伝うことはあるか?」
「そうそう。何でも言って! この草を引っこ抜けば良いの?」
「ああ、ありがたいのですが……済みません。この草の根に薬の材料になる部分があるのですが。干す前に傷つけると薬効が落ちてしますので。恐縮ですが、手を出さないで戴くと助かります」
「ああ……そう。で、時間は、どのくらい掛かる?」
「……いえ。これだけの数ですから、半分は残しますが採取には……1時間以上掛かります。ここで別行動にしませんか? 夕方には昨日のお部屋に伺いますから」
「えぇぇええ? 採取は手伝えないけど。何か名残惜しいな。どうするラルちゃん?」
「サラも転層石を持っているよな」
「はい。持って居ます」
「わかった。サラも1人で大丈夫そうだが……何か人手が必要なこともあるかも知れない。俺達もこれで帰るとしたら暇だから、しばらく、その辺を散策して、その時点でも用がなかったら、帰るとしよう」
「お心遣い、ありがとうございます。では」
会釈して、サラはしゃがんだ。
自分の鞄から小さなスコップを出して、その株の周りを掘り始めた。
じゃあ、俺はこの部屋を探検だ。
まずは、気になる中央部だ
近寄ると、根の全容が見えた。
天井を直径5ヤーデン程、ぶち抜いて下りてきている。さらに、この広間の床石にも亀裂を入れ、下にも伸びている。床には、根の下に天井を構成していた石材が崩れて散乱している。
今は輝いては居ないが、何か魔力らしきものを感じる。一抱えを拾って、魔収納へ入れる。
反対側に回り込むと、蔓草が絡み合いながら群生していた。
床面積の1/3程を根と共に埋め、その先は壁を回り込み、天井近くまで達している。
が、なぜか天井には伸びていない。正確に言えば、その僅か数リンチ前で見えざる壁でもがあるように止まっている。あるいは回避して下に伸びたりしている
おかげで広間の明るさが保たれているのだが、考えてみれば変だ。
そう言えば。
振り返ってみると、天井の落ちた石材の周りは、蔓草が繁茂せず避けて伸びている感じだ。
ふむ。この石には、蔓草を避けさせる、何かの効能があるのかも知れないな。
「この根、凄いね」
気が付くと、すぐ脇にアリーが居た。破れた天井を観ている。
「ああ、自然の驚異だな」
そう答えながらも、思考が収斂せず発散していく。
ここは何の広間なのだろう。
守護魔獣は居なさそうだが。
何百年も前の建物が、現代でも実現できていない技術を垣間見せている。
そもそも、この迷宮は誰が、何のために造ったのか。
俺の中の疑問が高まっていく。
玉座の間に祭壇……。
何となくだが、この広間ではない気がする。
中央を根が貫いていて、特別な雰囲気はあるが。それを除けば、ただのだだっ広い部屋だ。
そうだ! さっき謎を提示した魔結晶を見てみるか。何か手掛かりが得られるかも知れない。
魔収納から、バルログの魔結晶を取り出した。
数秒間待ってみたが、特に何も起こらず。
捧げよだったな……。
頭上に掲げてみたが、変化はない。
「何やってるの? ラルちゃん。落としたら頭に当たるよ!」
生温かい眼で俺を見ている。
アリー相手だが、何だか気恥ずかしいぞ。
少し離れたところに居るサラは、一心不乱に採取していて、こっちを向いてないのが救いだ。
ん?
なんか文字が見えた気がした? 今は見えない。神代文字だったような。
どういうことだ。
また見えた。
そんな馬鹿な。文字らしきものが一瞬見えたり見えなかったりする。
俺の目はどうかしたのか?
目を押さえてみ……た。見える。いや、読めはしないが、文字だ。
そうか! 目を閉じたときに見えてるんだ、つまり……。
「そうか! 天井だ!!」
「はっ? 天井? 天井がどうしたの?ラルちゃん」
「ははは……アリーこっちへ来てみろ」
「何よ。ラルちゃん、さっきから変だよ」
「良いから良いから!」
アリーの手を引っ張って誘導する。
「真上の天井をじっと見てみろ」
「は?」
「いいから」
「もう! 流石に眩しいって……」
5秒くらい経った頃。
「もう良いでしょ……あれ……何これ。何か見える、いや見えない、あれ?」
「目を瞑ってみろ」
「ああぁぁ!」
「残像だよ」
「残像?!」
さっき魔結晶を頭上に掲げたとき、偶然天井も凝視することになった。
もう一度、今度は魔結晶無しでやってみる。
はっきり見えた!
ਠਲਰਖਵਠਰਸ ਬਜਲਵਫ ਞਦਗਏਚ ਮਟਦਉਖਫਕਡ ਢਬਇਘ ਯਖਲ ਚਙਲਛਙਟਹਤ
この下で関門を抜きし証を示せ……かな。
輝く天井は、網膜に残像を残す、直視したときは見えない文章を見せる。
「これ、さっき見た文字?」
「ああ内容は違うけどな」
魔収納から、バルログ……ではなく、フンババの魔結晶を取り出す。
その時だった。大きな地響きが起こり、床が小刻みに揺れる。
「ラルちゃん!!」
アリーが抱き付いてきた。
メキメキと耳障りな音がして、弾けたり割れる根が出始め、蔓草が引き千切られる。
床が動いてる。ただゆっくりだ、それ程脅威を感じない。
最悪あの垂れ下がっている、根にぶら下がれば。
「大丈夫ですかぁぁあ?」
サラから声が掛かった。
「ああ、問題ない!!」
ぎゅっとアリーが抱き付いた。
「本当に、本当?」
少し微笑んで、肯いてやる。
それより。
床の一角が、地下に向けて口を開け始めた。見る見るうちに、人が通れそうな幅となり、地響きと騒音が止んだ時には通路の程の広さとなった。
「階段だ! 何ここ!?」
今までとは異質の空間だ。階段の下の方から、緑色の光が漏れてくる。
サラも異変に気が付いてこちらにやって来た。
「これは! その枯れた蔓草の状況から見て、10年は茂っていたはずです。この通路、結構な発見なのでは?」
「ああ、多分な。このフンババの魔結晶があって開いたわけだしな」
「ふーん。で、ラルちゃんどうするの?」
未知の危険があるかも知れない
「俺は、下に行ってみるが、アリーは……」
「ぜーーぇたいに付いていくからね!」
先手を打たれて拒否された。眼が1人で行くなんて許さないからねと語っている。
仕方ない。
「ふむ。じゃあ、俺とアリーが……そうだな、サラが薬草の採取を終わっても、戻って来ないようなら、そこに出て来た、転層陣で地下第1階層まで戻って、ギルド職員をここに連れてきてくれ」
「分かりました」
サラは、口を真一文字に結び肯いた。
「セレナは、ここに居てサラを護れ 【もしもの時は、ローザの指示に従え】。わかったな!」
「ワフッ!」
「じゃあ、行ってくる」
「お気を付けて!」
「大丈夫! 大丈夫!」
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訂正履歴
2018/04/24 ローザの指揮を仰げ→ローザの指示に従え(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2022/01/29 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)




