68話 地下第4階層 関門の闘い
お待たせ致しました(?)。戦闘回です!
アリーの予想より少し早く、俺たちの順番が目前となった。いくつかのパーティーが、周回の時間稼ぎのために先を譲ってくれたからだ。3時間以内に再び関門の間に入ると強制退場だと言っていたからな。
前も後ろも冒険者達は、のほほんとしたもので緊張感がない。
何とも気楽で良いのだが、そうなると疑問が湧いてくる。
この関門の意味は、何だろう?
ここに来ている冒険者にとっては、都合が良いのは自明だ。
勝ち取った魔結晶を換金すれば、それなりには儲かる。それに余程のことがなければ、死ぬことはない。
当然ながら、他の迷宮は下手をすれば命はない。
この迷宮が、そんな都合良くできあがっている理由はなんだろう。
魔獣は繁殖の他に、とある魔導具に魔力を与えることで召喚できる。普通の迷宮は哀れな冒険者な骸を吸収して、魔力の源泉としているらしい。
この迷宮は、その原則から大いに逸脱している。
そんなことを考えていると、俺達の番になり扉が開いた。
「よし行ってくれ。健闘を祈る」
促され3人と1頭が広間へ侵入すると、後で扉が閉まった。
なんだか天井が高い。
それに明るいな……この広間もか。
昨日バルログが出てきた広間も魔石灯ではなく、天井が光っていたが、ここもそうだ。何の共通点が……。
今はそれどころじゃなかった。
丸い広間の中央、床に描かれた紋章が輝く。
紋章の円縁に沿って黄金の光障壁が屹立し、その中に魔獣が3つ迫り上がってくる。
体長5ヤーデン、双角牛頭。
まるで象が立ち上がったが如き、隆々たる人型巨体──
フンババだ!
上級魔獣に臨した戦慄が、鑑定魔術を無意識に立ち上げる。
総合戦闘級157!
何が、大した魔獣じゃないだ!!
さっきのバルログですら100未満だったというのに。
両脇に従えた、小者にしか見えない牛頭人身のミノタウロスとて、体長は3ヤーデンはある。しかし、それらを見下ろすフンババの暗褐色の巨躯は圧倒的で、見る者を本能的に脅えさせる。
その上──既に口腔に溢れるばかりの火焔を頬張っていやがる。障壁が薄くなっていく中、仰け反りつつ喉を見せた。消えると同時に噴き出す積もりだ。
前方にいるセレナとサラが目に入る。
【地壁!!】
石床を突き破ったのと、火炎が放たれたのが同時。
「伏せろ!」
魔圧を上げつつ叫ぶ。
高速に隆起した土壁が、伸びて来た焔を辛うじて遮った。間一髪だ!
やってくれるじゃないか!
「お前達は、ミノを殺れ!」
俺は跳躍──自分で築いた土壁を足下に置いて、フンババを見据える。
あの火炎は、続けては撃てないようだ。ならば。
【萬礫!!】
白く霞み無数の散弾が、守護魔獣に殺到──
「なんだと?」
しかし、フンババの直前、微かに光った透明の壁が立ちはだかった。
礫が当たる度、波紋が水面の如く浮かび、だが奥には通さず消滅していく。
ほう!
正直舌を巻いたが、直前に鈍く輝いたヤツの角を見逃してはいない。
中級障壁魔術……光属性──
光盾の上位互換か。
その向こう、こちらへ向けて焔を口腔内蓄え、またもや吐き出す。
ふん!
『光神七眷属が第一 蒼きマヅダーの名に依りて命ず 我に何者も突き通すこと適わぬ 盾を与え給え 光壁』
敵魔獣が張った障壁と同じ、俺の目前に無色の壁が現れ、紅き焔を堰き止める──しかし。効果を現したのは片時。
光盾より劣るか。我が障壁魔術は脆くも割れるように崩れ、突き抜けた奔流が押し寄せる。
【光壁!!】
2度目の光壁は、火焔を物ともせず完全に阻んだ。
障壁は、焔の粗密が流れゆくのを透かし見せる。
ふふふ……流石は中級、されど無疵たり得ず!
盾の強度を決めるは術者の力量、魔力。貫けぬ障壁などないと言うことだ。
爽快だ!
比してフンババは、自らの火焔を延々と押し留めて歩み寄る、敵に驚愕を禁じ得ないらしい。牛面を歪めている。
その頃。
右横では光の筋を引いたセレナが、ミノタウロスの胴を切り刻み屠った。
左では、五分以上で、サラが押し込んでいる。
負けていられないな!
指呼の距離まで、フンババに仕寄る。
1歩退いた──小さき人間に気圧され。
俺は、さらに1歩踏み出す。
怖気たのか、フンババは自らの前面に7枚あった障壁を重ねた。
【閃光】
俺の眉間を発し、何物よりもただ真っ直ぐな輝線は──敵の光壁を割り砕き、貫いて、全ての抵抗を撲ち破った。
魔術対魔術の正面からの殴り合い。負けられないよな。
閃光はヤツの眉間に吸い込まれていく、が!
ちっ。気合いを入れすぎたか。
閃光はヤツの脳を穿ったが、貫通力のあまり素通りして遙か後方の石壁を赤く溶かす。
○
俺は、その軌跡で首を動かした。
フンババの眉間へ円が刻み込まれた直後、痙攣していたヤツの頭蓋が下顎を残して弾け飛んだ。
吹き飛んだ脳漿や体液は、床を染める前に光と化し、遅れて全身が輝いて砕ける。
数秒の後、巨大な魔結晶が、高い音を立てつつ床を転がった。
僅かに時を置いて、左から断末魔が聞こえると、大斧が床に落ちた。最後に残ったミノタウロスを葬ったのだ。
「たっ、斃せました……」
「ああ。俺達の勝利だ!」
寄ってきたセレナの頭を撫で、喉元を擽る。
セレナが首を曲げこちらを向く
ん? これは?
「よくやったねえ、サラ!」
いつの間にか姿を現したアリーが、サラの頭を撫でている。
「はい。でもアリーさんのお陰です。支援魔術を掛けてくれて助かりました。それにラルフ様にフンババが斃されたので、向き合っていたミノが気を取られて……」
なぜか、サラは焦っている。
「それでも、ミノタウルスは強い。サラの手柄だ!」
「あっ、ありがとうございます。あっ、あのう。やっぱり私、皆さんのパーティーに加わりたいです!」
敵を斃したというのに、強張っている顔。
可愛いじゃないか。
「ああ、歓迎する。サラスヴァーダ!」
「ああ!」
「よかったね! サラっち! アリーちゃんも歓迎するよ。っていうか、一緒にパーティー作っていこう!」
「ありがとうございます。ラルフ様、アリーさん」
視界の端に土壁が目に入る。俺が盾に使ったヤツだ。
このまま放置は迷惑だよな。
隆起させた地壁を、魔収納へ入れる。
振り返ると、サラとアリーが抱き合っている。
「あーー。盛り上がっているところ悪いが、話はここを出てからにしよう。次のパーティーが待ってる」
「ああ、そうでした!」
開いた扉を通って外へ出る。
全員が通り抜けると、見計らったように閉まった。
ふむ。よくできてるな。
「あれ? ラルちゃん。何持ってるの?」
「ああ、フンババが落としたヤツだ」
古い錫の持ち手と枠に、楕円の鏡が填まっている。
金メッキの装飾が施されて居る。鏡面はややくすんでいるし。古い物なのだろうが……。
「手鏡? 見せて!」
「俺も、まだあんまり見てないんだが……」
アリーに渡す。
「小さくて可愛いい……けど、なんだか古ぼけてるね。サラっちどう」
可愛いかどうか知らないが、確かに鏡面は片手程の大きさだ。
「はあ。あっ、ここに何か文字が。擦れてよく見えませんけど……エスパルダ文字じゃないのかな」
鏡面の反対側を見ている。
「ああ、ラルちゃんに任せておいて」
手鏡が帰って来た。
「ラウシアの文字だな……」
解読に掛かる。
「ほらね。ラルちゃんは専門家だから」
「はあ」
「愛しき我が……マー……に捧ぐ。部分的に抉れたり擦れていて、それ以上は読めないな」
「贈り物ですかね?」
「そうだろうな。ラウシアは、今はなくなってしまった国だが。ミストリアと親交のあった国だったはずだ。分かるのはそこまでだな。アリーとサラ、これ欲しいか?」
「換金、換金!」
「いえ、私が言うことでは、でも……やっぱり換金ですかね」
「わかった。じゃあ。ギルドの鑑定家に見せよう。一応預かっておく」
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訂正履歴
2018/04/24 誤字,我が眉間→俺の眉間(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2018/05/01 魔術名被り訂正のため、光壁の記述を加筆修正。




