67話 なぜ大混雑?
混雑好きですか? そんな人ほとんど居ませんよね。都会で混雑は余り気にならないけど。観光地ではちょっと。だから連休時期は、出不精になってしまいます。
ギルド公認地図の記載通り、下り階段を見付けた。
地下第4階層だ。
降りたって進むと、上層と同じように、近い場所に広間と転層陣があった。
奥まったところに、魔導鞄から出した敷物を敷いて一服だ。もうすぐ10時だしな。
皆まだそんなに疲れてなさそうだが、定期的に休憩を取るのが良いらしい。そうギルドの初級冒険者心得という冊子に書いてあった。
陣に集る冒険者達が、2人の女子見たさに時々こちらに視線を送ってくる。そもそも、アリーの装備というか衣装って、露出が多すぎるんだよな。完全に膝が出ていて太股が覗けてるし。そんな不躾な視線も、間に寝そべるセレナを見付けると目を逸らす。
時々、俺を粘つくような目で見てくるヤツも居るのだが、なんでだ?
俺はセレナの傍らに腰を下ろして、時々通行人を威嚇する彼女の背中を撫でながら魔力を与える。魔力を攻撃に使うのは初めてだったからな、少し疲れているかも知れない。
さっきから、ぼうっと歩いて行く冒険者を鑑定しているが、正直セレナに勝てそうな能力を持っている者は見当たらない。
3階層では、棘が多くて硬い甲羅持つ小竜亀を、右腕一旋で切り刻んでたからな。人間なんか……凄惨な光景しか思い浮かばない。これまでも、人間相手には威嚇しかしたことはないから大丈夫だろうけど。
「このお茶、おいしいですね」
「でしょ。お姉ちゃんが淹れたんだよ」
「はあ……すっごくお綺麗だし、剣術もラルフ様に教える程だし、それでいてお料理もお上手なんですよね。敵いませんねえ」
「敵わない敵わない。おっぱいも凄いし、お腹なんてキュっと締まって、お尻もボーンでしょ……」
何の話をしてるんだ!
でも、反応したら負けな気がする。
「……ほんとに、お姉ちゃん、とっととお嫁に行けば良いのに。メイドやってるなんて、気が知れない」
「ああいやぁ、そういう話ではなくてですね」
サラがあたふたする。
「そうだね。お姉ちゃんが4つ年上で良かったよ」
なんでだ?
「はあ。でさあ、ラルちゃん」
今度は俺か。
「ん?」
「ん、じゃなくて。セレナの爪って何なの?」
まったく! こんな往来が有るところで訊く話題じゃないだろ。
【音響結界】
「光魔術を紋章として、セレナの爪に刻んだんだ。魔力を込めれば自動発動するようにな」
「ふわぁ。それってまるで魔剣とか魔刃みたい……って」
サラは、口を押さえて周りを見回した。
「ああ。大丈夫、大丈夫。サラ、叫んでみ」
こともなげにアリーは、目の前で手を振った。
「はい?」
「いいから、叫んでみ」
「はあ……わぁぁぁあああ!!」
「ああ、うるさい。もう良い!もう良い……。でも、わかったでしょ!」
「何がです?」
「あれだけ、サラっちが大声出しても、歩いてる人誰も振り返ってないでしょ!」
「ああ、そう言えば!」
「ラルちゃんが、偉そうに小難しい能書き垂れるときは、他に聞かせないように、結界張ってるのよ!」
「そういうことでしたか」
俺の行動だけは、よく読むよな。
「しっかし、ラルちゃんが朝眠そうにしてたのは、昨夜それをやってたのね。まったく見上げたものだわ」
「まあな」
「セレナの為ってところが、気に入らないけど!」
「いえ、素晴らしいと思います! あれだけの魔力と魔術の才能を持ちながら、努力も怠らないんですね。ますます尊敬しました」
尊敬……ね。
「ぶぅーーー。努力じゃなぁい。ラルちゃんって人は、やりたいことやってるだぁけ」
むかつくが、一理ある。
魔導具に興味はあったが、武器にはほとんどなかった。あるのは持ち易い木刀とか、振りやすい木刀とかか。でも、魔術研究に役立つかも知れないな。
「魔剣かあ。今度調べてみるか」
「えっ! まさか、ご存じなくてされたとか? 信じられません、天才……」
「違う違う。ただの魔術バカよ! 子供の頃はアリーちゃんとか、セレナとか。随分実験台にされたし」
「うわぁぁ。それは、流石に……」
サラが眉を顰めて俺を見てる。早くも尊敬度半減したな。
「さて、休憩はもう良いだろう。いくぞ」
「ああ、誤魔化した!」
ブツブツ言いながらも、通路を進んでいく。
「うーむ」
「混み合ってますね」
「てか、人が多過ぎでしょ」
アリー、お前もこの状況を作っている1人だ。
最初は前の冒険者パーティと間隔を開けるように歩いてきたつもりだったが、今では10ヤーデンも開いてない。後ろもそんな感じで、次のパーティが見えてる。
さらに5分も歩くと。
「あぁ、駄目だ。完全に詰まった」
こうなると探索じゃなくて、待ち行列に並んでる状態だ。
大混雑と言って良い。
いやあ。どっちかというと寂れた迷宮じゃないのか? ここ。
どうしてなんだ。
「ちょっと行ってくる」
そう言ったアリーは、あっという間に透けて壁に溶け込み、気配が消えた。
迂闊だぞと言いたかったが、周りの冒険者達は、気が付かなかったようだ。
次の角まで……見える範囲では数十人は待っている。詰まってから3分ぐらい経ったが、1ヤーデンたりとも進んでいない。
「あのう。お尋ねします」
失礼のないように、ある程度は顔が見えるようにフードを引き上げる。
「おおぅ、なんだ男か!」
はっ?
「いやあ。フードからのぞく顔は端正だし。てっきり女子3人組かと……って、今は2人しか居ないが」
後ろで、クスクス笑ってる声が聞こえる。サラだ。
沸き上がる怒りを抑えつつ訊く。
「ああ。で、この行列は、何の列なんですか?」
「なんだ、この階層は初めてか。地下第5階層に降りる前に、関門が有るんだ」
「関門というと?」
「ああ、1回1パーティしか入れない広間が有ってな。守護魔獣を斃せた場合は、第5階層に繋がる扉が開くんだ」
ほう……。
「で、一定時間内に斃せないと強制的に別の部屋に飛ばされてしまう。そこは、この階層の最初の方にある広間にしか通じてない」
「要するに出て来た魔獣を斃せば良いんですね」
「そういうことだ。なーに心配するな。守護魔獣は何種類か居るが、どいつもそんなに強くない。俺達のパーティーは、何周もしてるが、負けたのは最初だけだ」
「それにしても、ここは混みすぎじゃないですか?」
「ああ、上層は面倒臭い魔獣が出て来るので、この層へ直接転層してくる者が多いんだ。この関門部屋の守護魔獣は結構良い物を落とすことが多いしな。俺達もそうだが、ここを勝って通って、下に行き、ここに戻るんだよ。だから、ここの通路が混雑している」
「へえ。そうなんですね」
「ああ、だけど、3時間空けないと問答無用で戻されるから、気を付けるんだぞ」
良い人らしい。訊いてないことまで教えてくれた。
「ありがとうございます。助かりました」
「何、いいってことよ。ああ、列が若干進んだ。じゃあな」
進んだ仲間達に追い付くよう進んでいった。
「サラ!」
「あっ、あの。ラルフ様を初めて見たとき、少女と間違えてませんよ……あっ!」
「サラも間違えていたんだな……華奢で済まんな」
「済みません。でっ、でも私より、力持ちなんですから……あっ! あれも魔術なんですか?」
「いや。ガキの頃、強化魔術を使いまくってたら、戻らなくなった」
「へっ、へえ。そうなんですね」
感心半分、呆れ半分だ!
ん? 待てよ!
さっき、俺を見ていたヤツ……キモチワル!
「ああ、ラルちゃんと、サラっちが仲良くしてる」
「どこ行ってんだ?」
「ぶーー。まあいいや。この行列は、何を隠そう……」
「魔獣部屋の順番待ちなんだろ」
「なっ、なんで知ってるの?」
「前のパーティーに訊いた。それで、どれぐらい掛かりそうだ?」
「もう! そうね、1組3分が持ち時間らしいから、入れ替えで1分掛かるとして……ええぇ、1時間も掛かるのぅ?!」
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訂正履歴
2018/04/24 誤字(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




