66話 迷宮2日目!
プロフェッショナルとアマチュアの違いは、スピードだと言ってた先輩がいました。
ごもっとも。それもそうだけど、プロは外乱への対応力があるというか、失敗してもアジャストしてくるところが凄いなぁと思ってます。
朝8時。
ファァアア……。
「ラルちゃん。またあくび!」
「すまん、すまん」
迷宮の入り口に行くと、サラが待っていた。
「おはよう」
「サラっち、おはよう!」
「おはようございます。ラルフ様、アリーさん」
笑っているが、少し表情が硬いな。
「キャ!」
アリーが後ろに回り込んで、尻を触ったようだ。
「サラっち、緊張なんか要らないから」
「そうだな。試すと言っても、審査するわけじゃない」
「そうだよ、サラっちもアリーちゃん達と一緒にやって闘いやすいか、どうか。よく見極めるんだよ!」
「はい!」
ふむ。サラが自然な表情に戻った。アリーもなかなかやるものだ。
「行こうか」
アリーが先導して下に降りる。
転層陣に待ち行列ができていたがサクサク進み、5分も待たされずに俺達は地下3階層へ飛んだ。
今日も大広間には人集りがあったが、横を抜けて進む。あっさりと分岐まで来た。
「やっぱり、アリーちゃんの勘は凄かったね。サラっちと出会えたもんね」
「はあ……」
「アリーちゃんが、左に行くって決めたんだからね!」
「それは、ありがとうございます」
おいおい。
「あはは、冗談冗談。でも、サラっちのそういう真面目なとこ好き!」
アリーに気を使っているな。慣れるまでだと思うが。まあそこまで付き合うことになるか、確定していないけれども。
今日は左ではなく右に曲がる。少し進んで左だ。
おっと、出た!
死蝙蝠!
「団体さん、ご到着!」
軽口を利いて、アリーが消える。
言った通り数十匹、漆黒の姿がひらひらと混沌の航跡を引きながら殺到してくる。
「サラ、セレナ! その場で間合いに入った敵のみ撃ち落とせ!」
「はっ!」
「ワフッ!」
苦戦はしているが、後方──俺の方へ蝙蝠を通さない。
時間がある程度掛けられると踏んで、落ち着く。
見越し照準!
【拡散閃光!】
俺の掌から、12条の線光が迸る。
無拍に針程刺し貫き、燃え上がる。
3つ外したか、多分初めの方に照準した個体ばかりだ。軌道の予測からずれるからな。発射までの時間を詰めないと……。
「嗚呼 生きとし生けるもの全ての母よ 御業に拠りて加護を授け給え頑強」
虚空から、詠唱が聞こえ、サラとセレナに金色の微粒子が降り注ぐ。
「おおぉぉぉ!」
サラ? 雄叫びか?
「ゴォォォーーー!」
セレナが返す
おっ、良い動きだ。サラ!
ブロードソードで、蝙蝠を次々撃ち落としていく。
セレナも腕の一旋で数匹叩き落とす。
ふう──
見てる場合じゃない!
照準!
瞬く間に焦点が合う。消し飛べ!
【拡散閃光!!!!】
全条命中!
燃え上がった蝙蝠が次々と墜ち、床に墜ちるまでに結晶と化す。
「っす、凄いです。ラルフ様!」
サラが嬉しそうに振り返る。
「昨日の礫もえげつなかったけどさあ、この正確さはビビるね」
「確かに」
「それは、サラとセレナの防御のお陰だ。いつもより集中できたからな」
「はい。さっきは、アリーさんに強化して貰ったんで、気合い入りました」
「ワフッ!」
セレナも同意した。
「珍しいよな、アリーが支援するなんて」
「だって、ラルちゃんに支援したって張り合いないもん。強いし、第一やられないしぃ! それよりさ、さっき気持ち悪かったよぅ。ラルちゃんの両目がバラバラにぐにょぐにょ動いてさ」
どこから見てるんだアリーは。
「多点照準してたんだ仕方ないだろう」
「何言ってるかわかんないしぃ」
むかつくが……そういう発想もあるか。
「ふっ、ふふふ。仲良いですね!」
「でしょう。長い付き合いだし」
それはともかく、やはり防御役がいるのはいいな。余裕ができれば魔術の精度が上がる。
「しかし。さっきの戦い方は悪くなかった。引き続きしまっていこう!」
「はい!」
「ワフッ!」
地下第3階層をどんどん進む。
何度も会敵しながら、魔獣の数が5、6匹以下なら全員遊撃、10匹ぐらいなら、セレナ遊撃とサラ防御、それ以上なら両者防御に徹するという形ができてきた。
無論俺が強者、多数を魔術で斃すというのは共通方針だ。
死蝙蝠だ。ぶっつけだがやってみるか。
「あれは、俺に任せてくれ!」
感知魔術の探査頻度を極限まで上げ、眼を閉じる。
【拡散閃光!!!!】
再び眼を開けた時に見たのは、蝙蝠の悉くが鮮橙色の焔を上げながら墜ちて行くところだった
「ちょっと速くない?? ラルちゃん。目を瞑ってたよね、どうやったの?」
「照準も魔術にしただけだ」
連動させて撃って居るが、そこまで言う必要もないだろう。
「それで、見て撃つ時より速いし、多く当てるって……」
横でアリーも肯いてる。
仲良いな……。
「おーい。次来たぞ!」
「スッ、スペクター!」
前方から、うねくりながら漂ってくる。
サラが珍しく、たじろいだ。
昨夜、酷い目に遭ったと言ってたからな。
「大丈夫、支援する……えっ?」
姿なき声は絶句した。
サラと対照的に、セレナが前に出たからだ。
「セレナちゃん、無謀です!」
「ガァァァッ!」
雄叫びを上げて牙を喰い締めると、床が明らむ。
「征け!」
疾駆数完歩の後、幾本もの黄金の糸を牽きつつ、暗き瓦斯に躍り掛かった。
「爪?」
右前脚の一閃は、3本の輝線を闇に描いた。
そして、斬り裂いた。
スペクターに、刃は効かないはず。しかし、輝線を忌避するように、光に侵蝕されていく。
セレナは、床、壁を蹴って再び跳躍、割れた悪霊をさらに斬り浴びせ、ついに輝散させた。
床に降り立った、我が従魔は悠々を足下までやって来た。
「よしよし。良くやったなセレナ」
しゃがんで頭を撫でる。
「ワフッ【デキタ】」
言外に嬉しさが伝わってくる。
「見せてみろ」
掌を出すと、ゆっくり右前足を乗せた。
「ふむ。異常はない……って、見えないだろ、アリー」
茶髪が俺の視線を遮っていた。
「あぁ。ごめんごめん……って爪になんか書いてある」
「ええ、本当ですか?」
女子2人に右前足を譲り、床に付いてる左前足を見る。
こっちも大丈夫のようだ。
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訂正履歴
2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




