65話 連携前夜
初対面の人にすんなり接することができるできる人は羨ましいですね。
仕事の時は気合い入れてやるんですが、プライベートはどうも……。
食事を摂ろうと外に出た。
サラ含め4人の一行だ。
残念ながらセレナは部屋で留守番だ。後で魔力をやるから、我慢してくれと言い含めてきた。
ローザの後について通りを歩く。
『店の目星は付けております。魚料理です』
サラも魚は大丈夫ということだったので、そこに向かっている。
日が暮れて町の魔石灯が灯り、穏やかな雰囲気へ変わった。少し寂れては居るが、流石は観光地だ。
ローザと並んで歩く。アリーとサラは二人で話しながら、後を付いてきてる。
「ローザ。今日はゆっくりできたか?」
「はい。ご主人様。お陰様で」
表情が柔らかだ。
「それはよかった。一緒に回れずに悪かったが、買い物以外はどこか行ったか?」
一緒に行きたいが、俺が一緒だと、何かと気を遣わせるからな。
「はい。湖畔の周りを散策致しました。ご主人様の入られた迷宮がある丘……その向こう、湖との間に林がありまして」
「ほう……」
「なかなか立派な大樹があるんですよ。湖畔の砂の白さと黒々と茂る葉の対比が見事でした」
なかなか良い笑顔だ。
「そうか。ローザも来て良かったな」
「はい。ああ、お昼にこちらで……」
ローザが、既に閉まった生花店を指した。
「ん?」
「ダンケルク夫人には、こちらで買い求めました」
ああ、例の観葉植物の鉢植えか。
夫人は俺よりも圧倒的に裕福だし、身に着ける物や食べる物だと、なかなか気に入って貰うのは困難だ。
「ああ、そうだ。ディアナちゃんに何買ってくの?」
にやっと、人の悪い笑みを浮かべるアリー。
「決めてない」
まあ、取り立てて好かれるつもりもないし。無難な物でいいだろう。
「何にしても良いけど、それより高い物をアリーちゃんに買ってね!」
「アリー!!」
「へーい!」
またしばらく歩き、大通りから右に曲がったとこでローザが止まった。
「着きました。こちらです」
間口20ヤーデン程の店だ。石造りの壁が由緒を語っている。王都にあるような高級店ではないが、上等な構えだ。
「ああ、あの。私それほど持ち合わせが……」
入ろうとしたら、サラが逡巡した。
経済状態は、当たり前だが余り良くないだろうな。
「今日は誘ったから奢るから」
「申し訳あ……ありがとうございます」
「ふふっ。礼は食べてからにしてくれ」
席についてメニューを見ると、名物の鱒料理が主体だ。
塩焼きやバター焼きはありきたりなので、塩竃にして貰った。できるまで時間は掛かるが、話もしたいし好都合だ。
主皿料理はそれで、サラダに、スープ、裏漉し芋、パンというメニュー。ワインは、ヴァルテーゼ産の白にした。
「では、乾杯」
サラダを突きながら、ワインを飲む。やや渋いが良い味だ。
サラのグラスが空いたので、注ごうとすると。
「ああ、あのう。ワインはこれぐらいにしておきます」
そう言われたので止まる。
サラが成人というのは、感知魔術で確認してある。
「あれ。ワイン嫌いなの?」
アリーは好きだものな。
「ああ、嫌いと言うわけでは無いのですが、お金も余りないので、それほど飲まないです。それに明日に差し支えないようにしないと」
「あっ、ああ。そう」
「アリーも見習わないと!」
「ローザさんは、アリーさんのお姉さんなんですよね。ちっ、ちなみにラルフ様とのご関係を聞いても良いですか?」
「主人とメイドでございます」
「ああ、お姉ちゃんに訊いても無駄よ。アリーちゃん達は、ラルちゃんと親戚。又従姉弟同士でね。ああ、又従姉弟って分かる? お母さんとラルちゃんのお父さんとが従兄妹なの。で、15年前の赤ん坊の頃から一緒に育ったけど、今ではラルちゃんとアリーちゃんは許嫁なの!」
おい!
「こっ、怖! お姉ちゃん顔がオーガになってるから。冗談、冗談よ」
「冗談というのは?」
「許嫁じゃないわ! まあ事実上そうだけど。だってねえ……私とラルちゃんとは……深い仲だし!」
「えっ? そっ、そうなんですか?」
サラの顔が、真っ赤に染まる。
「ちょ、ちょ、ちょ……キスよキス!(ボソ)」
「なんだぁ……すっ、すいません」
「思いっきり熱いヤツだけどね! ふふふ!」
当てつけた先のローザは、無表情だ。
「あれは、キスじゃないだろう」
何のことはない。
「キスよ! キス。ブチュっと唇奪っておいて!」
サラも若い女性だ。興味があるらしい。俺とアリーの顔を往復させて窺っている。
「アリーは、呪文の覚えが悪くてな。無理矢理憶えさせる魔術があるんだが……」
「それでね、キスをね! あれって正に口伝だよね」
「アリー! ご主人様に迷惑を掛けないように」
「こんな迷惑なら、嬉しいよね、ラ……だから、お姉ちゃん顔が恐いって」
「そうですかぁ。はぁぁ……ん?」
どうした? サラ。
「えっ? えーと、赤ん坊から15年とおっしゃいました?」
「ああ、俺とアリーは、15歳だ」
「えぇ? 私より年下なんですか? 私、17歳です」
「へえ。年上なんだねえ。お姉ちゃんは19歳だけど。ああ、おいしいね、これ」
アリーは事もなげに答えたが、サラは少し驚いている。
見た目、蒸かした芋を一旦裏ごしして、他の部材と混ぜたものだ。
一口食べる。
生クリームが練り込まれている。全体的には淡泊で上品な甘みがある。滑らかだが、粒胡椒が効いていて後口を爽やかにしている。
料理は、オードブルからサラダ、スープと進んだ。
「あのう。ラルフ様の魔術も剣術も、とても素晴らしいのですが。どなたに習われたのですか?」
「ああ魔術は自己流、剣術はお姉ちゃんね」
アリーめ。
「えっ? ローザさんですか?」
「そうそう」
「そうなんですか? こんな嫋やかな方が、剣術も能くされるとは……」
「私から習われたのは、最初だけで。途中から、私は稽古相手、練習台に過ぎません。今ではラルフェウス様に全く敵いませんし」
「そんなに謙遜しなくても良いじゃないか」
「ローザさんには、大変失礼ですが。ラルフ様の流麗で力強い剣筋は、高名な剣術家に師事されていたに違いないと思っていました。それでいて恐ろしい程の魔術を使えるとは、なんとも」
頭を振ってる。何か呆れられることしたか?
「まあ、ラルちゃんのデタラメ振りは、アリーちゃんが一番知ってるから」
「アリー、失礼は許しませんよ」
「ですから、仲間にして戴けるよう、明日は気張ります!」
いや、そう言う意味で試すわけではないのだが。
「お待たせ致しました。姫鱒の塩釜です。型の良い物が揚がりましたので、一尾を調理致しました」
確かに大きいな、体長は50リンチ(45cm)ぐらい有る。
塩が魚の形で固まっているのを木槌で軽く叩いて割ると、中から湯気が上がった。充満していた香ばしい匂いが立ち上る。細かく割っていって。姿が露わになると、4つに切り分けてくれた。
「戴こう」
うむ、白い身がふっくらして、淡泊だが適度に塩が効いている。しっかりと旨味もある何より鼻に抜ける香りが素晴らしい。
「おいしい」
「うん。ターセルの名物と呼ばれるだけのことはあるね」
「こんなおいしい料理、本当に久しぶりです」
「そう。お姉ちゃんの料理は、もっと美味いんだからね」
「へえぇ」
なんだか、アリーはサラを気に入ってるようだ。確かに人柄は良さそうだし、なかなか腕も立つ。あとは……。
宿へ戻り、サラとは入口で別れた。
「それでは、休ませて戴きます」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
「ラルちゃん、おやすみ!」
ローザは恐縮しながら、アリーは手を振りながら、自分たちの部屋へ行った。
「さてさて、セレナ!」
寝そべっていたセレナが首を上げる。
手招きすると、立ち上がり、こちらに歩いてきた。
【なあ、セレナ。今日、悪霊と骸骨戦士と闘ったとき。お前から漏れてきた念だが……】
込み入った事柄なので、俺も念話にする。
【ラルフ マモレナクテ クチオシイ……ニガテ オオイ】
口惜しいか。
俺も彼女なら、そう思うのかも知れない。
苦手……確かにセレナは獣系、肉を持つ内骨格系の魔獣には滅法強い。
牙と爪、強靱な四肢、それに機動が武器だが、その物理力が効かない相手への対応が必要だ。
しかし、硬い外骨格型、不定型の敵には無力と言わざるを得ない。もう一つ。折角魔力が高いのに、有効に活かせてない。
ならば──
【セレナ。お前も魔術を使えるようにしないか?】
皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2018/04/24 冒頭の誤字(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2019/06/29 誤字訂正(ID:496160 さん ありがとうございます)
2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




