62話 試練の間(2)
本日投稿2話目です。
迷宮と言えば、広間でのボス戦ですよね。ゲームだと回復の泉とかセーブポイントかあったりして。
テンション上がりますね……って,しばらくRPGやってないな。
白いローブの細身の人間が、バルログと剣を合わせている。あれは私の剣だ。
4ダパルダ(約3kg)もある、重さだけが取り柄のブロードソードを、片手で軽々と振り回しながら、剽悍に動きまわる。それでいて無駄のない動きだ。
男か女か、目深に被ったフードが顔を隠していてよく分からないが。
背は高いが、腕や脚が華奢だ。時々のぞく肌は、滑らかで白い。
少女だ!
あの私より二回りも細い腕にどれほどの力があるのか。こともなげに、バルログの渾身の一撃を受け止める。だが攻撃こそ信じ難い。恐るべき鋭い剣閃を見せている。私を苦もなく打ち倒したバルログと互角にしか見えない。
ああっ──
少女が袈裟懸けに剣を揮った時、異変は起きた。
風を孕んだフードが、頭から外れ肩に落ちる。
零れる金の髪。さらさらに輝いて。
露わになる相貌──
おと……こ? えっ、男!? 少年だったの?!
とても美しい造作だが、鋭い眼と眉が明らかに雄々しい。
驚きが大き過ぎると、声はかえって出ないものだ。
私と同年代に見える少年は喜色満面で、ときおり笑い声まで発しながら戦っている。
「ありえない」
「そうね。ありえないわ!」
はっ?
「ラルちゃん。ほら! もう、この人治したからね、いい加減にしてよ!」
「ご苦労!」
こちらを一瞥した少年の姿が、次の刹那、掻き消えた。
「えっ!!」
気付いたときには、バルログの懐深く、至近で剣を天に突き立てていた。
「ガァァーー!!」
聞き苦しい悲鳴と共に、ダンと床が鳴った。
ああ青い血を噴き出す魔人の腕だ!
その手は蛮刀を掴んだまま、墜ちてきたのだ。
斬った……の? あの魔術防御に打ち克って?!
少し目が離れた直後、凄まじい閃光と打撃音が響き渡る。
バルログが、立ち尽くしながら盛大に白煙を上げていた──数秒後、煙を引きながら倒れた。
†
剣を持って戦うのは、心地良い。
何より、こいつは魔獣のくせに、それなりに剣術ができている。
この間から身体が軽い。
剣もまるでナイフのように縦横に揮える。今まで鎖につながれていたようだ。なにか解き放たれたような錯覚に陥りそうだ。
「くくくっ、あっはっはっは……」
自然に笑いがこみ上げてくる。
『魔術にどれだけ長けていらっしゃったとしても、いずれ瑕瑾となる日がやって参ります』
そう言って、ローザはガキの俺を鍛えてくれた。健全な思考を宿らせてくれたことに感謝しないとな。
「ラルちゃん。ほら! もう、この人は治したからね、いい加減にしてよ!」
「ご苦労!」
早いな。流石はアリー!
楽しかったが、ここまでか……
床を水平に蹴り出す。
膝が地を掠めんばかりに前傾。
ヤツの影を過ぎるのを切っ掛けに、逆袈裟に一閃。
苦痛が届く前にケリを付けてやろう。
徒手の左腕に魔力を収束──
【熾電弧!】
下級魔術を改変し、魔力圧縮を高めた電撃──
網膜を灼く青白い閃光が、バルログの頭部を瞬時に焦がしていく。
頭蓋内が蒸発したのだろう、白煙を噴き出した。
痙攣させることもなく斃した。
醜悪な骸は、7色の光粒子に解かれ弾けた。
数秒後。空中に大きい魔結晶が浮かんだ。六脚魔猪並のデカさだ。それに触れた時、魔結晶は光を発し、壁に像を結んだ。
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訂正履歴
2022/01/29 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2025/11/14 誤字訂正 (日出処転子さん ありがとうございます)




