61話 試練の間(1)
新しい主要キャラクタが登場します。
拙作としては長くなったので分けます。後半は今日中に投稿します。
登場人物と用語解説を第1部分に移動しました。ご迷惑を掛けます。
「4階、4階~」
アリーが鼻歌交じりで、長く続く階段を降りていく。
俺は、セレナの脇腹辺りを撫でながら歩く。手触りがとても良い。
この前、セレナは最近一段と毛並みが良いなと褒めた。すると、1日おきに、ローザがブラシを掛けてくれてると、セレナから聞いた。家事の他にも、館周りの付き合いとかも、やっていてくれる。働き者だよなローザは。
今頃は、ゆっくり観光でもしてくれていると良いが……。
おっと。地下第4階層に着いた。
むう。階層の初期位置にある転層陣が見当たらない。やはり……まあ、主経路以外でも面白いところはあるだろうしな。
一本道を100ヤーデン余り進むと、分岐があった。アリーは右に曲がる。5分余り歩いたが。
「あらぁ……行き止まりぃぃ……って何だ、あれ?」
小走りに寄っていくので追う。
「見た目は宝箱だな。あからさまに怪しいが」
「開けてみて!」
おい。聞いてたか?
「仰せのままに」
金具に手を掛けた刹那──
ガァァアアア!!!
勝手に箱が開いた!
箱の蓋が牙が生え揃った顎門と化し、俺を食い千切らんと、箱ごと飛んで来る。
「ガァァフ!!」
一瞬早くセレナが体当たりし、擬態狸が、箱の格好のまま壁にぶち当たる。
【衝撃】
光と砕け散った。
「ラルちゃん。魔獣って、わかってた?」
「ああセレナもな」
「ふーんだ。あれ? 何か落としてる。短刀だ!」
喜んだアリーが拾いに行った。
「はい! 魔結晶。こっちはアリーちゃんが貰って良い?」
反射的に発動した鑑定魔法が、ミスリル・ダガーと伝えてくる。
「アリーが使うならいいが」
「使う、アリーちゃんが使うの!」
ん?
「ちょっと待て、1回見せてみろ」
受け取ったダガーをしげしげと眺める。
「柄に凹みが有るな」
「ああ、あるねぇ。ちょっと持ちにくそう」
「ここ魔石を入れるのだろう。魔剣になるのか……」
「へぇぇ。ああ……返さないからね!」
俺から取り返して、ぎゅっと胸元に抱く。取上げたりしないって!
来た道を戻り、分岐まで辿り着いた。
「変だな……」
「何が?」
「さっきの以外、この階層で魔獣が出てこない」
「うーーむ」
右に曲がって先に進む。
その先は、ずーっと真っ直ぐだが、奥の方が明るくなっている。やや早足で進むと、奥から、ガチガチと甲高い打撃音が聞こえてくる。
「ラルちゃん!」
アリーが、少し顔を引き攣らせて俺を見る。
なかなかデカい魔獣の反応だからな。
「ああ、戦闘だな。セレナ、俺が良いと言うまで手を出すな!」
「ワフッ!」
駆け足で通路を進むと、差し渡し20ヤーデン程の丸い広間に出た。
これは……大物だ。
バルログ──
牛頭の巨人が濃灰の巨体を躍らせて、広間中央で大刀を打ち付けている。
相手の戦士も、2ヤーデンを越す身体に兜と板金鎧を着けている。
一騎討ちか。
戦士は、ブロードソードを揮いながら、戦っている。鎧の隙間から見えている筋肉の付き方からして、ドワーフらしい。剣筋も通っているし、なかなかの膂力、手練れだ。
手を貸してやりたいところだが。他パーティーの戦闘は、協力要請がない限り、助太刀しないのが慣例だ。やられそうになったら、その限りではないが。
2合、3合と視たが、より有効打を入れているのは戦士だ。大したものだが、力でも防御力でもバルログが上回る。
身体に刃が当たっても、対刃防御魔術が作用しているのか、さほど傷つかない。
逆に、戦士が盾できちんと防御しても、剣圧と衝撃が身体に届いている。
ゆえに、この拮抗状態は長く続かないと見た。
数分後、やはり戦士は次第に壁際へと追い詰められていく。
バルログの体重がよく乗った水平切りの一閃で、戦士がぶっ飛ばされた。
さらに追撃──
まずい!
【衝撃】
バルログと、戦士の間に着弾した衝撃波は床石を粉々に砕き、1ヤーデンの穴を穿った。結果的に、ヤツと戦士を遮った格好になったが、俺には警告の意図はなかった。
追撃する気が緩かったのか。
ともかくも、大きく開いた鼻腔から湯気を上げながら、バルログはこちらを振り返った。
次の挑戦者を認めたようだ、のっしのっしとこちらに向かってくる。
「セレナ、そいつを下がらせろ。後は……」
「任せて!」
虚空から声がした。アリーも非常時は良く気が回る。
さて。こっちはこっちのやるべきことをしないとな。
大きく振り降ろした蛮刀が、空を斬って唸りを上げる。刃渡りがアリーの身長ぐらい、刀身だけで10ダパルダ(7.3kg)ぐらい有りそうだ
当たったら……痛そうだな。
ふぅと息を吐き、軽く吸って止める。下腹が熱くなり、躯が活性化していく。
さっきの戦士はこれと撃ち合っていたのか、やるな。
そう思ったとき、目の端にブロードソードが眼に入った。
†
「ううっ……」
「あっ、気が付いた?」
慈母のように見える少女が、私に手を翳して、金色の雨を降らしている。
「じっとしてて。もうすぐで終わるわ」
「うう。バルログは?」
「ああ、羽根つき牛頭巨人のことね。ラルちゃんが相手してる」
ラルちゃん?
「はい、終わり! 半分ぐらい回復できてるから。あとは自分のポーションでね。持ってるでしょ!?」
私が肯くと、凛々しい美少女は微笑んだ。
こうしていると、私より若くも見える。
「じゃあね」
囁いて数歩離れると、すっと空気へ溶け込むように消えていった。
「あっ、あのう」
呼びかけてみたが、返事はなかった。
あれは……幻? そんなわけは……。
そうだ! あの少女が言った通り、私は回復している。
吹っ飛ばされて、戦闘不能の寸前までいって失神したはずなのに。
やはり、これは夢じゃない。現実だ!
ところで、ここは?
ああ、広間に続く通路か。
ゆっくり起き上がる。
すると剣を打ち合う音が聞こえてきた。
頭では、ここを離れた方が良いと浮かんでいるが、我知らず足は広間へ向かっていた。
大きな狼……こちらを振り返った。
はっとなって、私は腰を探る。剣を持って居ないことに気付いた。
背筋を寒気が駆け上がるが、なぜか狼は向こう……広間の方を向いた。
「ああ、大丈夫。セレナは従魔よ。あなたをあそこまで運んだのだからね」
一瞬人影が見え、声がした。
「ああ。あなたは、ありがとうございます」
「くくくっ、あっはっはっは……」
嗤い声だ。共鳴して分かりづらいが、多分奥の広間からだ。
私は数歩前に出て、広間の縁まで来た。
「なっ!」
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訂正履歴
2018/04/24 ミミックの記載ミス(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2019/08/27 誤字訂正
2020/03/20 誤字訂正(ID:881838 様 ありがとうございます




