5話 夜泣きを止めさせる
序章まとめ投稿5話目です。
さらに1年後。
「ビェェエエエエエエエ……」
ううむ……
ああ……なんだ、この声。
「ビィャャャャヤヤヤアアア……」
ああ……そうだ。昨日からアリーと一緒の部屋で寝てるんだった。泣いてるのか。
部屋は真っ暗だけど、だんだんと目が覚めてきた。
おかあさんか、マルタさん、助けて!
「ウェェッ、ウェェッ、ウァァアアン……」
まいった。
泣き声の中で起き上がると、アリーのベッドに行く。
僕のと違って、柵が填まっている。その間から腕を伸ばして肩を揺する。
「ンッンッ…………」
おおっ、泣き止んだ。
しかし。
「ウェェェェ、ウァァアン……」
だめか。
【何で泣いてるの? おしっこ?】
違うみたいだ。うーむ。
「アリー、アリー。こわくないよ。僕もいるよー」
だめだ。
頭をなでたり、ゆすったりしたが、全く泣き止まない。
階段降りて下に行くのは、流石に恐い。
おかあさんも一人で降りちゃ駄目って言ってた。
「ウワヮウェワッァアアア……」
ううーむ……そうだ、あれだ!
【だまって!】
「…………」
おっ! 効いたかな?!
「ウェェェッェエエエエエエ!」
うううん。いけたと思ったのに。ああ、あれなら。
【ねむれ!!】
「ビエエエエエェェ、ェェ、ェッ…ェ……スゥ、スゥ……」
「やっ……」
やったぁ!
危ない危ない。大声出しそうだった。
アリーが、眠って静かになった。
黙れっていうより、眠れの方がよかったね。
ん? 誰か来た。
あわてて、自分のベッドに戻る。
「アリー……? 泣いてる気がしたのだけど?」
明るくなったので、毛布の隙間から覗いてみるとローザ姉だ。
「良かった。ラルフェウス様も眠っていらっしゃるようね。アリーも2歳になって夜泣きしなくなったから、一緒に眠って戴いたのに」
ローザ姉がこっちにやってきた。
「ラルフェウス様。おやすみなさい」
声を掛けられて、ぎゅっと目を瞑る。
おでこが温かい?
フフフと笑い声が聞こえた
†
次の日になった。良いお天気だ。
家族揃って村外れの丘の上にある教会に向かっている。
教会は行ったことあるけど、その時は馬車に乗ってた。だけど今日は歩きだ。すぐ麓まで馬車で来たけれど。
おとうさんが、今日は歩いて登るぞぅって言ったからだ。
一番良い服を着て、緩やかな坂道を小道を子供3人で歩いている。大人3人は後ろから付いてくる。ローザ姉は平気なようだけど、僕とアリーは、はあはあ息をしてる。
「おねえちゃん。疲れた」
「もうちょっと、がんばって、アリー。ラルフェウス様は大丈夫ですか?」
「うん!」
「まだぁ? あかあさんに抱っこして貰う」
アリーが、道が曲がるところで音をあげ始めた。
「そんなこと言わないの。ほら、教会の屋根が見えたわよ」
「ほんとだ」
すぐ近くに見えた。
「ええ、ラルちゃん。どこどこ?」
「その木と木の間の白いの」
指差した先に尖った塔が見える。
「ほんとだ。もうちょっとだ」
「一緒に行こうよ!」
「うん!」
アリーも元気が出たようだ。
それから数分歩くと、塔だけでなく屋根がしっかり見えてきた。
「また見えた。おっきーね、ラルちゃん」
「ああ」
確かにうちの館のより大分高い。
「ん? ラルちゃん。眠たいの?」
「うーん、ちょっとね」
数歩後ろにローザ姉もいるから、アリーが夜泣いて起こされたとは言わない。
もし言ったら、一昨日までと同じように、アリーは別の部屋で寝かされることになるだろう。僕と一緒の部屋で寝られるようになって、凄く喜んでたものなあ、アリー。
なんか、ローザ姉が僕を見てる気がする。
「ほら! あの高いところに、ピカピカ光ってるのがあるでしょ」
「うん!」
「あれが、お昼とかに鳴る教会の鐘だよ」
「カネ?」
「カーン、カーンって音がするやつ」
「ああ! 知ってる、アリーちゃん知ってるよ! お姉ちゃんだもん」
「アリー。自分にちゃんは付けないの!」
「そっ、だった!」
「ローザ姉、いつも行ってる学校って、あれ?」
緩やかな丘を登って、いくつかの建物と広場みたいところが見えてきた。
「はい。ラルフェウス様。シュテルン村の基礎学校ですよ」
ローザ姉は、6歳になったから、今年からあそこに通ってるようだ。
「学校?」
「そうよ、アリー」
「アリーちゃ……アリーも通うの?」
「もっと、大きくなったらねえ」
「大きくなる! ラルちゃんとお姉ちゃんと一緒に通う!」
「そうねえ。私も楽しみだわ」
僕やアリーは、ついこの前2歳になったばかりだから、まだまだ先のことだな。
「そっか。学校じゃない……今日は教会に行くのよね……?」
「ああ、アリー。今日は洗礼して貰うんだよ」
「洗礼? って何?」
そうだよな。
アリーは、まだちっちゃいから分からないよな。
僕は分かるけど。
「わたしはアリーですって、神様に名前を覚えて貰うんだよ」
光神教の信者になるって言っても、分からないだろうしなあ。
「ふーん。そうなの? じゃあ、神様は、アリーのこと知らないの? お姉ちゃん」
おっと、そう来たか。
「ふふふ。そうねえ。可愛い男と女の赤ちゃんが居るってことはご存じよ」
「アリーちゃんは、もう赤ちゃんじゃないもん。おねえちゃんだもん」
2歳の誕生日の時に、僕のおかあさんからアリーはラルフのお姉さんと言われたので、その気になっているのだ。マルタさんは、滅相もないって言ってたけど。
「さっき足が疲れたって言ってたけどね」
「疲れてないもん。おねえちゃんだもん。ふう。もうちょっと」
「そうね。頭から水を掛けられても、泣いちゃ駄目よ」
「泣かないもん!」
石畳の広い道に出た。
「着いたぁ。やっぱ、おっきい。とんがりがお空に付きそう」
「うん」
白い教会を見ていると、おとうさん達も登ってきた。
「久しぶりに、自分で登ったけどちょっと疲れましたわ。あなた」
「そうか。ははは。子供3人は、よく頑張ったな」
その後ろで、マルタさんもふうっと息を吐いている。
「さあ、行こう! そろそろ約束の時間だ」
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訂正履歴
2021/11/06 誤字訂正(ID:578912さん ありがとうございます)
2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)