57話 迷宮へ行こう!
よく考えたら、青年期は長くなりそうなので、章を分けることにしました。
44話から56話までは青年期I、以降は青年期IIにします。
この57話から迷宮編を始めます。よろしくお願いします。
王都に来てから、1ヶ月が過ぎた。
この館の生活も、学園生活も慣れてきた。
薄い繋がりだけど、3人以外に知り合い以上友達未満の級友も増えてきた。
寄宿舎の締め付けは、結構厳しいとのことで、冬休みになるまでは、行く先が王立図書館以外は、外出もままならないらしい。
冒険者ギルドの方も、大砂虫討伐の功績が評価されて、またギルドランクが昇格した。初級者ランク1に上がり、収入の方もまあまあ安定してきた。ああ、女王砂虫のセリはまだらしく、代金は貰ってないが。
それでも昇格のための貢献……ざっくり言えば、ギルドの売上に貢献した金額としては、十分中級者に上がれるが、討伐以外の依頼で貢献しないといけない縛りが果たせていない。
鑑定とか地味な仕事もあるらしいが報酬が安い。初級者が受けられる範囲で、高額な依頼、例えば護衛とかはある程度の拘束期間があるので、今の所は手が出ない。ギルマスは早く早くと急かすが、冬休みにまとめてこなす予定だ。
ちなみにアリーは、俺が学校に行っている間に、この辺りの依頼をこなしているようで、アリーちゃんの方が、先に中級者になるから、そのときは先輩と呼び給えとか言っている。
さて、3日後の月曜日──世の中は平日だが、学園は聖ユリアーナの生誕日で休みだ。
聖ユリアーナは二百年程前……どうでもいい話だった。やめておこう。
とにかく月曜日には教会では催し物があるようで、神職候補は手伝いがあるから授業はない。お陰で神学生も明日から3連休だ。
1階の居間で寛ぎつつ、どう狩りをすべきか思い巡らせていると、我が家の主外乱源たるアリーが寄ってきた。
「ラルちゃん!」
1度で反応しないと数倍うるさい。
「ん?」
「ターセルの迷宮って知ってる?」
「知ってる。王宮から一番近い迷宮だっけか」
ギルドの掲示板の古ぼけた宣伝に書いてあった。
「そうそう。東門から馬車で2時間。週末に行こうよ!」
「しかし、あそこは見つかってから20年以上経ってる。いまさら探検すべきところなんて……」
「うん。ないと思うけどさ。それが良いんじゃない」
「なんだと?」
「アリーちゃん達、まだ初級者ランク1なんだしさあ。それに月曜日は祝日だし」
「まあな。じゃあ、行こうかなあ」
「あら、どちらへ行かれますの?」
茶器が乗ったお盆をもって、ローザが居間に入ってきた
俺の前に跪くと、ポットから紅の液を注ぐ。馨しい湯気が揚がる。
「王都から南東に24ダーデン行ったところに、ターセルって宿場町があるんだけど。そこへ行こうって、ラルちゃんと」
「小さい湖があると聞きましたが」
「何、知ってるのお姉ちゃん?」
「知っているのは、それぐらいです」
「みんなで行くか」
「私もですか? 私は狩りには、参加致しませんが」
「ああ。もちろん」
王都への転居の準備やら、新しい館を使えるようにしたので、ローザには、結構負担を掛けているからな。少しでも骨休めになれば良い。
「ラルフェウス様が、よろしければ」
「じゃあ、決まりだね」
†
翌朝、俺達は駅馬車に飛び乗り、10時頃ターセル村に着いた。
街道の周りに店と宿屋がいくつかあるが、そこを外れると長閑な農村だ。
街の真ん中に広場があって、そこに迷宮と看板が出ている。
「では、私は。こちらで待って居ります」
「うん。子爵夫人へのお土産を頼むな」
「それは、よろしいですが……ディアナ様への贈り物は、ラルフェウス様ご自身でお買い求め下さい」
そうだな、必要か。
「うーん」
「アリーちゃんが、選んで上げよっか」
「アリー!」
ローザが声を荒らげた。
「わかったわよ」
「じゃあ、行ってくる」
「お気を付けて」
看板通り歩いて行くと、街を外れた。まあ、街並みは街道沿いにしかないし。
「あの丘みたいね」
柵が巡らされている小さい丘に向けて、いくつか露店が出ている。
肉串のタレが焦げる香ばしい匂いが漂ってくる。
なんていうか。完全に観光地と化しているな。しかも、そこはかとなく寂れかけてる。
「おいしそう! 買ってくる」
アリーが走って行った。
おい。馬車の中で食べたばかりだろう。が、まあ、好都合だ。
「ローザ。これを持って居てくれ」
「魔導鞄……中に大事な物資が入っていますのに、私が持つのですか?」
「うん。大丈夫。荷物をたくさん運ぶ魔術が使えるようになったし」
「そうなのですね」
収納魔術ができたときは、喜んだし、一般に広めてはとも思ったが、
数分後、気が付いた……これって俺しか使わないんじゃね?
俺には負担にならないけど。
なんか、じわじわっと、少しずつ少しずつ、魔力を持っていかれるのって、余り気分の良いことじゃない。あれだ、毒沼で微損傷を延々受けつづけてる感じ!
「わかりました」
「うむ。荷物の半分は、ここに入っている。ああ、悪いが。その鞄は親父さんと爺様の手前、ローザに譲ることはできないが。自由に使って貰って構わない。つまり貸与ということで」
収納魔術は、俺しか使わない欠陥品かも知れないが。魔導鞄をローザに回せるのは良いことだな。
鞄を渡す。
「ありがとうございます……でも」
「ん?」
「そのような区別は不要ですよ──私は、ラルフェウス様のメイドなのですから」
「あっ、ああ……」
ローザから目が離せない。
「たっだいまぁあ! ほぅら、ラルちゃん、おいしそうでしょう。あげないからね。アリーちゃんの小遣いで買ったし」
オーク肉の角切りを焙った串を見せつける。
それを奪い取って食べるなら、ここまで痩せてない……はずだ。
お陰で、変な力場から解放されたけど。
「よく朝っぱら食えるよな」
「肉と甘い物は別腹よ! 食べないと、この魅惑の体型が維持できないしって、何か顔紅いよ、ラルちゃん。ほれほれ」
むう。顔が紅いのはアリーとか関係ない。
「痛ぁ」
アリーは、調子に乗ってローブの上から自分の胸を持ち上げていたが。
「殴らなくても良いじゃない、お姉ちゃん」
自分の頭を撫でる。
「ラルフェウス様の従者が、はしたないと言われたらどうするのです」
「ううぅぅん。ラルちゃんの所為だからねえ」
何がだ?
「では私は宿を取り、お帰りをお待ちしております」
「やっぱり、お姉ちゃんも来れば良いのに」
「いや、少しゆっくりと過ごしてくれ」
ローザは、狩りには参加しない。今回だけではなくて、メイド業務優先なのだそうだ。
「ローザ、特に宿屋に拘りはないからな。よろしく頼む。では行ってくる」
「はい。お気を付けて」
俺は踵を返す。
「じゃあ。おねえちゃん、行ってきます」
アリーは、やや残念そうに告げて付いて来た。
少し離れてから、俺と腕を絡めてきた。
看板にしたがって辻を曲がる。
「迷宮の入り口だ」
「あっ本当だ! って何か誤魔化してない?」
短い人の列ができていた。
柵が凹んだところに関がある。天幕が張ってあり、そこに向けて、ざっと10人くらいが並んでいる。
近付いていくと、柵の角に立て札が見える。
御定書。
この迷宮は、内務大臣閣下の命により、ミストリア冒険者ギルド、王都東支部が管理する。警備、整備、万一の探索に備え、費用として入場料を申し受ける。
入場料は、1名5スリング、2名8スリング、3名以上6名までのパーティー10スリング……。推奨冒険者ランク、初級者ランク2以上。
聞いていた通りだ。
要するに、ここは観光迷宮だということ。
大して良いお宝はない代わりに、さほど強い魔獣も居ないし、死ぬ心配も少ない。ある程度、冒険者ギルドの手が入っている。まあ、王都から2時間だしな。
うーーむ。(拙作としては)長くなったので一旦区切ります。今日中にもう1話投稿します。
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訂正履歴
2018/03/26 初心者→初級者(Knight2Kさん ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




