56話 お見合い
お見合い……したことないんですけど。と言うか、今時世の中でもあるのかな?どうなんだろう。
翌日。
初めての授業も大過なく終わり、ダンケルク子爵の館へ伺った。昼時に行くのはどうかと思うが、先様のご指定だ。仕方ない。
「えっ、何? ラルちゃん。お昼の料理は何かなあ。楽しみだね」
「そうだな」
アリーが、厚かましく同行しないのであれば、もっと良いのだが。
うちの館から、さらなる高級住宅街を10分程歩き、子爵様の館に辿り着いた。門まで行くと、マーサさんが出迎えてくれた。
「こんにちは」
「ラルフェウス様、アリーさん、ようこそ。奥様がお待ちですよ」
秋になっても、青々とした芝が綺麗な庭園を抜けていく。庭木もしっかりと刈り込んであるので気分が良い。
「そだ! マーサさん、マーサさん。教えてくれた、煮込み料理がとてもうまくいったって、お姉ちゃんが伝えてくれって。ありがとうございます!」
この通り言えと、言われたのだろう。
「ああ、昨夜戴きました。おいしかったです。ありがとうございます」
慌てて俺も礼を言う。
「おいしかったのであれば、ローザさんが丁寧にアクを取って、じっくり仕上げたからですよ。あれはそういう料理なのです」
「ああぁ。お姉ちゃんは執念深いから」
おいおい、けなすんじゃない。
華やかな能力を持ちながらも、黙々と粘り強く仕事を仕上げるのがローザの美点なんだぞ。
「そうなの。お料理には大事なことだわ。でもね、それは執念じゃなくて、愛情って言うのよ」
「愛情……ねぇ」
なんで俺の方を向くんだ? アリー。
それにしてもマーサさん。良いこと言うなあ。
館に入り、美しく装飾された廊下を歩いて行く。豪華なのだが、品が良くて感じが良い。
「ラルフェウス様、こちらです」
そんな会話をしている間に、夫人がいらっしゃる部屋に着いた。
奥様失礼しますと言って、マーサさんが扉を開けた。
ああ……。
「こんにちは。ドロテア夫人」
ソファセットの端に座っていたが、俺を見てにこやかに微笑んだ。
「よく来てくれました。ラルフさん。今日が来るのを楽しみにしていましたよ」
大袈裟だな。
1週間前に会ったばっかりだろうと思いつつ、差し出された手の甲にキスした。
「アリーさんも良く来てくれました」
「こんにちは。奥様」
「それでこちらが、この前言っていた姪です。ご挨拶なさい」
白いドレスを来た少女が立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。
おっ。なかなか可愛らしい子だな。金髪が綺羅綺羅と美しい。
「でかい(ぼそっ)」
横でアリー呟いた。
「はい、伯母様。ラルフェウス様、ディアナ・トルーエンと申します」
立ち上がってスカートをつまみ、愛らしく挨拶してくれた。
おおぅ。確かに。
見下ろす形になって、呟きの意味を実感した。
襟刳りが大きいのは、狙いなのかな……。
「初めまして。ディアナ様」
胸に手を当て会釈する。
顔は幼い感じだが、それ以外は大人相当だ。
眼が大きく、にこっと笑った皓い歯が印象的だ。
むう。誰かに似てる! 誰だっけ?
そう思いながら、ソファに腰掛ける。
「この子は、亡き主人の一番下の弟トルーエン男爵の長女なのよ」
「……はっ、はい。そうです」
「だから姪と言っても、年齢的には孫のようなものでね。とても可愛がっているの。だから、私が気に入ったラルフさんに会わせたくてねえ」
ああ、夫人の魂胆は、アリーが言っていた通りかも知れない。
俺を、この子の婿にして、男爵家の跡継ぎにさせようってことだ。とはいえ、そう簡単に、この娘がその気にはならないだろうし。
「ディアナさん。ラルフさんはねえ、今年修学院に入学された、とても優秀な……ディアナさん、ディアナさん?」
ん? 変な感じだ。
俺の顔をじぃーと見ていて、反応がない。
「はっ、ああ。済みません、伯母様」
どうしたんだ?
「そっ、それで、こちらは?」
「アリシアです。ラルちゃんの……」
俺が睨んでいるのに気が付いたらしい。
「……ラルちゃんの又従姉です」
「はとこ……?」
「ああ、父と彼女の母親が従兄妹なんです」
「はあ……。伯母さまの御館に……もしかして、ご一緒にお住まいとか?」
「はい。スワレス伯爵領から、ラルちゃんに付いて来ました。残念ながら、姉も居ますけど……」
残念って……。
気の所為か、アリーとディアナさん、睨み合っているような。
「アリーさんのお姉さん。と言うことは、御館には何人でお住まいですか?」
「3人と1頭ですね」
「1頭?」
「ええ。従魔の魔狼が居ます」
「そうなんですね。是非見てみたいです。従魔……と言うことは、ラル、ラルフェウス様は、魔術師なのですか?」
身を乗り出した。
「はい」
「そうなのですね」
「魔術師が、どうかしましたか?」
「ああ、いえ。何でもないです」
はにかんだ。
この表情。そうか……ふふっ。
「どうかされましたか?」
「いや、デイアナ様は、誰かに似てると思ったのですが。似ているのは妹でした!」
「はっ、えっ?」
「あぁぁ。そう言えば少し似てるね、ソフィーちゃんに」
「あのう。私ですか?」
「あっああ……失礼。目の感じが……ね」
「そうそう」
ディアナさんの眉がピクッと動いた。
「あのう。そのソフィーさんは、何歳でいらっしゃいますか?」
あっ! まずい。
「いや、そのう……」
「7歳だよね」
アリー、サクッとばらすなよ。
「やはり……いつも童顔だと言われます」
ディアナさんが項垂れる。
「そうかなあ。愛らしくて良いと思うけど」
ソフィーに似てるし。
「本当ですか?」
がばっと顔が上がり、眼がキラキラっと輝いた。
ディアナさんは、眼を閉じると、一度大きく肯いた。
「あの。ラル……」
「ラルフで結構です。ディアナ様」
「では、私はディアナとだけお呼び下さい、私の方が年下なのですから」
「はあ……では、ディアナ」
夫人を窺うが、にこやかなままだ。
「ラルフ様。もっとお近づきになりたいです」
はっ?
やばい方向へ行っていないか?
「ぇぇぇえええ!」
うるさいな、アリー。
「王都で、友人を増やしていくのは嬉しいことです。喜んで」
「ほら言った通りになった」
老婦人が、嬉しそうに眼を細める。
晴れやかな良い笑顔だ。
隣のアリーはしらっとしているが。
「さてさて、マーサさん。お腹が空いたわ」
「ご用意できております。お昼になさって下さい
食堂に移って、たっぷり時間を掛けてお昼を戴き、子爵様の館を出た時には3時を回っていた。
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訂正履歴
2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2022/10/07 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)




