55話 初給料!
初給料! ああ、遠い記憶の彼方ですねえ。
何に使ったっけなあ……確か。ローザの言うようなことをしたような。
砂丘から王都城壁まで戻って来ると、とっぷりと日は暮れ17時を回っていた。だが、夕食まで間があるのでギルドに寄る。
サーシャさんじゃない女性が、受付に座っていたので、素通りして買い取り係へ行く。
支払と査定の整理券を貰って長椅子に座ると、すぐ呼ばれた、支払窓口へ行く。
昨日の預かり証を、職員に渡し、ギルドカードを提示する。
「ラングレン様ですね。支払金を準備しますので、そのままお待ち下さい」
一旦奥に引っ込み、数分して戻ってきた。
「ラングレン様。買い取り金の25ミスト75スリング16メニーです。王都収入税5分とギルド手数料の1割は予め引かれていますので。ご理解の上お受け取り下さい」
小金貨25枚、大銀貨7枚、銀貨5枚、大銅貨1枚、銅貨6枚を渡される。
2ヶ月半分の家賃になった。
「わぁぁ、すっごいねえ」
後で、アリーが跳ね回っている。
確かに結構な額だ。さくさくっと魔導鞄に入れる。
「じゃあ、どうも」
待合の長椅子に戻ると、2件待ち状態まで進んでいた。
10分余り経ったとき。
幕の表示が、持ってる整理券の番号に変わり。
「次の次の方、どうぞ」
聞き覚えのある野太い声がした。
呼ばれた小間に行くと、やはりカステルさんが仁王立ちしていた。
「なんだ、ラルフ達か。ああ、指名依頼の査定はまとめてが原則だぞ」
「ええ、依頼内容が終わってると思いますので」
カステルさんは、呆れたと言う表情で、2、3度首を振った。
「少し待ってろ」
そう言い残して、小間を出て行った。1分程して戻ってきた。
「ああ、悪い。ここへ出してくれ!」
一番デカい皿を、式台の上に置いた。
魔導鞄から、黄色い魔結晶を出していく。
5個10個と出して行くにしたがって、嘘だろとか、マジか、とかカステルさんが唸り始めた。
あと少しで20個と言うところで、また忙しない足音が響いた。
「来たか……ああ第3小間です。所長!!」
「ここに居たか。ラルフ! 本当に……うぉ!!」
式台に身を乗り出す。
「1個1個でかいが……2,4,6,8……15じゃないか!」
「ああ、いや、まだ出してないだけです」
「そっ、そうか」
それから15個出してだして、30個になった。
「おお確かに、依頼は完了……」
「最後に……」
魔導鞄に両手を突っ込む。
「うんんっ……引っかかるな、アリー」
「なに?」
「鞄の端を引っ張ってくれ」
「はっ? なんだと、ちょっと待て」
2人がかりで魔導鞄の口が伸ばしながら、最後の魔結晶が出てきた。
「なっ、なんだ、これ! 40リンチはあるぞ。それに金色だと!」
「俺も、永年やってるが……こんな結晶初めて見たぜ。だが……」
「だが、なんだ?」
「これも大砂虫には違いない」
「そうなのか? デカい大砂虫……っていやあ……まっ、まさか女王?!」
「はい」
「いや、はいって!」
答えたら、ギルマスに突っ込まれた。
「ええ、鑑定魔術でそう出ましたけど」
「おお、そうなのか……。いや、ちょっと待て。お前そっちの魔術もできるのか」
まずかった。
「ええ、まあ。下級ですが……」
2人のおっさんに溜息と共に首を振られた。
「女王なんてここ数十年、出て来てねえ。おそらく売れねえ」
はっ?
「ああ、ラルフ。悪いがすぐには換金できねえ。月末の競りまで預からせてくれ」
「競り?」
「ああ、入れ札のことだ」
「いや意味は、知ってますが」
そうか。高額の魔結晶は競りに掛けられるのか。
「じゃあ、残りは?」
「そっちはギルドで買い取れる」
「ああ、査定は任せてくれ……いやあ。目の保養になった。ありがとよ」
「まさかと思うが、他に変わった結晶を持ってねえだろな?」
「えっ? ああ……」
「持ってるな、これは。まあ売る気になったら、教えてくれ」
「わかりました」
「それでだ、めでたく。指名依頼も完了したから。また昇格だ! 初級者ランク1にする」
「昇格だって、ラルちゃん」
「だが、1日で3段階昇格は、審議会がうるさいんでな……それで依頼期間を10日間にしたんだが。1日はな、少し待ってくれ」
いや、前から狩ってるの知ってるだろう
「構いませんが」
「忘れないでよ、ギルマス!」
「ああ、しかしだ。その後は、中級者は厳しいぞ。討伐だけでは3年以上実務経験が要る」
「3年?」
「ああ、普通は警備、護送とか地味な討伐以外の依頼をこなして行く必要がある。まあ鑑定魔法が使えるなら、やりようはあるな。ということだ、こんなところで、うだうだせずに、とっとと中級者になれ!」
「はあ」
「アリーちゃんもがんばるよ!」
カステルさんの、髭面に少しは慣れて来たようだ。
「あっ、ああ……」
†
館に帰った。
夕食は、アリーと一緒に食べる。
ローザも一緒に食べようと言っているのが、頑として私はメイドですからと取り合わない。
1階の執務室に、ローザを呼びつける。
「ラルフェウス様」
「ああ、ローザ。冒険者ギルドで、収入が有った。資金に繰り入れてくれ」
魔導鞄に手を突っ込み、袋を出す。
「はい。お預かり致します」
「25ミスト70スリングあるはずだ」
「えっ、そんなにですか? 失礼しました。確認致します」
ローザが袋を開けて、硬貨を並べ始めた。
数えてる。
「確かに。25ミスト70スリングあります。これまでの資金19ミスト68スリング77メニーと合わせて45ミスト38スリング77メニーです」
「ああ、一息吐いたな。近日、他の報償金も入る予定だ」
「それはようございました……では、お父様、お母様に何かお贈りするというのはいかがでしょう」
うん。それは考えてなかった。
「そうだな。次の入金時に考えよう」
「あのう」
「何だ、ローザ?」
「大変失礼ではありますが、ラルフェウス様の所持金はいかほどで?」
ん?
「ああ、多分7スリング位じゃないか?」
ああと零すと、ローザは額に手を当てた。
「ほとんど、私にお預けではないですか!」
なんか怒っている。
「ああ、あまり使うことがないし!」
「そうは参りません! しっかり貴族として必要な額をお持ち下さい!」
必要な額ねえ……。
今日は、よく人に呆れられる日だ。
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訂正履歴
2019/04/04 数値間違い 55ミスト38スリング→45ミスト38スリング ID1389231さん ありがとうございます。
2019/06/29 誤字訂正 (ID:496160さん ありがとうございます。)
2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




