54話 女王陛下!
良いですよね、女王様。いやそっちの趣味はないですが。
城門を出て砂丘へ向かう。
着いたときには、2時半になっていた。ギルドで大分手間取ったからな。
「ねえ、ラルちゃん指名依頼って、いくら貰えるの?」
歩きながらアリーが訊いてくる。
「ん? 聞いてないけど。確か……特定の成功報酬提示がない場合は、2割増しだな」
「うわぁ。ギルドせこい。それであと何頭?」
「あと? 持ってる魔結晶は、19頭分だな」
本当は27頭分あるが、そう言ってしまうと別の所に行こうって、絶対ゴネるからな。
「うわっ。惜しい……どうでも良いけど、さっきの所、左で砂丘に行く獣道じゃないの?」
ちっ。もう気が付いたか。
「今日はもう少し行った所で、砂漠牛を借りる」
「カーメルンって、馬みたいな」
まあ、脚は細長いし、首が長いからな。
「……って、今日は砂丘の奥の方まで行くってこと?」
「ああ」
「えぇーー。なんでよ! いつものとこで、1頭狩れば終わりじゃん!」
「昨日までと違って、今日は依頼だ。しばらく大砂虫が出て来ることがないぐらいにしないとなあ」
「真面目過ぎだよ!!」
「行きたくないなら、帰っていいぞ」
「それは嫌! 一緒に行くの!」
やっぱりそう言うか。
しばらく街道を歩くと、小屋と看板が見えてきた。貸砂漠牛と書いてある。
小屋の扉を叩くと、年配男性が出てきた。
「いらっしゃい」
「ああ、1頭貸して欲しいんですが。ああ、あと横をこいつが走っても大丈夫ですか?」
「ああ、でかい狼ですねぇ。まあ襲わなきゃ大丈夫ですよ。砂漠牛は肝が太いからね。貸出期間は、半日からになりますが」
「半日で、お願いします。料金は?」
「2スリングです」
まあ、そんなものか。
「じゃあ、これで」
「ねえ、ねえ。おっちゃん」
おっちゃんって、アリー……。
「なっ、なんでしょう?」
「なんで。砂漠牛は大砂虫に襲われないんですか?」
「ああ。大砂虫は匂いに敏感なんですよ。砂漠牛は臭いので避けられると聞いています」
「げっ! 臭いの?」
「うーん、私ら人族は余り感じないですがけど一度ホビットが鼻が曲がるって言ってましたね。ただ唾は思いっきり臭いので、掛けられないように気を付けて下さい」
厩舎に来て、砂漠牛に対面する。
脚は折って腹這いになってるので、首筋を撫でてやる。へえ、短くて固い毛にびっしり覆われてるんだなあ。
「やっぱり牛には見えないよ」
「ああ蹄が2つに割れてるからな、牛だそうだ」
「へえぇぇ。でも、そこで決めるの間違ってない?」
「学者に、とやかく言っても始まらないぞ」
その後、乗り方と降り方、そして歩かせ方を10分程習って、俺とアリーを乗せ砂丘に出た。セレナは走って付いてくる。
晩秋だが、砂丘は照り返しが厳しく、結構暑い。まあ日が暮れると、結構寒いらしいが。
「牛っていうから、遅いのかと思ってたけど、結構速いね。揺れるけど」
拘ってるな。
「うーん。時速7ダーデン位で出てる」
直径20ダーデンくらいある砂丘も1時間位で真ん中に近付いた。
見つけた!
目で見えるわけではなく、地下20ヤーデンに蜷局を巻いて潜ってるので感知しているのだが。
全長30ヤーデン、一番太い所で2.5ヤーデン程ある。
邪魔だな、この砂。
全力で劫火を撃てば、なんとかなりそうだが。周辺に及ぼす被害が、どの程度か見積もれない。1回どこかで試すべきだが。前に乗ってるアリーやセレナも居るしなあ。
やっぱり、あれでやってみるか。
「止まるぞ」
手綱を引いて、砂漠牛を止まらせる。
【屈め!】
前脚を折って、後脚を折って腹這いになった。
「おおおぅわ……墜ちるかと思った」
珍しくアリーが慌てて、首にがっしり抱き付いてた。
「ここにいてくれ」
「あっ、危ないの?」
「100ヤーデン離れるから、大丈夫だろう」
「ふ~~ん。行ってらっしゃい」
信用されてないな。この前やらかしたからな。
歩いて、見付けた場所に近付く。おお、いつものとこより砂が柔らかい。この辺で良いか。
振り返って、手を振る。アリーが振り返す。
じゃあ、やってみますか。
右手を突き出す。一気に行かないとな……丹田に魔力を降ろしつつ、高まるのを待つ。
おお……螺旋状に渦巻きながら、沸き立ってくる。
今だ!
【魔収納!!】
砂が忽然と消えた。いや俺が消し去ったのだ。
居た! 女王だ!
突如生じた大穴の中に、巨大な大砂虫がのたうち回る。さらに下に潜ろうとしてる。
逃さん!
脳裏に魔術を想起──
左腕の周りに、冷気が渦巻きはじめ。
【氷晶金剛!!】
刹那に周囲が霧に包まれ、螺旋を描く。瀑布の如く迸った冷気は、女王砂虫を直撃。
窪底ごと、白く塗り込める。身動きひとつしない女王陛下に向け──
【衝撃!】
粉々に砕け散った大砂虫は、皓く輝きながら消えた。
やば! 落ちる。
【解除 魔収納!!】
咄嗟に消した砂で大穴を埋め、落ちずに済んだ。
ふう……。
結構やばかったな。中級魔術を連発すると結構来る。
肩で息をしていると。
「ラルちゃん!」
「おお!」
すぐ横にアリーが居た。
「今、砂が消えてまた出てきたよね?」
「はあ、収納魔術だ」
爺様から貰った魔術鞄を再び使い始めるときに魔石が魔力切れになっていたので、交換したのだけど。その時、発動した刻印魔術を瞬間記憶した。
そして、研究と研鑽を積んだ、術式改変技術を使って新魔術を創ったのだ。魔術鞄に頼らない収納魔術、と呼んでいる(そのままだな)。
魔力供給の源泉を魔石ではなく術者自身、境界を鞄の口ではなく意図した任意の空間に変更したというわけだ!
「はあ? どんだけ入れられるのよ、その鞄」
「いや鞄じゃないけどなあ」
「ふーん。で、仕留めたの?」
本当に移り気なヤツだ。
「ああ」
片手では持てない程の、金色の魔結晶を捧げた。
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2019/06/29 誤字訂正(ID:496160 様ありがとうございます。)
2019/08/10 通貨単位:シリング→スリング




