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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
4章 青年期I 上京編
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51話 入学

ああ、ラルフ君。羨ましいよ。魔術もそうだけど、人の名前を憶えられないんだよなあ。

一番羨ましい!!

 修学院への入学の朝が来た。

 このところ中級魔術の分析結果を、下級、初級魔術に応用する研究を夜な夜なして。昼間は砂丘で実験を繰り返していたら、あっと言う間に今日だ。昨日は風属性も、光属性も上手く行き始めた。


 起きて食堂に降りる。

 10人以上は余裕で座れるテーブルの端、短辺に置かれた豪華な椅子に腰掛ける。


 セレナも付いてきて、足下に寝そべった。

【床は冷たくないか?】

 眼が合う。


「ワッフ」

 冷たくないらしい。腹に脂肪が……。

「ワッフワッフ!」

「ふっふははは」

 念を込めてないのに、察して否定してきた


「おはようございます。ラルフェウス様」

 ローザが眼を細め、上機嫌で奥の厨房から出てきた。


「今日から学校ですね。おめでとうございます」

「ああ。ありがとう」


「……今、朝食をお持ちします」

「うん」


 お盆を持って、ローザが近寄ってきた。

 パンとゆで卵、サラダ、湯気を立てるスープ。


「それから、こちらはドロテア夫人からです」

 シュテルン村では見たことない、立派で高価そうな林檎が、いくつも盛られた鉢を置いた。


 むうぅぅ。

 入居以来、大家である子爵家からなにかと物が届く。


「ラルフェウス様。夫人から次は何時来られるか、訊いて置いて欲しいとのマーサ殿からの伝言です。多分今日も見えると思いますが」


 あのメイドさんか……。

「じゃあ、明日の午後に伺うと告げてくれ」


 今日行っても良いのだが、いきなりでは失礼だし、かと言ってあまり時間を置くと姪御さんの都合を付けられやすいからな。


「よろしいのですか? 学校が……」

「ああ、授業は暫く昼までで終わるから」


 修学院での授業は、基本午前中まで。午後は自主研究と聞いている。

 おっ、このスープ、凄く美味い!


「このスープ、野菜の甘みが出ていて、とてもおいしい」

 戸口に立っている、ローザがにっこり微笑む。

「それは、ようございました」


 いやあ、微笑むと艶然さが倍加する。

 こんな館で、綺麗で料理上手なメイドさんに(かしづ)かれて、考えてみれば夢のような話だ。


「ぁぁぁあ”あ”……」


 その気分をぶち壊す声が近付いてきた。


「お姉ちゃん、お水! お水頂戴。あっ、おはよ。ラルちゃん」

 アリーだ。


「ああ、おはよう……ってなんて、格好しているんだ!」

 薄いボディスだけ羽織って胸が露わ……それに脚が丸見えだ。

 眼福だが……目のやり場が。


「へへぇ」

 俺にぎごちなく笑いかけて、そのままテーブルに着いて突っ伏した。


「ううむ。頭痛いぃ」

「昨夜、ワインをあんなに飲むからだ!」

「ぇぇええ。折角もらったんだから飲まないと。アリーちゃん、大人だもの…痛たた」


 はあ。ミストリアの法では、そうだが。


 しかし、このスープ旨いなあ。パンともよく合う。お腹一杯になった。


「あれ? お姉ちゃん。お水は?」

 ローザは、全く動いていなかった。


「飲みたければ、自分で汲んで飲みなさい。それから、アリーは、罰として朝食抜きです!」

「ぇぇええ。何で?! あたたた。頭痛い」


「記念すべき日にそんな姿で、食堂へ来るからです。それと、洗濯物が溜まっているでしょ。自分で洗いなさいよ」

「うわぁぁぁん。お姉ちゃんが(オーガ)になってるよ、ラルちゃん」


 ローザが無言で近付いて来て、ナイフを手に取る。

「うわっ、刺される」

「朝から、馬鹿なことを言うんじゃありません」

 そう言いながら、林檎を1つ掴んで剥き始めた。


「ふえぇぇえん。あいたたた……アリーちゃんの頭が割れるぅ」

 うるさいな。


「はい。どうぞ、ラルフェウス様」

 綺麗に8等分してくれた。

「ありがとう」


 あいかわらず、妹の方は、横で騒々しくしている。

 少々鬱陶しい。 


「アリー!」

「なぁに? ラルちゃん」

「その頭痛は、治癒魔術で治るぞ! 知らないのか?」

 二日酔いは、体内の毒素で痛みが出ているからな。毒対策で治る。


「えっ?」

 ぽかーんとした顔だ。


「いっ、いやだなあ、そんなの……」

「アリー、顔真っ赤だぞ」


「……知りませんでした」


治癒(サナーレ)!!】

 アリーは、自分の手から出る光の微粒子を浴びている。なんだかとても間抜けだ。

 終わったようだ。


「おっ……おう。痛くない! 頭痛が治ったよ。やったぁ。ラルちゃん大好き。これで、どれだけ飲んでも大丈夫! あっ、その林檎おいしそう。頂戴! シャクシャク……」


 直った途端に、食欲かよ!


「で、ラルちゃん。今日は、何時に帰ってくる?」

「12時半だな」


 修学院は、ここから歩いて10分程のところにある。普通に帰って来れば、そんなものだろう。


「じゃあ、お昼食べて。今日も狩りに行こうね」

「ああ。先にギルドへ寄るけどな」

「ギルドぅ? そっか、昨日獲った魔結晶を換金しないとね! ねえ、ラルちゃん! お金入ったら、一緒に行ってもらいたい、お店があるの……」


 昨日は、久々にアリーも付いて来た。終始つまんないと言っていたが……。


「アリー!」

「何? お姉ちゃん」

「アリーは、お金を戴くに値することを、何かしているの? 魔獣と闘っていないのでしょ!」

「うぅぅ……」


「まあ、まあ。アリーには、緊急時には役に立って……もらったことは、最近あまりないけど」

「えーー」

「気分的に助かってはいるから、ちゃんと分け前は渡すさ。ローザにだけど」

「おわぁぁ。そりゃ、ないよぅ……」


「話を戻すが。買い物は、次の休みだ。明日は、子爵様の館に行くし」


「ぇぇええ!! あそこに行くの?」

「夫人から、何度も言われているし……昨夜、アリーがガブ飲みしたワインも、その林檎も夫人に戴いてるからな」

 ローザに剥いて貰った分では足らず、シャクシャク丸囓りしている。

 ゴクッと飲み込む。


 ブーーーー!!!


 アリーが唸っているが、無視して立ち上がる。


「あなたは、ラルフェウス様が、学校へ行って見える間、家事なり仕事なり、何かやることを見付けなさい!」


 そろそろ時間だ。


     †


 館を出て、街路を学校へ向かう。


『行ってらっしゃいませ』

 ローザがセレナと一緒に見送ってくれた。


 僅かな坂を登り、校門へ近づいて居るはずだが、登校してくる生徒らしき人影がない。


 日時合ってるよな……?


 校門を入り、校庭の周りを歩いていくと、向かって右から左に人の流れある。どうやら俺と同じ新入生らしい。あっちにも門があるのか?

 道の傍らにあった小さい立て看板には、講義棟と書いてある。

 こっちで良いようだ。


 第2講義棟。ここだな。

 玄関に入ると数人の生徒が立っていて、来る生徒、来る生徒に声を掛けている。行き先を告げているようだ。


「あれ? 君も新入生?」

 どうやら先輩のようだ。じっと俺の顔見ている

「はい。神学科です」


「寄宿舎では、見たことがないけど?」

「ええ、寄宿舎には入っていませんから」

「そうなんだ。ああ、神学科は2階の第2教室だから」

「ありがとうございます」

 そうか。さっき、同級生が来た方向には寄宿舎があるんだ。


 階段を昇って、第2教室に入る。 

 手前から階段状になっている教室だ。

 既に、10人以上の生徒が居た。おっと。女子も居る、共学か。


 既に何人かずつ集まって、話をしている。

 机の方に近付くと、なんだか視線が追ってくる。みんなから睨まれている気がする。

 席は自由席のようなので、空いていた2列目の窓際に荷物を置く。その間も何対かは、ずっと視線が途切れない。


 状況がよく分からないので、手近な男子に話しかけようとしたときに、さっき入ってきた扉が開いた。

 教師だろう、成人男性が入ってきた。

 耳が長い。エルフか?


「みんな席に着け。出席は……ガドル、アネッサ、フェイガス……サリエルっと」

 教師は14人の名前を喋った。

 そう、呼んだわけではない。

 既に顔と名前が一致しているらしく、教室の端から、ささっと確認しているだけだ。

 そして、こっちを向いた。


「君がラルフェウス・ラングレン君だね」

「はい」


 消去法……俺の名前と顔は一致していなかったわけだ。


「そうか、そうか。じゃあ、立って」


 ん?

 状況が再び飲み込めない。


「ああ、みんな。この男子が誰だろうと思っているだろうが。寄宿舎生じゃない」


 ああっと、声が後ろから上がる。続いて、家名持ち……貴族? えっ、お坊ちゃま? とか聞こえてきた。


「ラルフェウス君。神学科の新入生は、君を除いてみんな寄宿舎に入っている。大体5日前から入舎しているから、既にほぼ顔見知りになっているんだ」


 そういうことか。


「じゃあ、皆に自己紹介して」


 はっ?

 いきなりか。まあ、仕方ない。後ろを振り返る。


「ラルフェウス・ラングレンです。出身はスワレス伯爵領。家名持ちという言葉が聞こえてきましたが、貴族と言っても準男爵家の者ですから、別段気を遣って戴く必要はありません。よろしく」


「うむ。私は神学科1年担任のバナージだ。よろしくな」

「はい。こちらこそ」


「それでだ。君の同級生は、左からガドル、アネッサ、フェイガス……サリエルだ。憶えたか?」

「ええ」

「「「ええ?」」」

 は? どうした?


「じゃあ、彼は?」

 先生が、黒髪の男子を指した。何がやりたいか知らないが。

「グネウス君」


 スゲー。即答かよとか私語が聞こえてくる。


「じゃあ」

 女子を指差した

 結構可愛い容姿だ。なんだか耳の形に違和感がある。中間種かも知れないな。


「アネッサさん」

「当たりーー!」

 本人が大声で答えた。


「先生!」

「なんだ? アネッサ」

王都(スパイラス)城内に住めるのは、貴族なら子爵以上のはずですが、ラルフ君はどこに住んでいるのですか」


「3年もつき合うことになる級友だ。教えてやっても悪くはないと思うが」

 バナージ先生が口添えした。


「はあ。東街区ロータス通り2丁目です」


 ロータス通り? 高級住宅街じゃない! ここから10分くらいの所だ!


 私語が続く。


「はぁーい。それぐらいにしろ。後は休み時間にな」

皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


コメント

「その間も何対かは、ずっと視線が途切れない。」に誤字指摘を戴きましたが、このままにしたいと存じます。ありがとうございます。



訂正履歴

2019/08/04 既にギルドへ換金に行った記述は53話と被り,矛盾があるので抹消。 (ずんずくさん ありがとうございます)

2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

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